第62話 俺達と五つの宝箱 中編①

 ロナは下着のような水着を自分の鞄の中にしまった。

 しかし、なんだろうこの気持ち。なぜかちょっぴり後悔している自分がいる。


 着て見せてくれるという提案に、素直に従っておけば良かったのか? ロナの肌の露出が多い姿を見たかったとでもいうのか?

 ……なんとも紳士的じゃない感情だな、これだから思春期は困るぜ。



「ん? ザン、どしたのボーッとして。……あ、もしかしてザンが欲しかったの? 今の宝具」

「え? あ、いや。まさか、はははは。この紳士にそんな趣味はないぜ」

「そ、そだよね。じゃあ次みようよ」

「ああ」



 ……よし、紳士らしからぬ邪心のことは忘れよう。


 さぁさぁ、残り二つの宝箱はどちらもパンドラの箱だ。今まで通りなら確実に最低で三つは宝具が入っているだろう。

 ヘトヘトになって手に入れた宝だしな、少しでも良いものが入ってることを願うぜ。


 というわけで、まずは俺から見て近くにあった方の箱の中身を覗いた。


 内容物は、何かの札と、宝具が収められている保存玉、そして矢尻のような形をした手頃なサイズの石の計三つ。


 とりあえずこの借りてる一室の中でも広めのスペースに保存玉を運び、床に傷がつかないよう慎重に割ってみると、中からロナの身長よりほんの少し低い程度の大きさを持つギザギザとした刃の大剣が現れた。


 このギザギザ感……どう見てもあの隠しボスの鼻を模したものだ。

 剣っぽいなぁ、とは思ってはいたが、本当に剣になって出てくるなんてな。


 そういえば前のダンジョンでも、出てくる宝具のデザインはボスの体の一部にそっくりだったか。

 となると、今見たこのパンドラの箱も、隠し部屋から出た方だと考えていいだろう。



「わぁ、大剣だ! 私、片手剣の次は大剣が得意なんだよね! こ、これも私が貰ってもいいかな……?」



 ロナがギザギザな大剣を指差しながら、申し訳なさそうにそう言った。


 しかし、それは予想していなかったな。

 サイズ的にはそれらの中間にあたる、両手剣や長剣よりも大剣のが使い易いってことだろ? ハンマーは扱えないのに。


 見た目は華奢なロナが大剣を振り回して戦う姿……まあ、悪くはないんだけど、な。

 

 

「ああ、当然いいさレディ。……だが軽めな片手剣と重い大剣じゃ扱い方がかなり違うんじゃないか? 同じ『剣技』の能力が適応される武器とはいえ」

「うん、その通りだよ。でも私の叔父さんの得物が大剣なの。扱う上でのコツとか結構教えてもらった……っていうよりは自慢話として無理やり聞かされてて、そのあと『教えたことやって見せてみろ!』って言われて練習させられたりしたんだよね」



 叔父さん……ロナのいう宝具を自慢してくる親戚のことだったか。


 今のところ御両親のことは何も話さないのに、この叔父らしき人物のことは俺とロナが出会った時からたびたび話題に出してくる。


 しかし「練習させられた」と口では言ってるのに、彼女自身はそんなに嫌そうな顔はしていない。きっとだいぶ面倒見てくれた人なんだろうな。


 ま、とにかくそういう事情があるなら納得だ。



「ほー、なるほどな。なら、この剣はロナの予備の武器ってことでいいな! あ……もし、今から効果をみて『フォルテット』みたいに大したことないモンだったらどうするんだ?」

「あ、えっと。それでも一応ね、大剣一本は持っておきたいから欲しいな」

「よし、わかった」



 じゃあ、晴れてロナの予備の武器となったこの大剣の効果を見ていこう。



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鮫角こうかくの大剣 ソジャーク」<宝具>



 装備者の水属性の攻撃の威力が極大アップする。


 この大剣を媒体にして「斬撃」や「切断」を伴う水属性の攻撃が発動した場合、その威力を二割ほど上昇させる。


 また、上記の効果が適応される攻撃の一部が、この剣の刃を模した特殊な形を取るようになる。この効果は自由に解除できる。


-----


 

 まず水属性の攻撃を強化し、なおかつ同属性の『斬る』タイプの攻撃をさらに強化する。

 これらは水属性の攻撃さえ今後覚えれば、ロナにとってもまあまあ悪くない効果と言えるだろう。

 『水属性強化』の能力だって手に入れたんだしな。


 で、最後の行の効果は……えっと、つまりだ。


 例えば水の斬撃を飛ばす『水波斬』みたいな技があったとして、その放たれる斬撃の形が、この大剣の刃と同じギザギザにできるってことだろうか?

 

 技の見た目に干渉してくるなんてこともあるんだなぁ。いやぁ、宝具ってのは奥が深いぜ。



「 ──── ってな感じだ」

「ありがと! なるほどね。その見た目が変わる効果はよくわかんないけど、とりあえずは頑張って水属性の技を一つでも覚えなきゃね!」

「ああ、そうしようぜ。とりあえず今度は札だな」

「うん!」



 もしかしたら、大剣にバッチリ合う水属性の究極術技の札かもしれない……そんなちょっとした期待を抱きながら、鑑定を始める。


 そして、その期待はものの見事に叶った。



-----


「術技の札 <鮫泳水斬こうえいすいざん>」(宝具)


 この札を使用することで術技<鮫泳水斬>を習得することができる。




・<鮫泳水斬>


 魔力を70以上消費し、水中・水面・足がついてる状況でのみ発動することができる。


 刃のある武器を持ち、上から下へ振り降ろす動作をとるか、あるいは地面に突き刺すような動作をすることで、水属性の特殊な衝撃波が放たれる。


 放たれた特殊な衝撃波の大きさは、使用している武器の質、使用者の攻撃・魔力強度によって変化する。

 また威力は使用者の攻撃・魔力強度によって変化する。


 発動した後は、使用者が狙っていた対象をある程度まで追尾する。

 

-----



 ああ、ようするに水上か地上でしか放てない代わりに、敵を勝手に追ってくれる。そんな威力の高い飛ぶ斬撃ってことか。


 必要な魔力の量からして<月光風斬>の方が威力が高そうではあるものの、だいぶ有用な術技なんじゃないだろうか。

 とりあえず、この札の行き先は相談するまでもないな。



「もちろん、ロナが受け取ってくれよな」

「うん、ありがとう。でも、また私がもらっちゃってごめんね?」

「いいさ、宝具の分配は適材適所が最優先だからな」

「そ……? そだね!」



 ロナはさっそく、その札を自分の額に当てて使用した。これで彼女の『究極術技』の数は二つになったな。

 強力な技のバリエーションが増えるっていうのはいい気分だ。

 自分の技じゃなくても、な。








=====


ロナの予備新武器、ソジャークの名前の由来は、「ソード」+「シャーク」+「咀嚼(そしゃく)」+「ギザギザ= jagged」を合体させたものです。

しかし、こうした宝具の説明を書きたいがためにこの作品を続けてるようなものなので、どうしてもこういったパートは長くなりますね。本当は今回もできれば2話で納めるつもりだったのですが。


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