第二部

第54話 俺達と目標の壁

「「はっ……八千万ベル⁉︎」」



 俺とロナの驚愕きょうがくした声が、店内にこだまする。

 ……おっと、意図せず声が揃っちまった。

 店の中で大声を出したことを紳士的に恥ずべきか、コンビとして俺と彼女の息が合ったことに喜ぶべきか……ふっ、悩ましいところだ。



「はい、お二人のご要望に沿う形ですと、だいたいそのくらいのお値段には……どうしてもなってしまいますね」



 今、俺達は前に黄色い屋根の店の店主から紹介された不動産屋に、朝一番から足を運んで、相談をしている。

 

 俺達の目標の一つである、自分達だけの拠点を持つこと。

 それを達成するために必要な金額を、そろそろハッキリさせようと思ってな。


 求める家の条件は、「借家でなく土地ごと購入」「庭付きの一戸建てであること」「鍛錬が可能な部屋があること」の三点。


 本当は一から自分達で好みの家を建てたいなんて話もあったんだが、それは流石にかかる金額や時間、あと考えたくはないが俺たち二人の間に万が一のことがあった場合に面倒だということで、中古でも良いということになったんだ、が……。


 まさか、それでも八千万ベルもするなんてな。

 おほ……一億近いじゃあないか。


 いや、俺だって五千万ベルは下らないだろうとクレバーに予想はしていたさ。

 なんてったって、国の中心であるこの王都に家を持つってんだから、そのくらいはするだろうと、な。

 覚悟はしていたんだ。でも覚悟が足りなかったみたいだな。


 ……どうやら、ここまで高額になった理由は、王都だからってだけでなく、「鍛錬用の部屋」の存在が大きいようだ。


 なんでも、一般的にそういう部屋は術技を放っても大丈夫なように、『空間を歪めて拡張される機能』と『自己修復する機能』がエンチャントという形でそなわっていて、まあ、それが値段を釣り上げてる一番の理由らしい。



「ど、どうしよっかザン。私の要望のためにそんな……八千万なんて……! あ、あの、えと、普通の家なら……」

「……いや、それだと俺達が家を買う意味がないぜレディ」

「それは、そうかもだけど……」

「なに、問題はないさ」



 そうだ。


 一瞬、その金額の多さにこの紳士すら気負いしてしまったが、本来なら八千万ベルだろうが、一億ベルだろうが、俺達にとってあんまり大きな問題ではナッシングなのさ。



「元々、家を買うのは目標だろ? 目標としてはいい金額だ、そう思わないか? 俺達ならまあ、そのくらいどうにかなる。超えられるもののはずだ」

「あ。た、たしかにそうだね! 私達二人なら大丈夫! ……かも?」

「そうだ、俺たちなら行ける。それに元から慌てる必要なんてないんだしな」

「うん! ……うんうん!」



 ま、流石に二億とかなら厳しかったけど。

 冷静に、クレバーに考えれば考えるほど、八千万という数字は良いように思えてくる。



「おや、今後の参考に値段を知りたいとのことでしたが……そのご様子だと、問題はなかったようですね」

「ああ、ありがとう。かなりタメになったよ」

「ありがとうございました」

「いえいえ、相談に乗るのも我々の仕事。もし本格的にご購入が決まった際は是非うちで」

「そうさせてもらうよ」



 俺とロナは礼を言いつつ店を出た。

 外はまだまだ、朝日が眩しい。

 ……いいね。なんだか、やる気が込み上げてくる。


 ふんわりとしていた目標。それの、目指すべき到達点をはっきりとさせた。

 はは、それだけで心持ちがこうも上向きになるものなんだ。とても紳士的な気分だぜ。

 

 ロナも俺と同じ気持ちのようだ。

 眉と口角を上げ、目には太陽に負けないほどの輝きが灯っている。相変わらず可愛らしい。



「さて……! ザン、私達、これから久しぶりにダンジョン攻略に行くんだもんね!」

「ああ」

「よーし……なんだかすごく頑張れる気がする!」

「奇遇だな、俺もそんな気分だ」



 元から、今日は俺達の本業であるダンジョン攻略に行く予定だった。

 えっと、前に行ったのはいつだったか……八、いや九日前か?

 色んなものに巻き込まれたせいで、ずいぶん日が空いてしまったな。


 そして金欠とまではいかないものの、この数日間の間に生活用品やら防具やらをしっかり揃えたため、まあまあ所持金が減った。

 

 更新された目標に加え、働く理由もやる気も万全だ。

 ならば、どうだろう。

 ここで一度、いつもより一歩踏み込んだダンジョン攻略をしてみるのは。



「なぁ、ロナ。俺、『リブラの天秤』のギルドで世話になってた時、ダンジョンに関するある話を聞いたんだ」

「ん? なぁに?」

「ダンジョンの長さによって、隠されている宝箱の数が違う……ってな。俺たちは今まで、なるべく最短のダンジョンを選んできただろ?」

「うんうん」

「どうだ? 今の実力と新調した防具、そして目標により近づくために、今回はいつもよりワンランク長めのダンジョンに挑むってのは」

「うん! いいね、そうしよう!」



 なんという強い頷きと、心地よい返事。

 さながら俺たちの今のコンディションは、ダンジョンに宝探しに行く身としては最高なんじゃないだろうか。



「よし、じゃあそうと決まれば……!」



 俺は収納用の宝具『シューノ』から、ダンジョンを示す宝具『トレジア』を取り出し、それを魔力を込めて広げた。

 さあ……攻略と行こうじゃないか、ジェントルにな!



 








=====


第二部、第一話の閲覧ありがとうございます!

今話の時系列は、第一部の終わり(53話)から二日後、閑話の最後の翌日となっています。

まさか去年の六月に一度打ち切っていた作品が、やる気が復活したことによりここまで続けることになるとは思ってもみませんでした。

そのやる気が今もなお継続しているのも、私個人的に2人のやりとりを見続けたいという欲望と、皆様からのコメントやお気に入り登録など、目に見える形で応援してもらえている実感があるためでございます。ありがとうございます。

これからもどうか、応援をよろしくお願いします。

さすれば、これからも物語を描き続けられますゆえ……!

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