◆ ちゃんとした防具 後編
「あの、竜族でも装備できるものありますかね? 特に尻尾がつっかえないかなって。あと私に限れば、胸も邪魔で……」
「うん、バッチリそこは大丈夫! だけど、ほほー……胸、ねぇ」
一瞬、鼻の下を伸ばしかけた。俺は見逃さない。
やっぱりこの店員、女の子みたいな見た目だが男であることは間違いなさそうだ。
どこ見て話してやがる……気持ちはわかるけど。紳士とてちょっとは視線がなびくことあるからな。
「でも、それも大丈夫! ウチらの技術にかかれば、宝具と同じで体型はあんまり関係ないよ」
「そうですか! よかったぁ!」
「じゃ、具体的な要望を聞こうかな。動き易い方がいい、とか。軽いのがいい、とか。あとこの属性の耐性が欲しい、 とか」
「ああ、それは俺が説明するぜ」
俺はメモしてきたものを取り出し、その内容を話した。
まず、俺は特殊な力を持っており、相手の属性を伴う攻撃を一切撃たせずに済ませることができるため、互いの防具に求めているのは純粋な高い防御力と、動きやすさ。
防御力に関する効果以外は基本的に不要だ。属性耐性とか、魔力の回復を促す……みたいなのは、な。
それを大前提として、ロナは剣士タイプの防具を欲している。
一口に剣士用の防具といっても数多くの種類があるらしいが、彼女曰く、軽装と重厚の間ぐらいが望ましいようだ。
片手のみで剣を扱う剣士にとってそれがオーソドックスみたいだな。
また、『リキオウ』があるため、手まで覆ってしまうような小手だと困るな。これに関しては『リキオウ』とは直接言わず、強力なグローブ系のアイテムがあるとだけ伝えておいた。
で、一方の俺は後衛タイプの防具が欲しい。
この紳士がダンジョン内で基本的にすることといえば、相手の弱体化と『ソーサ』による支援攻撃のみ。びっしりと鉄々しい装備だと邪魔くさい。
金属部分は、肘、膝、脛辺りにのみで、あとは強力な布や皮でできていればいい。職で言えば弓使いや狩人といった人達のものに近いが、なんなら、さらにそれより軽装かもしれない。
あと、魔力を消費して装備の硬度をあげられる効果があると尚よしだ。
「……ってな感じだな」
「なるほど、なるほど。とにかく防御力と動き易さを求めてて……。あ、ちなみに変な効果は要らないとのことだけど、防御力さえあればいいから、仮に付いちゃってても問題はないんだよね?」
「ああ、最優先がその二点ってだけだからな。意図せず付随していた分にはオーケーだ」
「それで、予算は150万ベル前後ね。結構、範囲広いな……大丈夫、揃えられるよ。ちょっと待っててねー」
「よろしくお願いします!」
◆◆◆
それから十数分かけ、少女のような男性の店員さんは、俺らの要望に合致するものをいくつも持ってきてくれた。
見た目も凝ってるものが多く、ロナのために出された女性用の装備なんてほとんどがスカートみたいな形状の部分が付いている。
「とりあえず、そこの試着室で着てみて決めてよ。まずお嬢さんのは全部で三つあるからね。どれも素材はほぼ一緒だから、硬さも一緒! 効果は関係ないんでしょ? あとは見た目で決めちゃってよ」
「わかりました!」
ロナは左から順に着ていくようだ
そして、鎧の着脱をしているにしてはヤケに早い時間がたったのち、すぐに試着室から出てきた。
その鎧は……なんというか、胸元は見え、臍も見え……きちんと身体を守れるのか心配になるようなデザインをしていた。
ロナの胸を見るのはこれで本日中に二度目か……。
だが、この露出装備が世間では割と普通に流通しているということは知識にある。
『リブラの天秤』にだって、このようなスタイルの装備をした女性剣士はそこそこ居たし、なんなら露出が少ない女性冒険者の方が少なかった。
でも、でもさぁ……こう、潔癖な性格をしてて尚且つ紳士的な俺としてはモヤッとするものがあるなぁ。
「いかがかな?」
「いいですね! 動き易いし、可愛いし……!」
「うん、ウチもお嬢さんの魅力ごと引き出せてて良いと思う! 通気性だって抜群だよ」
「な、なぁ……その、胸とか腹とか出てるけど、それでちゃんと攻撃から身を守れるのか? 前々からそういう装備に対しては疑問だったんだが……」
「あれ、ザン知らなかったんだ? ある程度の装備品になれば、身につけてるだけで肌や布物部分も鎧の恩恵があるんだよ」
「その通り。だから防御力の面では心配ないよ」
そ、そうだったのか。
それは知らなかった……やはり農業が主な産業の田舎だとそういった知識が入ってこないからな。
じゃあ別の方面で説得してみるか。
「なら……剣士だから敵を斬った時に体液とか血液とか、その露出した素肌に付着するだろ? 平気なのか、それ」
「ダンジョン攻略するのにそんなこと気にするの? お兄さん、もしや相当な綺麗好きでは……?」
「あ、うん。そうなんです、ザンは掃除の能力があるほど綺麗好きで……んー、でもザンが嫌がってるなら、これはやめておこうかな。この中で比較的、肌の露出が少なめなのってどれですか?」
なんか俺が変わってるみたいな雰囲気になりつつあったし、実際そうなんだろうがな……とりあえずロナが簡単に折れてくれて助かったぜ。
一々色んなこと気にしてダンジョン攻略するのも面倒だしな。
「あーあ、セクシーだったのに……」
「…………」
「っ⁉︎ な、なるほど、そういうこと。えーっと、その中だと三番目のものだけですかね……あははー」
見た目が可愛いのに中身がスケベだと色々と台無しじゃないか。
とりあえず、今のは聞かなかったことにしておこう。用意したもの全部を露出が多いものにしなかった点も考慮してな。
その三番目の装備ってのはこんな具合だった。
肩、胴、脚、すべてが白っぽい鋼の色をしており、ところどころ赤色の模様がいい具合に入っている。
金属部分の造形も女性が着ること前提で作られたような可愛さだ。飾りとしてある真っ赤なミニスカートのようなヒラヒラがそれを引き立てる。
特に、上下とものインナーがしっかりしており、それによって肌の露出具合も俺が危惧するほどではない。
これで、店員曰く「肌の露出を抑えたい女性向け」。
値段は全身セットで147万ベル。
特に気にしてなかってが、オマケの効果として闇属性に対し耐性があり、逆に自身の使う光属性の攻撃を大きく上昇させられるようだ。
「どうかな、ザン、これ」
「ああ、いいと思うぜ! バッチリだ」
「じゃあこれください!」
「はーい、毎度あり! じゃあ次はお兄さんね。お兄さんは二着しか用意できなかったし、ちょっとその二つ値段に差があるんだ。というのも、お兄さんの要望をそのまま叶えると、冒険者用の防具っていうより、趣味で狩りを楽しむ貴族ようの防護服がベストなんだよ。その商品はウチにはあんまり数がなくてね……。一方は70万ベルで、もう一方は141万ベルなんだ」
「そうか。じゃあ141万ベルの方で……」
「いや、それに加えてね、お願いされてた魔力を防御の足しにできる効果、どっちにも、もとから付いてなくてさ。付与師さんが作った『エンチャントの札』を購入して使ってもらわないといけないんだよね」
ああ、付与師ってのは聞いたことがある。
魔法使いから派生した職業で、この人達が人工物の衣服に、サイズを合わせる効果や、劣化しにくい効果といったものを付与しているらしい。今の世の中には欠かせない存在だな。
「それで、その効果の『エンチャントの札』は一枚25万ベルするんだ。一応、ウチと提携組んでるとこらの商品が置いてあるから、別の店に買いに行く必要はないけど……どうしようか?」
「となると、16万ベルのオーバーか……ん、あんまり問題はないな。それで行こう。とりあえず見せてくれ」
「よし、わかったよ」
用意されたのは、黒い布の生地に深い青い色の魔物の革が縫い付けられているものだった。トップスとパンツでワンセット。
肘と膝には軽めに鉄製の金属がついており、そして脛の部分には茶色い別の魔物の革で覆われている。
上にボロくなってもいいベストでも着れば、帽子と合わせて立派なコーディネートになりそうだ。
「いいね……ロナはどう思う?」
「そ、それでちゃんとザンを守れるのかな?」
「なに、俺の力と合わせれば問題ないだろ」
「あ、そっか。じゃあいいと思う!」
「ってなわけだ、これにするぜ」
「それでいいなら、よかったよー! じゃあ裏でエンチャントの札を施してくるから、その後お会計でいいかな?」
「よろしく頼んだ」
そのあと、俺たちに防具は渡され、計300万ベル強と引き換えに立派な装備を手に入れることとなった。
ただ、装備を一新しただけ……シンプルだがまた一つ強くなれただろう。
となれば明日か、明後日あたりにまたダンジョン攻略に行かなきゃな。
やることは済んだので、女の子みたいな見た目の男のドワーフ族に見送られながら、俺たちは店を出る。
このあとランチを食べにどこかの店に入れば、それでこのデートは終わりだ。
「…….ね、ザン。またこうしていつか、一緒にお買い物とかしてくれる?」
道中、ロナは嬉しそうに微笑みながらそう訊いてきた。
色々と不備はあったような気がするが、ロナ自身は楽しいと思っていてくれたのか。……よし。
「もちろん、いつでも。そうだ、そのうち旅行とかも行きたいな」
「りょ、旅行かぁ……! いいなぁ、私、したことないから、そんなこと……!」
「いいぜ。またエスコートするさ、紳士的にな!」
=====
第一部の閑話もこれにて終了であります!
ここまで閲覧ありがとうございました。
次回からは第二部が始まりますので、よろしくお願いします。
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!
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