第111話 俺と反省

 ──── 俺達は宝具の融合を体験した後、新しく手に入れた力を軽く確認するため地下の訓練室までやってきた。



「おー、これがザンのやりたかったことなんだね」



 ロナは擬似的に作り出された広い空を見上げながらそう呟く。

 宙には大剣と呼ぶには大きすぎる、淡い水色の剣が四本浮いていた。まあ、もちろん俺が浮かせてるんだがな。



「うぉ……きつい! だが期待通りうまくいったぜ。はは、な、なかなか良いもんだろ?」

「うんうんっ」



 こうして、新しく生まれ変わった『フォルテット』を試してみた結果……。

 分身体は分身前の大きさをそっくりそのまま引き継ぎ、分身後はそれぞれ一本ずつ個別に大きさを調整できるという、二つの機能を確認できた。


 ふふん、俺が想定していた通りの効果を問題なく有していたことになるんだぜ? これでかなり戦略の幅が広がることだろう。


 今はまだこの状態をキープするのが精一杯で、巨大化した四本の剣を自由に操ることはできないが……そのうち絶対に制御してみせるさ。

 なに、俺は天才だからな。割とあっさりできるはずだ。



「さて、今度はロナの番だぜ?」

「だね。よーし!」



 彼女は新しく手に入れた『マレス』と『マージオウ』、そしていつもの『リキオウ』、加えて各種属性強化装備品をできる限り身につけ、愛剣を鞘から抜いた。


 今日はダンジョン攻略で〈月光風斬〉を放ったばかりだ。

 だから、ここで再びそれを放つことで強力な新入り宝具二つの恩恵がどれほどのものか比較と確認がしやすい。


 攻撃力の数値だけならレベルとステージが上がった分も合わせて、既に昨日までの三倍ぐらいにはなっているはずだが……さて、技の威力はどう変わるものか。

 

 彼女の後ろへ下がり、見守ることとしよう。



「いくよ、月光風斬ッ!」



 もはやお馴染みとなった、三日月型の飛ぶ斬撃が放たれる。

 しかしその大きさや凄まじさは、明らかに午前中までのソレとは明らかに一線を描しており──── 。



「うわぁ⁉︎ わ!」

「あぶなっ! ぐぇ」



 なんと自分の技の反動で、ロナは尻餅をついてしま……う前に俺が紳士的に受け止められはしたものの、俺はそのままロナの背中に押し倒されてしまった。



「あ、わ、ごめんザン!」

「は、はは……なに、問題はないさ」



 ま、確かに俺は大した問題はない。怪我もないし、こんな美少女の臀部に敷かれるのはむしろ素敵なことだ。

 

 今、注目するべきは本題である<月光風斬>の方。

 明らかに、この素人の目視ではっきりとわかるほどには大きすぎる変化が起きていたんだからな。

 大きさも威力も全て、数時間前までの倍以上と言ったところか。



「すごい……これが今の私っ……」

「ああ、凄まじいもんだな」



 ステージが星三つに到達した時点で、Bランクの魔物と戦えるようになる。

 ……そのはずなんだが今の破壊力を見るに、彼女はもうAランクすら俺の力がなくとも一人で倒せてしまうかもしれない。


 そうか、つまり俺の力がなくてもこの世に存在する大半の魔物を倒せる可能性があるのか。

 ロナが絶対嫌がるから、昔みたいに解散だのの野暮な提案はもうしないが……どこか寂しく感じるぜ。



「で、でも強いのは技の威力だけだから、まだまだ頑張らないとっ!」

「ああ、その意気だぜレディ」



 全くおごらないのはいい。流石は俺の相棒だ。

 この心持ちのまま順調にいけば、ゆくゆくはロナも叔父さんのような圧倒的な強さを持つのだろう。そんな気しかしてこない。


 その頃に俺は、まだ彼女の相棒に相応しい人間で居られるだろうか。

 

 はは、誰かと自分を比較して危機感を覚えるなんてことが俺の人生で起こり得るなんて、村を出る前の俺は思わなかったはずだ。


 とにかく、この麗しいレディに置いてけぼりにされないようにしなきゃな。

 そのためにはまず、今日、俺がやらかしたことを謝るところから始めなけれ……おおっと? 


 今、ぐぅ、という元気な音色が奏でられたな? 

 いくら強くなってもそこは変わらないか。



「あ! あぅ……えと、そ、そろそろお夕飯食べに行こっか!」

「そうだな、時間もいい頃だ」



 俺達はササっと後片付けをして地下室から出る。



「何食べよっかー?」

「高めの店でもいいぜ。どこに行くにせよ、今日は全額、俺が持つ」

「え? なんで?」

「星三つに上がったお祝いと、ダンジョンで泣かせちまったお詫びさ。……本当に悪かった」



 楽しいディナータイムを始める前にこの話題に持っていけて良かった。そう、それが今日、俺がやらかしたことだ。


 ロナの前で己の命をかけた無茶をする(ように見えることをした)だなんて、全くもってクレバーでもジェントルでもなかったよな。いくら作戦のうちだったとはいえ……さ。

 ただでさえハーピィと遭遇した時から迷惑かけたってのに。

 

 ロナも俺が何に対して謝りたいのかを思い出し、察したのか、「むむっ」と唸りながら腕を組み軽く眉をしかめた。



「……今度こそもうしない? あんなこと」

「しないよ。悲しませたくないからな」

「ほんとにぃ?」

「ああ」



 彼女は普段見せないような、ジトーっとした眼で俺をみてくる。

 なんか、ちょっといい意味でそそられ……じゃなくて、そうやっていぶかしむのも無理はないだろう。


 一度、約束を破ったってことなんだから。



「ほんとに、ほんと?」

「……本当さ」



 俺がそう返事をすると、ロナは口元を緩めた。

 そして、胸を撫で下ろしたかのような軽い溜息をつく。



「……いいよ、許したげる。最初から怒ってはいないし。でも、私にとってザンは一番大切な……っ! あ、や、その……親友だからねっ! 居なくなったらヤダから、ちゃんと約束は守ってね。ね?」

「もちろん」



 一番大切、か。

 面と向かってそう言われると照れるぜ。反応を見るに、ほぼ無意識に出てしまった言葉だろうが……だからこそ本音に近いはずだ。


 俺もそれに応えるようにしていかなきゃあダメだな。

 紳士だから……いや、紳士でなかったとしても、この麗しいレディのために約束は守ろう。



「じゃ、とりあえず俺の奢りということで。さぁ、行こうぜ」

「うんっ!」



 そうして心残りも無くなった俺達は、仲良く街へと繰り出した。


 ……ちなみに、今回の支払いは大金貨一枚じゃ収まらなかったぜ。





第二部 完





=====


ここまで閲覧、そして応援等ありがとうございました!

次の投稿は明後日~明々後日となります。

前部同様、しばらくはスロースペースで解説◇や閑話◆を投稿してゆきますので、よろしくお願いします。







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る