高等部2年1組 明日葉とみなみ

「もう少しで出来そうかな……」


 7月の終わり、期末テストも終わり、夏の夕日の日差しが窓から指す家庭科室で1人そんな風に呟きながら、私、青鳳院明日葉せいほういんあすはは作業を続けてた。


(凝っていたら時間が掛かっちゃった。今月中には完成させたいなぁ)


 物思いにふけながら作業を続けてると、ガララっという音が家庭科室に轟いた。誰かが扉を開けたんだ。


「明日葉~」

「あ、みなみちゃん」


 入ってきたのはクラスメートであり、ルームメイトであり、同じ手芸部に所属する端山はしやまみなみちゃんだった。さっきまで保健委員の集まりだったんだ。


「そろそろ出来そう? 例の服」

「うん、水色のワンピース。出来たら着てみようって思ってるの」


 そう言いながらみなみちゃんは作業をしてる私の机に近づいて覗き込んだ。


「うわ~。やっぱり明日葉って上手だよね~」

「でも、みなみちゃん程上手じゃないわ。作業だって遅くなっちゃったし……」

「私は明日葉みたいに細かいところまで作る技術がないから、基本通りにしかできないだけだよ。明日葉が作った服とかを見てると、アレンジも素敵でまだまだだな~って思うよ」


 そういって照れくさそうに頬をポリポリと指でかくみなみちゃん。でも技術じゃ私より上だし、基本もしっかり抑えて服を作ってるから早く完成させてる。成績だって私と互角だわ。


「ねぇ、その服が終わったら次何作る?」

「まだ決めてないわ。でもそうね……今度は編みぐるみを作ろうと思ってるわ」

「いいじゃん♪ 明日葉の作る編みぐるみってめっちゃ可愛いの作ってんじゃん!」

「そ、そう?」

「うんっ! この前作ったウサギの編みぐるみも超可愛かったよっ!」

「あ、ありがとう」


 それは5月に手芸部で作った作品だ。実家で飼っている白ウサギのアリアをイメージして作ったもので、私はその編みぐるみを筆記入れにキーホルダーにして付けている。


「私も明日葉に作ってもらった黒うさぎのキーホルダー、とっても気にってるんだよっ♪」

「ふふっ、ありがとう。気に入ってもらえて嬉しいわ」


 そう、同じデザインだけど、黒の糸でその編みぐるみを作ったの。白と黒で対になるの。みなみちゃんは私と同じ手芸部でクラスメート。そして私がこの学校の中等部に入ってから最初にできた友達なの。でも高等部に入ってからはを意識するようになったけど……。


「あっ、そろそろ6時になっちゃうからキリの良いとこで切り上げないとヤバいんじゃない?」


 黒板の上に掛かっている時計の針は午後5時近くを指している。うちの学校は部活動をやる場合は午後の6時が最終下校時間になる。


「そうね。続きは次の部活の時に終わらせるわ」

 

 そう言いながら私は片づけを始めた。


「私も手伝うよっ!」

「ありがとう、お願いね」


 みなみちゃんも手づ立ってくれたおかげで、20分で片づけを終えて部室を出ることが出来た。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 6時を過ぎたとはいえ、夏の日差しはいまだに沈み切っていない。ジンジンと暑さを私達の肌に与える熱気は健在だった。学院の外に出て私達が住んでいる寮に戻る途中にある砂浜も熱そう。


「はぁ~! それにしても夏休みはどうしよう?」

「手芸部の集まりとか色々あるわね……」

「実家に帰るとかは考えてないの?」

「お母様とお父様から私の携帯に連絡があったわ。8月に入ったら実家に顔を出してほしいって」

「明日葉のパパ達だったら、この学院まで自家用ヘリを飛ばしてきそうだね」


 そう言われて私はハハハッと苦笑いした。私は日本でも有数の企業体「青鳳院グループ」の総帥の三女。一番上のお姉さまは次期総帥を目指され、縁故に頼らずに面接を受けてグループ企業の一社に入社され、20代にして係長に出世したエリート。


 2番目の姉は一番上のお姉さまと違い、実家を出た上でフランスのパリでモデルをしている。既にいろんな雑誌でも紹介されるトップモデルになってる。お姉様達もお父様も、皆実力も人望の凄い方々だわ。


「服飾デザイナーの夢に、近づけてる?」

「まだ自信はないわ。お父様やお姉様達に比べて才能の乏しい身。まだまだ力量不足を感じてるわ」

「そうか、なっ」


 そう言いながらみなみちゃんは突然砂浜に駆け出して行った。


「みなみちゃん?」

「よっと……」


 途中で手提げ鞄を砂浜に投げ捨て、波打ち際まで来たみなみちゃんはローファーと靴下を脱いで裸足になり、海に入っていた。


「ひゃ~‼ 気持ちいぃ~‼ ねぇ~‼ 明日葉も来なよぉ~‼」

「えっ、えっ?」


 いきなりのことで何が何やら混乱する私。


「ほらぁ~‼」


 そんな私を見かねたのか、みなみちゃんは私の手を引いて波打ち際まで連れてきた。私は手を引かれる中で鞄を砂浜に置いて波打ち際までやってきた。


「明日葉も入ろうよ~! すっごい気持ちいいよっ!」

「も、もうみなみちゃんったら強引すぎるよ~」


 戸惑いつつも、私もローファーと靴下を脱いで裸足になり、海に足を付けた。


「きゃっ、冷たい……」

「でも足の指の間に砂がついてきて不思議に感じするでしょ?」

「う、うん」

「ふふっ、明日葉ったらあんまり海に入らなかったよね。ここの学校の子達も周りの大人の人達も、みんなここの砂浜で遊ぶことが多いのに」


 不思議そうな表情で私を見つめるみなみちゃん。でもあんまり海に行かなかったのには理由がある。


「……ずっと自分のデザイナーとしての技術を身に付けなきゃって頑張り続けてきたからかな……。学校の課外授業とかでもない限りここには来なかったわね」

「友達と遊ぶのだって、私と一緒の時以外はなかったでしょ?」

「ええ」

「でもクラスのみんなも、明日葉の作った編みぐるみとか服とかがすごく可愛いって、素敵って言ってくれるじゃん。ってことは、明日葉はお姉さん達に負けない実力を持ってるってことじゃない?」

「えっ?」

「普段人付き合いもそんなにないけど、勉強はいつも学年首席だし、みんな明日葉の頑張りを見てるんだよ?」

「そ、そうなのかな……?」

「うん。私の友達も言ってたよ。明日葉って凄い頑張ってるって。結果も出してて自分達も頑張んなきゃって」


 驚いた。私がそんな風に周りに見られてたなんて……。


「えいっ‼」

「ひゃあっ❤」


 すると突然、みなみちゃんが私の胸を両手でむぎゅっと揉んだ。


「み、みなみちゃんっ⁉」

「ふっふっふっ~。明日葉、また胸が大きくなったんじゃない?」

「そ、そう言えば、最近ブラのサイズが合わなくなったような……」

「ううっ、胸でも明日葉に負けちゃうな~!」


 ちょっと恨めし気にそう言うみなみちゃん。ぷくぅっとほっぺを膨らませたその顔がとっても可愛い。


「でもみなみちゃんの脚も綺麗よ。ミニスカートから見える太ももとか、見ててドキドキしちゃうわ」

「そ、そう?」

「ええ」


 そう言いながら、私はみなみちゃんの太ももを撫でた。彼女に胸を揉まれたまま、だけど。


「でもこうなると、今作ってるドレスのバスト、調節しなくても着れるかな?」

「多分、無理かもしれないわね。どうしよう、考えてなかったわ……」

「ドレス作り、私にも手伝わせて」

「えっ? いいの?」


 突然の提案をするみなみちゃんだけど、今の私はすっと受け入れられた。


「明日葉の作るものも、明日葉の生き方も大好きだもん。綺麗で丁寧で、見てて本当にときめくデザインで……」

「みなみちゃん……」

「私、明日葉の力になりたいわ。いつも頑張る明日葉の為にできることをしたいっ!」


 真剣な眼差しで私にそう言ってくれるみなみちゃん。ううっ、そんな熱い視線を送られたら私……。


「……私も、みなみちゃんが大好き。ううん、そんなレベルじゃないわ」

「えっ?」

「これからもずっと、私の隣にいて。出来ればその……お嫁さんになって、欲しいかも……/////」


 ううっ、言った後でめちゃくちゃ顔が熱い。夏の夕暮れの日差しよりもずっと。


「うう〜ん。お嫁さんは無理かなぁ」

「えっ?」

「そこまで言うなら、明日葉が私のお嫁さんになって欲しいな」

「わ、私が……?」


 予想杯の切り返しに、私はあたふたした。


「うん、私だって明日葉とはこれからもずっと一緒にいたいもん。だめ、かな?」

「……こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言いながら私とみなみちゃんは互いの両手を繋ぎ、静かに口づけをした。海の冷たさと、熱い夕日の日差しが私達を祝福しているように思えた。


 みなみちゃんと一緒なら、もっと凄い服を作れそう。だから、一緒に頑張りましょう。そしてこれからもずっと一緒にいましょう、みなみちゃん❤

 


 

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