第63話 俺達と五つの宝箱 中編②

 さて、隠し部屋のボスから入手したであろう、宝箱の最後の中身は、矢尻のような形をした石のアイテムだったな。


 おおよそロナの手のひらに収まるほどのサイズで、置物としては小さすぎる。また、ほんのり淡い水色に輝いているようにも見えるな。


 見ただけじゃ何に使うかさっぱりだが、まあ、宝具っぽいのは確かなんだ。鑑定してみればわかるだろう。



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「古鮫歯こうしの御守石 メガロディア」<宝具>


 

 このアイテムは、自身の血液と魔力を込めた者を所有者とする。


 上記で得た所有権は、所有者本人が意図して再び自身の血を捧げる、所有者の死亡、所有者がこのアイテムを紛失した上で存在を忘れる、このいずれかを満たすと解除される。


 また、以下の効果はこのアイテムを身近に置いていないと発揮されない。


・所有者の水属性の攻撃の威力が極大アップする。

・所有者の斬撃・衝撃波系統の術技の威力が元から二割増加する。

 

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 ああ、なるほどな、お守りだったか。


 しかし……この効果、はっきり言って今回一番の大当たりかもしれない。いやマジで。


 水属性の強化までは所有権の登録が面倒なだけで、そう他の宝具と変わったところはないだろう。

 だが最後の、術技の一部の技の威力を二割増しにするってのは、かなりの強力さを誇っていると言っていい。


 既にロナのものになった大剣にも似たような効果はあるが、その対象は水属性の技だけだった。でも、このお守りには属性による制限は書かれていない。


 このお守りもロナのものにするとして。

 以後、彼女の<月光風斬>や<風波斬>なんかもしっかりと強化されるわけだ。


 いや、そもそもさっきの大剣と一緒に水属性の斬撃系の術技を撃ったら、一体どれほどの強さになるんだ?


 ……はは。いいぞ。

 やっぱりこういうのはロマンがあるよな!


 俺はロナにまた一通りの内容を話したあと、その手にこのお守りを握らせた。

 うーん、女の子にお守りを贈る俺も、なかなかにジェントル。



「ってなわけだからな。個人的にはその『リキオウ』レベルの品物なんじゃないかと思うぜ」

「そ、そうかも。でもそうするとこの宝箱の宝具、全部私がもらうことになるんだけど……いいのかな?」

「それでいいだろ。俺は何事にもレディを優先する男だぜ? そもそも俺には使えないしな」

「うん、じ……じゃあ、ありがたくもらうね!」


 

 ふっ、出逢い始めの頃ほどの過度かど遠慮えんりょはしなくなってきたな。いいことだ。

 

 そのすぐ後、ロナはあまり痛みを感じないという自分の竜の尻尾を剣で軽く傷つけると、そこから出た血液を使って『メガロディア』の所有権を得た。


 きちんとお守りの効果を発揮させるために、服やインナーのポケットに潜ませておくことにするみたいだ。


 ……ん、なんだ? ロナがじーっと俺の顔を見てくる。

 今更、このジェントル・イケメン・フェイスに見惚れてるのか?

 


「……ね、ザン」

「ななななななな、なんだ?」

「そんな顔しなくても、この程度の傷なんてすぐ治るからね? 心配しないでね?」

「あ、あああ、ああ……」



 おっと、そこまで心配そうな顔をしていたのだろうか。たしかにロナが自分の尾を傷つけるのを見て血の気が引いたが。

 はは、俺も頑張ってある程度は慣れないと……いや、やっぱ無理だろうなぁ。


 とにかく、ロナの傷が普通の回復魔法ですぐに治ったところを見届けてから俺達は最後の宝箱の中身を覗くことにした。

 タコの魔物と一緒に壺の中から引き出したやつだな。


 それに入っていたアイテムは四つ。

 巻かれた紙のようなものが二枚と、黒く不気味な色をした鍵。

 そして前も入手した魔導水晶とかいう宝石が一つだ。ま、これは宝具じゃないな。


 それに……どうやら見覚えのあるモノはその魔導水晶だけではないようだ。

 巻かれた紙のようなアイテムのうちの一つが、どう見ても俺たちが所有しているダンジョンの地図『トレジア』に瓜二つ。


 ちなみにもう一方は、見た目こそほぼ一緒なものの、くくってあるひもの色が違う。赤ではなく紫だ。


 とりあえず、その『トレジア』らしき宝具を俺は鑑定してみる。

 ああ、なんてことはない。考えていた通りの結果が返ってきたさ。


 まずはロナと相談だ。




「初めてだね! 同じ宝具が出るの」

「まあな。ただ、開けたパンドラの箱の数もこれで七個目になるしな。仕方ないと言えば仕方ないが、少し残念に思うぜ。どうする? 今持ってる『トレジア』は一応俺のモノだからな、ロナの分ってことでいいか?」



 そう提案してみると、ロナは元気よく首を横に振った。

 否定したのになんかやけにニコニコしているな。


 ……ふむ。実物は要らないけど嬉しいとは思える、そんな考えに至る答えは一つしかないだろう。



「なるほど、じゃあ売却するのか」

「うん! ザンは前にそれ、『一つ一億ベルはしそう』って言ってたでしょ?」

「だがあれは宝具にまだあまり触れていない頃の発言だからな、本当はその半額くらいかもしれないぜ?」

「それでもだよ! えっと……五千万ベル? だったとしても、その全額を貯金の方に回せば一気に私達の目標に一歩近づくよ!」

「お、おお……」



 ロナはグッと俺に顔を近づけた。

 既にニコニコなんてもんじゃなくなってる、興奮してると言ってしまってもいいだろう。


 ……うーん、実際どうするべきかな。

 売るのも悪くないが、勿体ない気もするんだよなぁ。一旦、ここはクレバーに順序立てて考えるか? 

 いや、クレバーになるなら先に他の宝具を見てしまった方がいいな。うん、そうしてしまおう。









=====


祝・宝具被り!

ゲームとか、リアルの方のガチャポンとかやってると当然のように起こり得ますよね。

ザンが残念がっている様子は、その時の自分と当てはめて見てみてください。彼と同じ感情になれますよ。

……しかし、まさかまだ宝具解析編が続くとは。


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