第81話 俺と強者の目利き

「ぇ……えっ? 何者って、ザンはザンだよ……? 今、名乗ったばかりだよね?」



 ロナは当たり前のことを言った。

 俺は口に出さなかったが、彼女と同じことを思ったんだぜ! これが息ぴったりってやつだな? いや、ちょっと違うか。


 ともかく、そういう意味ではないんだろうな、《竜星》のいう俺が何者かってのは。



「ああ、名前と関係は聞いたッ! オレ様が知りたいのはソレじゃない」

「じゃあ、俺の魔力量についてか?」



 この紳士ザンに対して疑問を持つとしたら、やはりそこだろう。


 ダンジョン攻略をできるのは強者のみってのが世間の常識だ。


 魔力の無い人間がこんな可愛いレディを連れて危険な場所に行ってるだなんて話、めちゃくちゃ怪しいはずだもんな?


 ……だが、予想に反して彼は笑いながら手のひらを横に振った。



「ハハハハハッ、違う。違うぞッ! 確かに貴様の魔力はおかしいッ! だがそれについて訊きたいわけでもない。興味はあるがなッ」

「えっ、違うんですかい⁉︎」



 驚いたのは俺でなくオジサンオレンズだ。

 なんだ、なんだ? てっきり二人とも同じ理由で俺を数秒間も眺めているもんだと思っていたが、違ったのか。



「ん? お前はそう思ったのか」

「そりゃあ、魔力の無い人間がどうやってダンジョン攻略なんかできるんだって話でさぁ。それに、俺からは彼に数多くの呪いがまとわりついているのが見える。……そんなのが姪っ子さんをダンジョンに連れて行ってるって言うんですぜ? 怪しいったらありゃしない」



 そうか。とりあえず、この人が俺のことをジロジロと見ていた理由は、そのまんま予想した通りの内容だったようだ。

 

 しっかしなぁ、俺が呪われてることまで見えるのか。

 感知能力に優れていると紹介されたが、そこはマジで半端じゃないみたいだ。


 そういや、ロナが《竜星ザスター》の血縁だってことも一瞬で見抜いてたっけ。世の中にはこんな人間もいる、面白いもんだ。


 とにかく魔力関係も違うとなると、いよいよ俺が何者か聞いた理由がわからないぜ……?



「貴様は知らんだろうが、世の中には呪われて魔力が使えずともSランクの実力は有している人間が存在する。オレ様は少なくとも二人は知っているぞ」

「ならば少年もそのような人間だと? いや、そうだとしてもあまりにも若すぎる。姪っ子さんと歳が近いように見えやすが?」

「……ああ、俺は彼女より一つ上なだけだ」

「ハハハハハハハッ、だが若くとも天才はいるッ! ……そう、そこなのだ。オレ様が訊きたいのはッ!」



 つまり俺が天才と言いたいのか、ロナの叔父さんは。


 んまあ確かに? 

 俺は?

 紳士でジェントルで、賢くてクレバーで、冷静でクールで、かっこよくてイケメンで、天才でジーニアスかも知れないが?


 あの・・ザスター・ドルセウスにそれらが伝わるほどだとは思っていなかった。

 いやー、この王都に来てからガキ扱いされることが多かったが、やっぱみる目がある人は違うんだなぁ。



「ま、まさか旦那、この少年が……⁉︎」

「ああッ、間違いない。一見、ただの大人ぶってるガキのようにしか見えんが、オレ様の称号に引っかかったッ‼︎」



 あ、やっぱりガキっぽくは思われてるんだ。

 この紳士的な振る舞いの何がいけないんだろうか。イカした服に、イカした帽子まで備わってるのに。



「あ、あの……叔父さん、さっぱり話が見えないんだけど……?」

「ハハハハハッ、わるいわるい! そのオレ様の称号ってのは【大物コレクター】ってやつでなッ! 竜族は皆、天才や強者好きだろ? だが、オレ様の場合はその思いが一際ひときわ強すぎてな。見事ッ、称号となったのだッ!」

「その称号を所持していると、一目で人間の『格』ってやつが分かるらしいんでさぁ……」



 オレンズは続けて実例を説明してくれた。


 なんでも過去に、二人の目の前で順番待ちをしていたとある人間が、感じる魔力量からして一般人にも関わらず、その叔父さんの称号の力に反応したことがあったようだ。


 そのため何者か尋ねてみると、実は他国で名を馳せた芸術家だった……なんてことがあったらしい。


 『格』とはつまり、ステータス的な強さなどではなく、その人間が過去にどれほどのことをしたかを指すもののようだ。


 まさか、そんなものまでわかってしまう称号があるとは……な。

 それは流石に予想してなかったぜ。



「つまり、叔父さんはザンが過去になんか凄いことをした偉い人だって言いたいの? それで、何者かって訊いたんだ?」

「そうだ、ズバリそう言うことだッ! 言い訳がましいかもしれんが、叔父なのにお前に気が付けなかったのは、先にこの小僧に注目してしまったからだ」

「ん、そっかー」

「……いや、しかし。少年をバカにしているわけではありゃしませんが、どうにも俺にはそのようには見えやしませんがね」



 ……オレンズの言う通りだ。

 俺なんてただの紳士でいたい背伸びしたガキさ。大きく見られすぎるよりは、それでいい。


 あ、そうだ。

 どうせロナを助けたことに反応したんじゃないか? 


 あれも十分すぎる、誇っていいほどジェントルな行動さ。

 それがさらに彼の身内だからという理由で、普通より大きな反応を示したんだろう。違うか……?



「貴様と同じように、実はオレ様もそう思ってなッ。ロナとの話の最中に幾度か試してみたんだ」

「試すって……まさか威圧したんですかい?」

「ああ、こっそりとなッ!」

「威圧……? ああ、叔父さんのあの『竜王の気迫』っていう、魔力無しで敵を怖がらせることができる能力だっけ」

「そう、それだッ!」



 そ、そんなものまで……ってそれはアレのことだよな? マジで怖かったやつじゃないか!

 お手洗いでもないのに、ここで漏れるかと思ったんだぞ⁉︎


 あの気迫っていうか、恐怖感っていうか、能力としてちゃんと実在するものだったのか。まったく何をしてくれるんだ。



「あれは実力が離れている相手に使うと、泡を吹いて倒れるはずでは?」

「その通りだ」

「え? えぇ……」



 ああ。ほら、やっぱりそうだ。

 試す程度の気分でやっていいもんじゃなかったんだ。



「だがな。内心はどうだか知らんが、小僧はずっと恐怖心をおもてには出さなかった。それどころか、あまつさえオレ様とロナの話に割って入ろうとしたッ!」

「た、たしかにそうでさぁ……!」

「オレ様のこの能力をその程度で受け止められるのは、オレ様に一矢報いる程度の実力があるか、王族か、あるいはそれらに並ぶ英雄とたたえられるほどの経歴があるか、この三種のみッ。ま、個人の精神の強さも多少関係あるがな、誤差程度だ」



 黄色い眼が、またまた俺をまっすぐ見つめている。

 彼はゆっくりと、興味津々な様子で、再び問いかけてきた。



「それを踏まえて、もう一度言う。貴様は何者だ?」



 うーむ、ここまで言われたらな……なんて答えたもんだろうか。

 



 

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