第60話 俺達と剣の魚のボス

 とりあえず相手は全身が刃物だ。

 俺の『強制互角』で既に弱くなっているはずだが、身体そのものが凶器である以上、油断は一切できない。


 ロナは防御力が高いため、刃に接触しても大怪我を負ったりはしないだろうが、逆に俺は特に集中していないとマズそうだ。


 なんて、流石に警戒しすぎだろうか。

 前のダンジョンをクリアした時から装備含めだいぶ成長しているから、実際はすぐにこの戦いを終えられるかもな。

 


「いいぜロナ、準備はな」

「わかった! 光波斬・改っ!」



 この中距離のダンジョンを彷徨さまよっているうちにいつの間にか一段階進化した、ロナによる飛ぶ光の斬撃が、つるぎのような魚を襲う。


 当の魚は自身の身体を捻りつつ鼻先を振り回し、余裕綽々しゃくしゃくと言った様子で、その場から動くことなく、光の斬撃をさばこうとした。


 ロナの放った技に一切警戒しておらず、舐めた態度を取っていることが、なんとなく見てわかる。魚類だから表情とかはほぼないが、ほんとになんとなーく。


 ……無論、俺達相手に油断したらどうなるか、この魚はすぐに知ることとなるだろう。


 見た目通りノコギリのような部位は相当硬いらしく、最弱となった状態でロナの斬撃を受けても欠けすらしない……が。

 しかし、魚は攻撃そのものの力に押し負け、斬撃を微量しか反らせず、結果として片ヒレが根本から切り落とされた。


 こうして片翼が無くなった。

 そりゃあ、まあ当然、全体のバランスも崩れる。



「今っ! 月光風斬!」



 ロナもその隙は見逃さず、自分の必殺技で一気にケリをつけにきた。

 剣の魚も流石にこれはマズイと思ったのだろう、身を翻してなんとか回避をしようするが……慌てるタイミングが遅すぎたな。


 月のような光の刃が、あっという間にその凶暴そうな身体を真っ二つに切り裂いた。

 即死だったのかすぐに塵と化し、このダンジョンの隠されたボスはこうして跡形もなく消え去ってしまった。


 ……おっと。あー、本当にもう終わったのか?


 まったく、前の猪のダンジョンのボスといい、今回の奴といい、油断した末にたった二、三発でケリがついてしまうのはいかがなものかと思うぜ。

 いや、こっちからしてみれば楽でいいんだけどな。


 あの緑色の骸骨だけか、しっかりと対応してきたのは。

 となると、やっぱりアイツはダンジョンの隠し部屋のボスの中でも群を抜いて強かったのかもしれないな。


 ま、とりあえず、このダンジョンをクリアできたことを素直に喜ぼうじゃないか。

 宝箱もたくさん手に入れられたし、今後は余裕がある時は中距離のダンジョンを狙うのも悪くないかもしれない。



「やったなロナ! いやー、しかし紳士として情けないぜ。せっかくあんなに可愛く応援してもらったっていうのに、結局ほとんどロナ任せになっちまった」

「そんなことないよ。今回だってザンがいなかったら何にもできなかったもん。それに、相手が弱くなってるにも関わらず攻撃が弾かれることが結構あった……うん、まだ。まだまだだね、私」



 ロナは自分の手のひらを見つめ、握ったり開いたりしながら、しみじみとそう言った。


 今のままレベルを上げていけば、そのうち解決しそうな悩みではある。が、向上心を持つのは悪いことじゃあない。

 俺は余計なことは言わずに、今は、紳士的に見守っておくのがベストだろう。


 俺にも反省すべき点はあったしな、うん。

 調子に乗って余計な体力を使わないっていう……。



「……あ、そだ。傷とか負ってない? 回復する必要あるかな」

「いや、必要ないな。かすり傷があるかすら怪しいもんだ」



 それに関しては事実、俺は一切のダメージらしいダメージは負ってない。

 多少の怪我をしてもおかしくないような場面もあった気がするが、防具のおかげか、マジでなんともない。



「そういうロナはどうだったんだ? 防具は役に立ったか?」

「うん! それはもう、全然違うよ! 私も傷はないもん。ちゃんとした戦闘用の装備っていうのは良いね!」

「だな」



 たしかにロナにも目立つ傷はない。彼女にもきちんと防具の恩恵はあったようだ。あと、魔力を使うだけで回復できる『メディロス』の効果も忘れたらいけない。

 こうして美しいレディが全く傷付かずに済んだってのは、俺にとっては何よりの朗報だ。それに……。



「それに期待していた通り、めちゃくちゃサマになってたぜ! 立派な装備をつけて、究極術技を連発する姿は……Sランクの冒険者並みの実力を手にするまで、そう遠くないって感じさせるほどにな!」

「ほ、ほんと? えへへ……」



 お世辞は少なめだ。大半が素直な感想さ。


 紅い髪をなびかせながら光をまとい、宝具の剣を振るう彼女は、それこそ、本来あるべき戦闘民族の猛者だった。……竜族のありのままの姿を見れたような気がしたぜ。


 いや、なにより普段は大人しめな性格である彼女とのギャップが中々に良かったんだよな。

 いやー、成長していく姿を見るのがますます楽しみになったぜ。



「……よし、じゃあそろそろ帰ろっか!」

「ああ! ところで宝箱を開けるのは明日でいいか? そこにあるパンドラの箱と合わせて今回は五つも開けなきゃいけないしな」

「うん、いいよ。そうしよ」



 というわけでダンジョンを出て……こうして俺とロナによる三回目のダンジョン攻略、及び、初めての中距離ダンジョンの踏破は終わりを告げた。










=====


すいません、偏頭痛に苦しんでたらこんな時間の投稿になってしまいました。連絡なしに休んでしまい申し訳ありませんでした。

痛くて寝れずにうんうん唸りながら書いてたら朝の10時だなんて……:( ;´꒳`;):

眠いし調子悪いしなので……今回のお話は昨日と今日の統合ということでお願いします。重ね重ね申し訳ないです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る