◆ ちゃんとした防具 前編

「ふぅ……! 私にもザンの言うエレガントが何かわかった気がする……」

「ああ、それはよかった」



 休憩のため……いや、正しくは俺の服の購入の際にロナを話から半分おいてけぼりにしてしまった罪滅ぼしのために入ったカフェから、俺達は穏やかな気分になって出てきた。


 ランチ前に嗜む、一杯のティーとスイーツ。

 実に紳士的で、実に優雅な時間だった。


 ちなみにロナが食べだパンケーキの枚数は十枚だ。よくたったそれだけで抑えられたと思う。


 そうこうして、やがて俺達は一件の防具屋に辿り着いた。

 建物自体は至って普通だが、入り口近くに鎧が数台、防具立てに掛けて立てられており、かなりそれらしい雰囲気がある。


 今回の店は俺が前もって選んでいたわけじゃない。『リブラの天秤』の冒険者の面々からオススメを聞いておいたのさ。

 その中でも防御の面で随一の実力を誇るブリギオの意見を取り入れ、この店にしたんだ。


 ……しかし、まあ、店の前に立ってからのロナの上機嫌振りがすごいな。瞳は輝き、身体は今にも踊り出しそうだ。

 純粋な戦闘職の人間にとって、新しい装備品というのはやはり、心躍るものなんだろう。


 

「すごくワクワクするよっ! 私、自分用のちゃんとした装備なんて初めて買うから……!」

「まあ、今日の買い物の本命だしな。じゃ、入るか」

「うん!」



 中に入ると……専門の店なんだから当たり前のことかもしれないが、防具がずらりと並んでいた。

 俺にとってはとても新鮮な光景だ。


 故郷の村にも武具の店が無かったわけじゃない。しかし、一般人にとって必要なくらいの、最低限の品揃えしかなかったからな。


 店の奥の方から金物を叩く音が聞こえる。

 表の看板にも書いてあったが、この店は工房と一体のようだ。



「いらっしゃい! ……あ、初めての人だね!」



 迎えてくれたのは、身長が低めで、耳の先が少しだけとんがっている……そう、ドワーフ族だ。

 武器、防具、道具の鍛治と言ったらやはりこの種族か。


 ドワーフ族が金物の店の経営に関わっているいるってだけで、その店の品物の質が素晴らしいことは保証されたようなものだ……と世間では判断するらしい。


 どれ、俺たちも一つ期待してみるか。

 まあそもそもが、Sランクの冒険者から紹介された店だから、品質の心配はしてないけどな。



「ああ、知り合いからオススメされてな」

「そっかー、それは嬉しいね! ウチは特注の依頼も既製品の販売もどっちもやってるんだけど、ご希望は?」

「えと、既製品のつもりで来ました」

「そうかい。じゃあ話はこっちで聞こうかな」

「よろしく頼むぜ」



 ドワーフ族ってのはエルフ族と同じで寿命が長い種族だ。

 いや、なんならエルフ族よりも長寿だったか……?


 とにかく、迎えてくれたこの子も、十四歳から十五歳程度に見えるが、おそらくは俺たちより歳上なんだろうな。

 

 しかし……なんて中性的な顔立ちをしてるんだ。

 おそらくはドワーフ族の中でも美形だろう。

 どっちかというと、女の子よりの雰囲気がある……が、俺はレディと戯れむのが趣味の紳士、この眼は誤魔化されない。

 彼は男だ。


 とりあえず、俺達は少し開いた場所に通された。服屋のように鏡やら試着室やらがある。

 そこで立ち止まって、話し合いが始まった。



「それじゃあ君達のことから聞こうかな。冒険者相手に商売やってるとね、お客さんがどのくらいの強さをもってるか、能力関係なしに、顔つきとからなんとなーくわかるんだけど……二人ともまだ成り立てって感じだね?」

「なんというか……ちょっと説明難しいんですけど……あんまり経験がない、ということならその通りです」

「じゃあ初心者用の防具で、予算も十数万ベルくらいの範囲内のものがいいのかな?」

「いや、予算は俺も彼女も150万ベルずつだ。二人合わせて300万ベル。多少なら上下しても構わない」

「はぇ! そうなんだ?」



 実は、俺とロナはこの装備に自分達の所持金の半分以上を注ぎ込むつもりで来てるんだ。

 防具を買うってことは、そのまま安全を買うって意味だからな。

 

 レディのような顔立ちのドワーフ族の彼は、目を丸くしつつ、話が見えていないこと表情で示している。

 まあ、俺たちは色んな点で特殊だからな。なるべく隠しておきたい力であるとはいえ、今回はある程度説明しなきゃ、彼が困るだけだ。



「詳しく説明すると、まず俺達は冒険者じゃない。傭兵でもない。どこかに属しているわけでもない。ただ、ダンジョン攻略を専門に活動している二人組だ」

「いわゆる、攻略者ってやつです!」

「それも最近結成して、最近始めたんだけどな」

「ああ……あーあーあー! なーるほどね……! って、え? なんかこう……失礼かもだけど、それ大丈夫なの? あんまり経験がないのは事実なんでしょ? ちゃんと攻略できてるの?」 


 

 うーん、やっぱり俺たちってそこまで弱そうに見えるのか?

 数多くの冒険者を見てきたであろう、防具店の店員がそう言うんだもんな。

 『ヘレストロイア』の面々がギルドの仲間に、俺達二人に助けられた……って言っても初めのうちは半信半疑だったしなぁ。


 まー、そういう強そうな雰囲気や威厳ってのは、あろうがなかろうが、ただダンジョン攻略が目的な俺たちには関係ないか。



「ああ、できてるから資金はあるんだ。……訳あってステータスカードは見せられないが、俺の持つ能力がちょっと特殊でな、ダンジョン攻略をかなり有利に進められるんだ。そして彼女は竜族の人間で戦闘センスはピカイチだ。そんなコンビだから、初心者だが既に二つほどダンジョンは踏破できてるんだぜ」

「ほへー……そんなことが……。あれ……あ、そっか女の子の方は竜族なんだ! いやー、うっかり。獣人族ってこと以外は気がつかなかったよ。へぇ……二十歳超えてなさそえな竜族の子なんて初めて見たなー!」



 ロナはこういう反応されることが多いな。

 さて、俺達の軽い説明はしたんだ。

 次は買いたい防具の要望を聞いてもらうとしよう。








=====


また遅くなりました……最近深夜一時半近くが多いですね。

本音を言うと、この時間に投稿すると初見の方があまりいらっしゃらないので、本当は午後九時あたりまでに投稿したいんですが……書き上がるのがなんとも。


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