3夜 泣くスピーカー (SS)

先日Amaxonで注文したPC用スピーカーが届いた。

僕が注文してから3か月以上は経過していた。

今あるスピーカーが壊れているわけでもないのに、残り1点!という煽り文句に釣られてポチってしまった。

オレンジ色のスピーカー。

ところがあるはずの在庫がないのか、いつまで経っても発送されてこない。

お金払っちゃったし、キャンセルするとポイントとかで返ってきたりしたら嫌だなぁ……などと考えながら待つことにした。

———いや、正確には注文したことを忘れていた。

見慣れたロゴが印刷されている段ボールをビリビリと開け、透明なラッピングを剥がすと確かに僕が3か月前に注文したスピーカーだ。

「いやー、やっときたか!」

僕は誰に言い訳するわけでもないのに一人そう呟くと、早速新しいオレンジ色のスピーカーを接続した。

「さてさて、どんな音で鳴いてくれるか楽しみだ」

通販で届いたものってどうしてすぐ試してみたくなるんだろう。

僕はまず最初にお気に入りのジャズ風バラードをかけることにした。

高音のキラキラした音から入り、重厚感あるウッドベースに軽やかなピアノ、さりげなく響くドラムス、そして響き渡る女声。

一通りの音域を網羅して、聞きなじみもあるこの曲にしよう。

そうして僕は音楽ソフトを開くと曲を流し始めた。

~♪

ああ、なかなかに良い音がする。少し値は張ったが良い買い物をしたな……などとちょっとした感動に浸っていた時だ。

「……ッう……ッうぅ」

(———?)

なんだ、ノイズが混じってるのか、もしや不良品か?

耳を澄ませて音楽に集中するほど、その雑音は良く聞こえてくる。

「え、故障?!3か月も待って不良品かよ!」

僕は慌てて説明書を引っ張り出し、困ったときは?の項目を探し始めた。

「ッう、ッうぅ……僕は壊れてない、ッスよ」

―——え、今誰かしゃべった?

いやいやいや、聞き間違いだろ。お隣さんの声かな?

そっと壁に耳を寄せてみるも、隣の部屋からは何も聞こえてこない。

「なにをやってるッスか、僕です、僕ですってば……」

なにやらスピーカーから声がする。

「そうか、わかった。通話アプリを入れっぱなしにしてたんだな!」

「違うッス、僕が、スピーカーが喋ってるッス、うぅ……」

何やらこのスピーカー、ジャズ風のバラードに乗せて人と会話しているようである。

僕の頭は一瞬ショートし、再起動するのに時間がかかった。

「———って、うわあああああああああああ!」

「ぎゃあああああああ!何事ッスか!」

キーンと耳に響くノイズが部屋中に響き渡る。

「何事じゃないよ、え、なに、誰だお前!」

「だからスピーカーですってば!うぅ……」

へ、このスピーカー喋るの?!

「スピーカーって泣くの?」

「っうぅ……だって、ご主人がどんな音で泣くんだろうっていうから」

「そういう意味じゃないだろっ!」

とツッコミをいれつつも僕は自分でも驚くほどあっさりとその状況を受け入れ、いや受け入れざるを得ず。

よく泣くスピーカーとの共同生活が始まった。

このスピーカー、話せばいいやつで、音楽を聴いて一緒に感動したり、映画を見て感想を言い合えるおちゃめなだが泣き虫なスピーカーだった。

僕はすっかりスピーカーが気に入って、いつも必ずそのスピーカーで音楽を聴くようになった。

ただ一つ、このスピーカーに欠点があるとすると、感動のあまり泣き出してショートしてしまうことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る