第6話「人間一人、人格二人」
「予想通り、円はお前を選んだな」人間一人、人格二人の自室で、もう一人の俺は全てを見透かした様に話しかけてくる。
「俺にとっては想定外だったけどな。今回の芝居は登場人物が五人しかいないから否が応でも全員がそれなりの量の台詞を喋ることになる。全員に出番のあるような演目にほとんど初心者みたいな俺を選ぶとは思わなかったよ」謙遜ではなく本音を話す。そもそも自分自身に謙遜したり嘘をついたりする必要もないのだが。
「円はお前を主役に据えた時にどんな役者を周囲に配置すればこの脚本が活きるかを必死に考えながらオーディションに臨んでいたよ。ぶっちゃけるとお前の演技力に一切の期待を抱いていないから脇だけは固めてやろうという魂胆にも見えたけどな。口では牽制じみたことを言っていたけれど、実際は最初からお前の言うことを聞くつもりだったんじゃないのか」もう一人の俺が全てを見透かしたように言う。
「身も蓋もない言い方だな。でも確かにお前の言う通り、円は必死に何かを掴もうとしていた。これまでも舞台の本番を見据えてあれこれと考えを巡らせていたけれど、今回はいつも以上に頭を使っていた。いつになく真剣に考えてくれていて本当にありがたい」
「礼を言うのはまだ早いんじゃないか。それに結果でその感謝を表現することこそがお前らなんじゃないのか」
こいつは何でも知っている。それに洞察も鋭い。俺の中から生まれたとは言え、俺に考え付かない発想をバンバン出してくる。果たしてこいつは一体何者なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます