第110話 俺達と宝具の融合

 もしかしたら俺は今、レディからのプレゼントを邪険じゃけんに扱うという、かなりノットジェントルなことをしてしまったのかもしれない。


 ……それでも今回は割り切らなきゃダメだ。紳士を貫くのもケースバイケース。そう、心得ているはずさ。


 そういえばもう残る宝具は札が一枚だけか。

 早く鑑定してしまって宝具の分配をしたり、融合を試したりしないとな。

 今度は封印なんてすべき内容じゃなきゃいいが……。



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「能力の札 『宝具効貸こうか』」(宝具)


 この札を使用することで能力『宝具効貸』を習得することができる。



・『宝具効貸』


 装備者や所有者のみに影響がある宝具の効果を、触れた対象に触れている間だけ適用することができるようになる。

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 ……なるほど。

 自分にしか使えないはずの宝具の効果を、触れている相手にも使ってあげられる能力ってことか。


 ロナの持つ水着エアラが「水の中で呼吸できる効果を他人にも移せる」という効果を持っているが……それと似たようなことを他の宝具でもできるわけだ。


 例えば俺が愛帽ルナルを被ったまま、ロナと握手した場合。

 握手をしている限りは、彼女も宝具で消費する魔力を「1」にすることが可能になる。


 非常に強力だが、かと言って引くほどでもなく。

 さらにレディへのボディタッチの機会が増え……いやいや、やましい考えは捨てろ、紳士よ。


 とにかく、これはなかなかいいぞ。素晴らしい能力だ。

 他にも色々使い道がありそうだし、是非とも俺が覚えたいところだがいつも通りロナと相談してから決めよう。



「──── ってのが、封印することにしたもの以外の効果だ。さ、どうしたい? 好きに選んでくれよ、レディ」



 とりあえず全て説明し終えてから、ロナに判断を任せてみる。

 彼女は腕を組んでしばらく考え込んだのち、まずはこう述べた。



「んと、とりあえず腕輪は私が貰わなくちゃ……! だよね?」

「そうだな、俺が使っても意味ないし。お姉さんがせっかく『マレス』と合うように入れてくれたんだろうしな」

「うんうん、ありがたいよねっ! でね、それはいいとして……マントは私はザンに使って欲しいなって思うんだけど、どうかな?」



 それは想定通りの発言だ。

 ……が、俺は今ちょっとふくざつな気持ちなんだよな。


 俺はロナがほんのちょっとでも傷つくのが嫌だ。

 だから鎧代わりになるこのマントをぜひ彼女に使って欲しいという気持ちは鑑定した時から変わらない。


 しかし、このマントの効果との噛み合わせなどを考えれば考えるほど、俺が使うのがベスト。俺が脆いというこのコンビの弱点もある程度ケアできるし。


 とりあえず俺を納得させる理由をロナ本人から聞ければ、なんとか……。


 

「そうは言うが、せっかく手に入れた初めての全身を覆える宝具の防具だぜ? 前線に立つロナが装備した方が良いんじゃないか?」

「ううん、私にはいざって時[ハドルオン・バイゼン]があるし、そもそもちょっと動きづらいかなって」

「あー……そうか! なら、ありがたく使わせてもらうぜ」

「うんうん!」



 動きづらいって言われちゃあ仕方がない。納得するしかなかったぜ。いやぁ、納得できてよかった。

 

 そして、ラストに『宝具効貸』が入った札は、この能力を活かせる宝具を多く持つのが俺だということで、この紳士が覚えることで話がついた。



「よし、これで全部だな」

「すごいね、今回でかなり強くなった気がする……!」

「ああ、もう全身が宝具だらけだぜ」

「ふふっ、そうだね! 叔父さんみたい」



 あの人は自分でも宝具をコレクションしてると言ってるだけあって装備品のほぼ全てが宝具だからな。

 ま、世界最強の冒険者だからそれで良いんだけど。


 ひとまず分けあった宝具をそれぞれきちんと保管した後、ロナが少しワクワクした様子で声をかけてきた。



「ねね、ザン! 次は『融合の箱』を試してみるんだよね」

「ああ、そうだったな」



 危ない危ない、ちょっと忘れかけていたぜ。

 『マレス』やら『リデイ』の衝撃が強すぎたからな。かと言って、融合もないがしろにしていいもんじゃないよな。


 むしろ、普段ならこっちがメインイベントになるはずだ。



「じゃあ早速やるか」

「もう決めてるんだっけ? 何と何を合わせるの?」

「この二つだ」



 俺は融合させる予定だった宝具……『四つ身の剣 フォルテット』と『巨大化する大槌 バイルトン』を取り出した。


 片や、四つに分身する剣。

 片や、無制限に巨大化できるハンマー。

 

 ザスターから融合の話を聞いた時から、この二つの武器を合わせてみたいと思っていたんだ。



「ようするにこれで、巨大化して増える武器を作る」

「巨大化して、増える……っ」

「そう、手数と火力も補える魅惑のコラボレーションだ」



 建物以上に大きくなれる剣が四つに分身する。それを俺の力で弱体化したやつに叩き込む。

 自衛手段としては十分すぎる武器となるだろう。


 一応は他にも、回復させる短剣の『メディメス』と『フォルテット』を合わせ複数人を同時に治療できるようにするだとか、弓銃の『ハムン』と『バイルトン』を合わせて巨大な光弾を撃てるようにするだとか。


 あるいは、今回手に入れた発火する斧である『アルクレッド』と『バイルトン』で巨大な炎塊えんかいをつくることも考えたが。


 ……やはりこれが一番いい。

 なにせ、ロマンがあるからな。



「ただ、一つ問題があるとすれば融合という貴重な手段を、コンビとしてじゃなくて俺個人の装備の強化に使ってしまうことだが……」

「ああ、それはいいよー、気にしなくて!」

「そうか、悪いな」



 最後の心残りも消えたので、改めて俺は『融合の箱』と『フォルテット』と『バイルトン』を並べる。


 二つの武器のうち、先に入れた方がベースになるんだったよな。

 となれば、どっちをベースにすべきか……そこはまだ決めてない。


 巨大化して増えるハンマーと、増えて巨大化する剣、どちらが良いんだろう。


 ……いや、よく考えたら答えは簡単だった。

 俺はザスターとロナに剣術を教わり、鍛えている最中。対して大槌の心得は振り回すことしか知らない。

 

 どっちにしろ『ソーサ』で飛ばして使うのには変わりないが、より効果的に運用するのなら剣だろう。


 てなわけで、俺はまず『フォルテット』を『融合の箱』に入れた。

 長さは明らかに『フォルテット』の方が長いが、『シューノ』での収納と似たような感じですんなりといった。



「次に『バイルトン』を入れたら完了のはずだ」

「うん」



 今まで何かと役に立ってきてくれたこのハンマーは、今から消えてしまう。

 ここでお別れと言うべきか、それとも新たに生まれ変わるのだと言うべきか。……はは、後者だな。明るい気持ちの方がいい。


 俺は『バイルトン』も箱の中に入れた。

 その瞬間、『融合の箱』は明るい光を発し──── 。


 あまりの眩さから閉じるしかなかった目を開くと、そこには箱などなく、ただ、一本だけポツリと『フォルテット』が残されていた。


 さらに、頭の中に文字が浮かぶ。



<称号獲得:【進化の経験】>



 どうやらこの称号を得たことで、宝具に対応した鑑定系の能力を持っていた場合、進化した内容も見れるようになるようだ。

 そう、こいつの説明に書いてあった。

 では、さっそく。



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「四つ身の剣 フォルテット【融合】」(宝具)


 魔力を40消費することで、所持者が解除するか一定時間が経つまで、この剣は四つに分裂する。



=進化=

<融合:巨大化する大槌 バイルトン>


 所持者は土属性の攻撃の威力が超大アップする。また、爆発を伴う攻撃の威力が特大アップする。


 魔力を消費することで巨大化させることができる。その大きさにより必要な魔力の消費量も変化する。所持者自身が意図的に解除するか、一定の時間が経つと元の大きさに戻る。

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=====


お待たせしました。

次話の投稿は明後日か明々後日の予定です。


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