第80話 俺と竜星

「まッ、つーわけだからお前はもう好きに生きて良いぞロナ。もう一度言うが、このオレ様がそれを許してやるッ!」

「ありがとう叔父さん。……でもあの、もう一つ私、叔父さんに謝らなきゃいけないことがあって」



 嘘だろ、ロナってばまだ何かあるようだ。

 流石に家出と並ぶ内容ではないんだろうが……?


 そんな心底申し訳なさそうにしているロナに対し、叔父はまたあらかじめ知っていたかのような素振りを見せ、即座に答える。



「なんだ、オレ様が誕生日やら記念日やらでお前にくれてやっていた贈り物を、換金して里での生活費やここに来るまでの路銀にしてしまっていたことか?」

「えっ! し、知ってるの……⁉︎」



 ああ、なんだそう言うことか。

 たしかに話を聞く限り、ロナはそうでもしなきゃ王都には来られないよな。


 俺だって村からここまでくるのに五十万ベルは使ったんだ。

 Sランクの冒険者が帰るのを渋るほどの距離となると、ロナの故郷もそのくらいはかかるんだろう。



「……まあな、ハハハハハッ!」



 《竜星》は見透かせたことを自慢気に笑う。

 たが一瞬、謝った本人よりも、むしろ叔父の方がバツの悪そう顔をしたのを俺は見逃さなかった。

 あげたものを売られて落ち込んでいるわけではないようだが……。



「まァ、知ってるも何も……。あの里に居てもあんなステータスじゃ自分で稼げないし、兄貴が小遣いなんかやるワケもない。なんなら、生活に必要なものすら買い与えてくれなかったんだろ? ならば、そうする以外ない。それを見越してお前には多めに贈り物をくれてやっていたんだぜッ!」



 なるほど。

 さっきの顔は何を思ってのことだったかわかった、おそらく反省だ。


 竜族にとって憐れみは侮辱だと言っておきながら、実は前々からロナを可哀想に思って助け続けていたこと。


 あるいは本当はもっと援助したかったが、直接的にはできず、プレゼントというまわりくどい形になってしまっていたこと。


 なんなら、その両方かもな。


 だがロナは俺が見る限り、どちらも気にしていないように思う。これは本気でありがたがっている人間の顔だ。



「そうだったんだ……。あ、ありがとう、ありがとうっ‼︎ ずっと、本当に……!」

「ああ、いいんだッ! ハハハハハ、それでもカツカツだったとは思うがな」



 ロナと最後に会ったのは四年前だと言っていたが、彼はその間にも、《竜星》としてその名を全世界に轟かせ、目まぐるしい活躍をし続けていただろう。


 だが一方ではロナの叔父として、自分の兄達からネグレクトを受けている彼女のことは、しっかりと気にかけていた。


 竜族の血や、里の掟や、自分の立場にはばまれながらも、できる限りのことを、ずっと続けていたんだ。


 ああ、なんという紳士っ!

 これこそジェントルマンのあるべき姿じゃないか? めっちゃくちゃ感動したぜ……!


 ロナときちんと付き合うことになったらご挨拶はこの叔父にすれば良さそうだな?



「それで、だ。どうするロナ。本当ならこのままオレ様達のギルドに連れて行くと言うところだったが……オレ様は好きに生きろと言った。まさにお前は今、そうしてるんじゃないのか?」



 《竜星》は俺の方をチラリと見た。

 ロナはロナで、話が始まる前とはうってかわってニコニコしながら、俺の肩に軽く手を当てる。



「うんっ! そうなの、私、ここに来てから色々あって、叔父さんにたくさんお話したいんだけど…‥その、それよりまず紹介したい人が居てね! ねっ!」



 ……やっと俺の出番のようだな? よーし! 

 いやー、それにしても長かったぜ。


 クールに黙るってのも人生には必要なんだろうが、話の中心になることが多いこの紳士にとっては中々の苦行みたいだ。

 ここからは、出しゃばらせてもらうぜ。



「ご紹介にあずかった。名乗るのが遅れて申し訳ない。俺の名はザン。ダンジョン攻略を専門に、彼女の相棒をさせてもらっている」

「ならば貴様らはどこのギルドにも属していない、フリーの攻略家をしていると?」

「その通りだ」

「ほう」



 事実を述べた瞬間、再び《竜星》の黄色い瞳がギラリと光る。……さらに、なぜかあのおそろしい威圧感が蘇ってきた。


 そこからどういうわけか、叔父とその連れのオジサンは数秒間、俺をジッと眺め続けている。


 これはおそらく、俺を品定めをしてるってところか。

 威圧も含め、あんまり気分がいいもんじゃないな。



「え、え? ど、どしたの……? ザン、何か変なこと言った?」



 急に場の空気が変わったことでロナが戸惑っているな。


 彼女の困惑の一言が合図となってか、二人はようやく観る・・のをやめた。威圧感もまた引っ込む。



「いや、すまんな。オレ様達だけがわかる話だ」

「……え、ん?」

「まあいい、とりあえず貴様も自己紹介しとけ」

「俺も? わかりやした。俺の名はオレンズ、ここ三年ほど旦那の世話になってやす。旦那と同じ〈百獣のレオ〉所属、ランクはA。どうぞよろしく」

「ああ……。よろしく」



 オレンズと名乗ったオジサンをよくよくみると、ひたいに巻いているバンダナが不自然に動いていることに気がついた。

 まるで、その下に生き物が居るかのようだ。



「コイツはAランクの雑魚だが、魔力による感知能力が他の人間よりずば抜けている。オレ様はその能力をかって、お供させてやっているんだ」

「雑魚とはいいやすが、俺も旦那のおかげでもう数ヶ月でSランクになれそうで……」

「弱いもんは弱いだろ」

「ま、まあ、旦那に比べりゃあ……誰だってそうでさぁ」



 俺みたいなノーマル族と基本的な部分は一緒だが、感知や観察に優れていて、ひたいを何かで隠すことがある……俺はそんな種族を知っている。


 その知識が正しければ、彼は『三つ目族』だろう。さっき動いたように見えたのも、もう一つの目なのかもな。



「さて、オレ様はその小僧に言いたいことがある」



 《竜星》は何故かニヤけながらそう言った。

 まあ、そうだろうな。

 でなきゃわざわざ、ああも長くヒトを眺めたりはしないだろ。



「なんだ?」

「何者だ、貴様」



 ……おいおい、たった今名乗ったばかりだぜ?




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