高等部2年3組 桔梗と雛菊

「うっふふふふっ……❤」 


 今日は7月最終週の金曜日、時間は午後3時30分。私こと多摩橋桔梗たまはしききょうは図書室に自分用のノートパソコンを持ち込んでいた。画面はワードソフトで、夏休みの文芸部の集まりで提出予定の短編小説を書いている。


 別に教室にももう人はほとんどいないからやってもいいんだけど、図書室を選んだ理由、それはの事情がある。


(やっぱり学園物の百合小説を書くとなると、図書室で掻くと捗るなぁ~❤)


 図書室には独特な魅力がある。静寂な空間で、可能な限り声を出さずにいることをマナーとするこの環境で、2人の女の子が互いに逢引きをする……なんてシチュを考えだしたら色々と妄想が止まらんっ!


 そして妄想の赴くまま、私はキーボードをたたき続けた。


(シチュエーションは抜群っ! キャラクターの魅力も文句なしっ! っと思ってたけど……)


 そこで止まってしまった。手の動きにも妄想にも急ブレーキが掛かってしまった。


(……どういうやり取りを書けばいいのか、思いつかない……)


 なんてこった。書きたい内容で一番大事な、欠かすことのできない部分が思いつかないとは……。


(ううっ、ここまででいい展開になってきたのに……‼︎)


 勢いとノリは間違いなく大事。けどその流れに合う展開にしなければ物語は破綻する。これは困った……。


「はぁ~。少し早く来過ぎちゃったから、ここで休もうかしらぁ~」


 ん? 誰かが図書室に入ってきた。基本的に図書室は扉が開きっぱなしだから誰かが入ってきたかは足音がしない限り分からないけど、この声は私にとってよく聞く女の子の声だ。


 ちなみに今私がいる場所は図書室の入り口から三つの本棚を挟んだ窓際の席なので姿は見えない。


「あら? 何やら可愛い女の子の気配が……」


 ああ~……やっぱりだ。


「あら~? 誰かと思いきや桔梗ちゃんじゃなぁ~い❤」

「今日はいつもより早いね、大杉さん」


 ウェーブのかかった栗色のセミロングの髪。白い肌。そして制服は胸元をがっつり開けて巨乳を紫のブラジャーと共に露出させ、同じ色のショーツが見えるか見えないかくらい短いスカートを履いた、私のクラス一番の美少女・大杉雛菊おおすぎひなぎくさんだった。ここに来たのは今日の放課後にある図書委員会の仕事があるからだろう。


 でも図書委員会って4時からだよね? 私もあと20分はここを使おうと思ってたから確かに早すぎと言えば早すぎ。


「文芸部の2年生でも一、二を争う百合小説の名手、もしかしてここで新作を書いてたってとこかしらぁ~❤」

「うん、正解」

「ふふふっ、予想通り❤」


 見事的中。こういうところは本当に鋭い人だ。


「今日はお気に入りの女の子がみんな予定が入ってて戯れることが出来なかったから、仕方なく図書室で読書でもと思ってたけど、まさかあなたがいるとは思わなかったわぁ~」


 大杉さんはクラス一番の美少女ってだけじゃなく、学年でもトップクラスの女の子好きだった。先輩後輩同級生問わず、いろんな女の子と交流があるってことで知られてる。ついでに言えば私の百合小説の愛読者の1人なの。


「そう言えば、例の新作って何時できるか聞いてる?」

「うう~ん。7割くらいは出来たかな。何時って言うのはまだ何とも……」

「締め切りって?」

「夏休み最初の部活だから、来週の土曜日かな? それが終われば8月中の部活で印刷できるから、それからだと思う。まぁ、ちょっと詰まっちゃったけど」

「どうして?」

「いいシチュエーションが思い浮かばなくて……」

「ふぅ~ん。これは考えようによっては僥倖ね……❤」

「へっ?」


 どうやら大杉さん、何かを思いついたみたい。


「ねぇ、私の委員会が終わったら、寮の私の部屋に来てくれない?」

「いいけど、何かいいアイデアでもあるの?」

「ふふっ、その通り❤ 終わったら桔梗ちゃんのスマホに電話するからねっ❤」

「分かったわ。待ってるわ」


 という訳で、私はデータを保存してノートパソコンの電源を落とし、大杉さんの委員会が終わるまで学校の外で待つことにした。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 委員会が終わったのは午後4時40分。それまでの間私は校庭の端にある白いベンチに腰を下ろしてスマホをいじっていた。


 今私が見ているのは百合漫画・小説・イラストをプロ・アマ問わず投稿している「百合の園」と言うサイトだ。アプリもあって私はそっちの方を使っている。登録者が500万人を超える国内最大の百合専門サイトだ。ちなみに私はこっちにも小説を短編20作、長編3作を出している。このサイトは閲覧数が多ければ広告収入が入るので、私が百合小説を書く際のモチベーションを支える1つになっている。


 で、今の私は全ての作品を合計して一応広告収入がお小遣い程度だけど入るくらいの閲覧はされている。


(今日も狭山さやま先生の百合小説、面白いし参考になるなぁ。でも、私の書きたい小説のアイデアに繋がらない……)


 この先生はアマチュアの中でもトップ10に入る有名作家さんで、近々プロデビューが決まっている。私もこの人ぐらい上手になれればなぁ……。


「お・ま・た・せぇ~❤」


 そうこうしてると、大杉さんが大手を振って私の所へ駆けつけた。


「はぁ~。やっぱり夏は暑いわねぇ~❤ まぁ南美島なんびとうは年がら年中暑いけど❤」

「でも大杉さん、なんだか嬉しそう」

「そりゃあ、可愛い桔梗ちゃんとこれから一緒にいるんですもの❤ 私が桔梗ちゃんに力を貸してあげるわ❤」

「ありがとう、じゃあ部屋に案内してね」

「了解~❤」



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 寮に到着すると、私は大杉さんの部屋に入り、彼女はクーラーを付けた。


「到着~❤ じゃあ桔梗ちゃん、ノーパソはそこの丸テーブルの上に、他の荷物は私のベッドの上に置いていいわ」

「ありがとう」


 という訳で、私は鞄からノートパソコンを取り出して部屋の中央の丸テーブルに置き、鞄は入口から見て左手にあるベッドの上に置いた。大杉さんも同じように荷物を置き、私と一緒に丸テーブルの前に正座した。


「で、大杉さんのアイデアってどういうのか聞いてもいい?」

「ええ❤ アイデアを生み出すには、やっぱり実体験が大きなきっかけになると思うの❤」

「えっ、実体験……って、きゃあっ❤」


 私は気づかないうちに大杉さんに抱き着かれ、そのまま床にゆっくりと押し倒された。


「も、もしかして……」

「うふふっ💕 桔梗ちゃん、百合が好きならこういうのも好きでしょ?」

「ま、まぁ、百合小説でシチュエーションとかスキンシップとか、それ以上を書くときはめちゃめちゃ妄想してたし、百合の園で読んだ漫画とか小説とかを見てキャラを自分に置き換えたりしたりしてたけど……」

「じゃあ、実際にやってみて分かることもあるんじゃない?」


 そう言いながら大杉さんは右手で私の胸を揉み、左手で制服からむき出しの私のお腹に手を這わせる。


「うう~ん💕 この緑がかったセミロングの髪、本当に素敵ねぇ~💕」

「……ふっ、ふふふっ❤」

「桔梗ちゃん?」

「これは私の中の百合エネルギーがふつふつと湧き上がってきたかも💕」

「でしょ~💕 じゃあ次はこっちの方ね💕」


 そう言いつつ、大杉さんは私のスカートをめくった。


「ピンクね💕」

「う、うん💕」

「ねぇ、桔梗ちゃん」

「な、なに?」

「私のこと、名前で呼んで💕」

「……ひ、雛菊、さん」

「さん?」

「……雛菊、ちゃん」

「合格っ💕」

「雛菊ちゃんっ💕」


 私は今度は雛菊ちゃんを押し倒し、右手で胸を思いっきり揉み、左手で太ももに手を這わせた。


「受けばっかりだといいアイデアが浮かばないわ。今度は攻めよっ💕」

「ふふっ、じゃあいろんなアイデアが浮かぶようなコト、いっぱいしましょ💕」

「うんっ💕」


 後日、私は雛菊ちゃんとのアレコレの中で浮かんだアイデアを小説に叩き込んだ。今まで以上のペースで進んだそれは私の最高傑作になったけど、流石に文芸部が二ヶ月に一度出すミニコミ誌にはどう修正しても載せられないってことで没になった。まぁ、部長と副部長には大好評だったし、勢いに任せて書いたもう1作品は修正すれば大丈夫だったから助かったわ。


 ちなみに没を食らった力作は百合の園に掲載したんだけど、閲覧数は月間ランキングの上位10位に食い込んでいて正直びっくりした。本当に雛菊ちゃんには感謝してもしきれない。ついでに言うと私と雛菊ちゃんはこれがきっかけで付き合うことになった。これからも二人三脚で頑張っていこうって口説かれちゃったんだもの。惚れるなって言うのが無理ゲーよ。


 ふふっ、私の方からも、これから一緒に頑張ろう、雛菊ちゃん❤

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る