高等部3年1組 マリアとあかり①

「であるからして、この公式を当てはめることで解くことが出来ます……」


 3時間目の数学Ⅲの授業。私は黙々とノートを取っていた。一応予習していた分野だけど、授業で先生の説明を聞くか聞かないかはテストに大きく影響するから決して疎かには出来ない。


「ではフィーベルトさん、この問題を解いてください」

「はい」


 数学担当の眼鏡をかけた女性の先生に呼ばれ、私はすくっと席を立って黒板の前に立ち、チョークを握ってスラスラと回答を書いた。


「正解です、流石はフィーベルトさんですね」


 先生に褒められながら、私は静かに先生にお辞儀をして席に戻った。クラスメートもみんなが拍手してくださる。とは言え、油断はできない。どんな教科であっても手を抜かず、100点を取ることをまず第一に考える。それが私、マリア・フィーベルトがだから。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 放課後になり、私は教室で鞄に教科書とノートを詰めて帰ろうとしていた。


「マ~リ~アっ‼」

「ひゃあっ」


 突然私を背後から抱きしめ、両胸を揉む手に襲われた。


「あ、あかり……‼」

「ん~ん❤ マリアの巨乳は相変わらず揉みごたえがありますなぁ~❤」


 誰かと思いきや、同じクラスで私と同じ保健委員会に所属してる東城あかりだった。


「あなたはいつもいつも……‼」

「だってぇ~、今日のマリアってばむすっとした顔してて怖いんだもぉ~ん❤」

「わ、私は別に好きでこんな顔をしてる訳じゃないわよ!」

「ほらほら怒んないのぉ~。せっかく西洋人形みたいな綺麗な顔が台無しだよ~」

「西洋人形って、まぁ生まれはウェールズだけど……」


 名前から分かるように私は日本人ではない。厳密に言えば私の母方の祖母が日本人なので4分の1で日本人の血が流れている。日本に来てからも日本語に全く不自由がなかったのも、祖母に小さい頃から日本語を学んでいたからなの。


 そして私が日本に来たのは、日本にある世界でも有数の消化管系の外科医を抱えている彩桜女学院医学部への進学の為。理由はその祖母が私が10歳の頃に大腸がんで亡くなったのが切っ掛けで、祖母と同じような病を抱える人達を助けたいと考え、海を渡って日本に来たの。


「それにしてもマリアって本当に凄いよねぇ~。中間テストは学年1位だし、理数系はほぼ満点だなんて」

「将来の夢の為に、今できることを最大限やってるだけよ。それに理数系なら私よりも上だったじゃない」

「あっ、ははぁ~」


 あかりはそう言いながら照れくさそうに頭をポリポリ掻いた。総合成績では私が上だけど、理数系では私よりも上の成績だ。見た目は紅葉色のセミロングの髪をツインテールにしてにこにこ笑顔が特徴的な天真爛漫少女だけど、心臓外科医のお父さんの影響を受けて医者を目指してるだけあってしっかりしている。


 私とあかりは入学してからずっとクラスメートであり、同じ保健委員会に所属しているのもあって結構仲がいい。特にあかりは体育祭の時とかに怪我人が出たら私以上に対処が早くて丁寧だから、本当に感心する。


「それでマリア。大学部への編入学の方は大丈夫そう?」

「十分射程範囲内よ。でもこの前の三者面談の時、先生から別の大学も選択肢として考えてみたらって言われたわ」


 あかりに話しながら、私は三日前に来日した母親とした三者面談のことを思い出した。いい医学部なら日本国内だけでなく、海外にもたくさんある。英会話もできるならアメリカでも母国である英国に戻ってもチャレンジしてみたらというのが先生の意見だった。


「この学院の大学にある医学部には、消化器官系の外科医で世界でも一、二を争う腕を持つ医者がいるの。私はその人に師事して、将来ウェールズに戻ってその技術で多くの人々を助けたいの」

「流石マリアね。私はもうちょっと偏差値の低いとこに言ったらって言われたけど、マリアの話を聞いてたらもっと頑張って可能性を広げなきゃってやる気が出たわ」

「あかりが行こうと思ってるのはここの大学の医学部でしょ? 成績的に大丈夫だと思うけど」

「うん、でも今の偏差値だともうちょっと成績上げた方がいいって言われたの」


 彩桜女学院の大学は医学部も含めて法学部や文学部など15以上の学部があって、中・高以上に多くの学生が外部から来るから学生数も多い。特に医学部は内部進学でも上位成績を維持しないとすんなりはいかない。ちなみにあかりは滑り止めの大学も焦点に入れてるんだけど、第1志望はこの大学の心臓血管外科学部だ。ここも実は世界で有数の名門だと有名だ。


「色々頑張ってるんだけど、あともうちょいなんだよね……」

「中間テストの時は体育祭実行委員とかもやってたし、保健委員の仕事も含めてやろうとするとなかなか時間が取れないんじゃないかしら?」

「うん。だから今度の期末テストでもっと点数を上げてやらないとっ!」


 あかりはガッツポーズを見せて言い切った。十分あかりも上位成績者だけど、私と同じかそれ以上の偏差値にならないと、お父さんみたいな心臓外科医にはなれないって言ってたわね。


「次の期末テストは1ヶ月後だけど、時間を見つけて勉強会をする?」

「うんうんっ! 次こそは5位以内に入らないとっ!」

「ふふっ。そういうところは本当にあかりらしいわね」


 そう。あかりはどんな時でも名前の通り明るいし切り替えも早い。こういうところは私にはまねできないなぁと思う。


「……とは言っても、今すぐってなるとエンジンがかかりにくいんだよねぇ~」

「じゃあ頑張るのは明日からにして、今日はちょっと気分転換でもしてもいいんじゃないかしら?」

「おっ、流石はマリア。話が分かるじゃんっ! じゃあ付き合ってくれる?」

「そうね……じゃあ桜町商店街に行ってみる?」

「OK!」


 という訳で、私とあかりは放課後に商店街で散策をすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る