第48話 紳士 vs. 大物狩り 後編

「あいつ……お、オレの剣を……!」

光波突こうはづきャァァァァァァ!」



 ヤツは剣を後ろに軽く引き、技を唱えながら再びそれを突き出した。

 だが今まで通り、何も出ない。



「ギギギ……! やはり、術技も使えませんか……どういう仕掛けですかこれはァ」

「変な力を使うのはお互い様だろ?」



 『バイルトン』と『フォルテット』を操作して持ち上げ、俺自身は『ハムン』を構える。


 宝具三つを一人で使っての猛攻。

 俺が今、『バイルトン』を限界まで巨大化させる以外で考えつく、最高レベルの攻撃だ。


 ……が。


 《大物狩り》は『バイルトン』を徹底して回避しつつ、『フォルテット』は剣で叩き落とし、『ハムン』の光の矢も同様にさばいて、どうしてもかわせないものは肩や腕といった致命傷にならない場所で安全に受けた。


 『剣術』や『槍術』といった能力すら無効化しているのにも関わらず、俺が不意打ちをせず正面から攻めた途端にこの立ち回りか。


 ステータスは俺と一緒なんだ。

 こんな芸当ができるってことは、身に染みるまで、いままでしっかりと鍛錬を積んできてことを意味するはずだ。


 顔も公開させてやったし、ダメージだって蓄積させている。

 確実に追い詰めてはいるのだろうが、格上を相手にしている感覚が拭えない。


 それほど強いのなら普通に冒険者なり傭兵なりをやればいいのに、なんでわざわざ己の犯罪に使っているんだろうか。


 ジェントルマンである俺にはまるで理解ができないな。



「ぐ……ツっ……! ハァハァ……ラチが、あかないですねッ……。雑魚と遊んでいる暇はないのに……顔までバレて……わかりました。もう、分かりました。終わらせてやる、終わらせてやりますよ!」



 《大物狩り》の白い衣服の両袖に、血が滲んできた頃。

 ヤツは叫びながら、腰の巾着から一つの大きめな球体を取り出した。


 それは青白く光り輝いてこそいるが、同時に禍々しい何かを感じとれる。魔力による探知が一切できないはずの、この俺が。


 ふと、五人の方を見ると、その丸いものを眺めながらロナ含め全員が青く顔色を変えていた。



「し……正気かテメェ、こんな街中で出すかよ、それを⁉︎」

「ば、馬鹿なことはやめるんだ……」

「なんでそんなものを……き、巨核魔導爆弾だなんて……っ!」



 巨核とやらは知らないが、普通の魔導爆弾なら俺も知っている。


 工事や魔物に対して罠を仕掛ける際に使われる、爆発魔法系の魔力が込められたアイテムだ。

 故郷で昔、交通に邪魔な岩を吹っ飛ばすために大人達が使ってたのを見たことがある。


 だが今出された巨核魔導爆弾は、大きさ、強そうな名前、俺の直感、そして皆んなの反応からして、明らかにやばそうだ。



「ありとあらゆるものが使えない状態にされたのなら、これを使うのもやむを得ないというものでしょうよぉ! 魔力を使わずとも、スイッチを押せばいいのですから!」

「そんなことしたら、ここら一体が吹っ飛ぶのです……!」

「あ、あなたも……ただじゃ、すまない……!」

「やめ……!」

「イヤです……イヤですよ。正体を見てしまった人間が居なくなるのならこのくらいはしますって! ええ、しますともォ!」



 《大物狩り》は輝く球体の一部を押しこむと、すぐさまそれを俺に向かって放ってきた。

 

 焦る皆と、笑みを浮かべながら興奮する相手……。

 本来なら俺は、ピンチに陥っているのだろう。

 だが、俺のハートは最高にクールだった。


 この魔導爆弾がどれほどの破壊力を持つか俺は知らないが、対処方法自体はすぐに思い浮かんだんだ。


 それが成功するかどうかは正直賭けではあるが、俺は今、麗しいレディ三人と他二人を守ってる立場。

 死んでも成功させてみせるさ。



「地面にあたればドカン! 数秒経ってもドカン! さぁ、消えなさいッッッ!」

「いいや、消させないさ。紳士の名の下にな」



 まあ、対処法といっても簡単だ。


 俺の『ソーサ』で爆弾を空に浮かして上へ飛ばすだけ。


 ついでに、先ほどまで地面に転がせていた『バイルド』を巨大化させつつその下に添えて共に上昇させ、爆風と衝撃に耐えられるようにするんだ。


 レディの手を取る紳士のように、慎重かつ大胆にな。



「上にっ……! そうか……その手が……!」

「さすがザン!」

「でもよ、さっきからよ……あ、あいつ、どこからあんな力出してんだ……?」



 とはいえ、こんな単純な方法でも問題点はある。主に三つ。


 一つは俺の『ソーサ』はどれほどの高さまで効果を反映させられるかわからないこと。


 二つ目は爆弾がいつ爆発するかわからないこと。


 そして最後に巨大化させていく『バイルド』をどこまで操りきれるか、だ。


 実際、既に爆弾と盾を上昇させ始めて数秒経ったが……そこそこキツくなってきた。

 だが、紳士は気張る。紳士だから気張る。



「はぁ……はぁ……はぁ……」

「アぁー、よくやるものですメェ」

「くっ……」



 気がつけば『バイルド』はもう、ここら一帯に大きな影を落とすほど膨らんでいた。上昇させた距離も並大抵の建物は超えたか。


 爆弾に注意を払いつつ、巨大化させつつ、双方落とさないようにする。


 マジでキツい、脳みその使いすぎで頭が割れそうだ。鼻から血も出てきた。バテそう。重い。とても重い。苦しい。


 しかしそんな弱音、紳士は吐かない。

 とにかく集中……集中を……!



「それにしてもですよ、私、貴方という優しい人間に計画を邪魔されるの実は二回目なんですよメェ」

「はぁ……はぁ……っ?」

 


 なんだ?

 イヤに大人しくなりやがって、さっきまであんなに狂ったように声を荒らげていたのに。それに今更、昨日のことなんて……。



「確か貴方、紳士を自称してるんでしたっけ? まだ子供っぽいところはありますが、ええ、そこは認めましょう。なかなかにジェントルマンですよ。優しい……優しい……。優……優しすぎるのですメェ‼︎ 私ね、こんなにも絵に描いたような優しさがアダになる場面作り上げたの、初めてですよォ……!」



 そう言って《大物狩り》は巾着から再び玉を取り出した。

 俺も見たことがある、普通サイズの魔導爆弾だった。



「貴方がどれほど強い奇術を持っていようが、星1つの雑魚であることには変わりありません。あんな威力のあるもの使わなくとも、これで十分なんですよメェエエエエ!」



 手のひらサイズの球体についてる小さなスイッチが押された。

 起動したそれは軽く放られ、俺に向かって飛んでくる。


 上のものに意識も全部割いてるせいで、『ソーサ』だけでなく腕すら動かせない。


 さらに操作から伝わってくる感覚からして、巨核魔導爆弾の方の爆発がもうすぐそこのようだ。

 一旦、上の方を解除して目の前の爆弾に集中する暇はないだろう。


 はは。この作戦の問題点は三つでなく、「隙を作ってしまう」を加えた四つだったか。

 俺としたことが、クレバーじゃなかった……ぜ。

 

 クソ。対処方法が無い。









=====


もう、この辺りの時間で定期投稿ってことにしてしまいましょうか……申し訳なき候。


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