第61話 俺達と五つの宝箱 前編
「はは、中々いい眺めだ」
「そうだね!」
翌朝、俺達は朝食を優雅に食べ終えた後、部屋の床に昨日のダンジョン攻略で手に入れた宝箱達を並べた。
箱の数は全部で五つ。木製、銀色、金色、そしてパンドラが二つだ。
木製のは見た目からしてあんまり内容物は期待できないが、それを除いても十分すぎるほどの成果だと言えるな。
「とりあえずパンドラの箱を開けるから、念のため離れててくれ」
「うん」
ロナは部屋から出てゆき、俺はいつものように呪いを解放する。
「おえぇっ……」
数日ぶりだからだろうか。黒い煙が全身の穴という穴から入り込んでくるこの感覚が、以前より不快に感じる。
やはり、せめて尻から入ってくるのはなんとか勘弁してもらえないだろうか。
そして、どうやら今回は二つ合わせて九つもの呪いが込められていたみたいだ。
毎回、どんな呪いが付与される予定だったか、ステータスから調べられないのがちょっぴりもどかしい。
そういえば『呪い』って称号は一体、何種類あるんだ?
たしか《大物狩り》に掛けられていた呪いは三つで、そのうち一つも俺とは被りがなかったよな。
もしかして並の称号と同じように数十種は下らないなんて……? まあ、気にしても仕方ないか、そんなこと。
その後、ロナを部屋内に呼び戻して、彼女と一緒に残り三つの宝箱も開けた。
「どれから見ていこうか?」
「やっぱり低級から順に。木製のからかな、その次は銀製で」
「ああ、そうしよう」
ロナは木製の宝箱の中身を取り出した。入れられていたのはたった一つ、なんかの札だ。
『宝具理解』では鑑定できないから、宝具ではない。
つまり究極術技や魔法の類じゃないということになるが……。
「どうだ中身は。そのまま見てくれよ」
「うん。えっーと……ね、『水属性強化』だって」
なるほど、そう来たか。
まさか進化すらしていない、初期段階の属性強化とは。
矢のように打ち出されたスリー・マーが襲ってくるトラップを命からがらかいくぐった上で手に入れられる……そんな箱の中身だと考えると、ぶっちゃけかなりショボいぞ。
木製の宝箱というのは、元からそんなもんなんだろうか?
とはいえ、だ。
ロナは『水属性強化』の術技を習得していない。まぁ、無駄にならなかっただけ遥かにマシかもな。
「ま、使えなくはないな。そのまま覚えちゃおうぜ」
「ありがと、そうする」
札の紋様はロナの中に吸い込まれていった。
さてと、次は銀の宝箱だな。
前は『宝具理解』の札と緑色の宝石が出てきたが、今回は……ああ、青色の宝石がゴロッと入っているのが見えるな。
それに加えて、別の形にカットされている水色の宝石もチラホラと顔をのぞかせている。
どうやらこの宝箱の中身は全部、宝石の類のようだ。
「宝石だけだねー」
「ああ、換金するしかないな。八千万ベル貯めなきゃいけない俺たちにとっては、ありがたいもんだが」
「そだね!」
「一つだけ観賞用に取っておくのもいいかもな? どうする?」
「んー……や、微妙かなぁ」
「そうか。じゃあ俺もいいや」
ロナは稀に、熱烈に口説く演技をしながら俺が渡した、指輪の『メディロス』をやけにまじまじと眺めていることがある。
だから綺麗もの繋がりで宝石にも相応の興味があると思ったが、そういうわけではなかったようだ。
やっぱり、あの指輪に関しては純粋にプレゼントとして喜んでもらえてるってことだろうな。
さて、今度は金色の宝箱か。
改めてその中を覗くと、そこには。
あー、そこには……えーっと。
そこには。
どう見ても、女性用の下着の上下セットが入っていた。それだけが自己主張するかのように、目立つように入っていた。
淡く緑がかったクリーム色で可愛らしいが、以前、うっかり見たことのあるロナの下着より明らかに布面積が少ない。
あ? ……いや、待て。おい、違うだろ。
なにが『布面積は少ない』だ。なんてこと思い出しているんだ俺は!
それでもジェントルマンだというのか、情けない!
そしてこの微妙になった空気、一体どうしてくれようか。
まさかこれは、俺がどれだけ紳士であるかを図るための試練だとでもいうのか……?
どうする、全く予想していなかったから不意に殴られた気分だ。どうする、考えろ落ち着け……俺はクレバーな紳士のはず、で……!
よし。
「宝箱ってのはこういうこともあるんだな。面白いもんだ。……もしかしたら宝具の可能性もある。調べるだけ調べてみるぜ」
「う、うん! そだね」
……とまあ、こうしてなんとも言いにくい変な空気は、クールに流てしまうことができた。たぶん。
一難は去ったが、提案した手前だ。実際に調べてみなくては。女性用の下着をレディの前で眺めるというのは気が引けるがな。
で。ああ、そして調べた結果はまさかの宝具だったわけだが。
仕方がない。驚きが顔に出ないように努め、そのまま詳細も見てしまう。
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「息吹の
この水着は女性しか装備できないが、装備者の種族・体型に適した形を取ることができる。
この水着の装備者は風属性の攻撃の威力が特大アップし、受ける水属性の攻撃の威力を特大ダウンさせる。
魔力を10から60消費し、消費した魔力の数値と同じ分数だけ、水中でも呼吸ができるようになる。
また、上記の効果を発動している間に別の生物が装備者に触れていた場合、その対象にも同様の効果が付与される。
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なるほど、下着じゃなくて水着なのか。そっかー、水着なら大丈夫だな。うん。
何が大丈夫なのかはわからないけど、とりあえずそう思っておく。
……ちなみに都会の水着ってみんなこうなの? なんて破廉恥な。
あー、まあいい。気にしないでおこう。
とりあえずそのまま、紳士として動揺しているのを悟られないように、淡々とロナにも効果を説明する。
すると、彼女は『エアラ』の上体用の胸当て部を持ち上げ、数秒間だけまじまじと見つめると、かなり恥ずかしいそうな顔をしながらそれを自分の胸部に当てつつ、俺にまっすぐな目線を向けてきた。
「そっか、これ水着なんだね……。着けたら、こ、こんな感じになるかも。どうかなザン? ううん、それとも実際にちゃんと着てるとこ、見せた方がいいか、な? ……なんて」
「え⁉︎」
こ、この子は……ロナは、もしここで俺が「うん」と言ったら実際にそれを着た姿を見せるつもりでいるのか⁉︎
久しぶりだぜ、彼女の羞恥の欠乏に驚いたのは。
ここは紳士としてなんと言おう。えーっと、えーっと……。
仕方ない、また受け流すか。
「いや、はは。それも悪くないが……な。確認するなら一人でした方がいいんじゃないか? 全部脱がなきゃ装備できないものなんだ、風呂に入る前とか、余裕のあるときにな」
「そ、そっか! そうだよね……わかった。でも効果は強力だから、これは私がもらって、取っておいていいかな?」
「ああ、そうしてくれ」
ふぅ、今のはさっきより上手くいったんじゃないか。
もうほんと、こういう変な形で驚かされるのは勘弁だな。
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今日も遅くなってしまいました、申し訳ありません。
ここのところ内容が思いつかなくなってきて、筆が重いんですよね。いやー、参った。
もしかしたら、内容を考えるための休息をもらうことがあるかもしれません。今はその予定ありませんが。
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!
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