第20話 大波乱!部活勧誘 中編!

「あ……えと。……えっと」


 月曜日の放課後、旅部の部室を訪れたわたしと穂波を迎えたのは、落ち着いた緑色の髪の男子生徒だった。人見知りなのか、眼鏡のガラスのレンズの向こうでシルバーグレーの瞳をおろおろ泳がせている。暫くして部室の中から稲宮先輩が顔を出し、部室に迎えてくれた。緑髪の先輩は稲宮先輩の後ろに隠れている。稲宮先輩は彼にわたしたちの紹介を軽くして、お出迎えさせてごめんねと謝った。彼は気まずそうにそっぽを向いて、奥の部屋に引っ込んでしまった。


「穂波、雪ちゃん、来てくれて嬉しいよ。さっきの人は花宮くん。人見知り激しいから慣れるまではあんな感じだけど、あんま気にしないでやってくれ」


 言いながら電気ポットで沸かしたお湯をティーバッグを入れたカップに注いで紅茶を淹れてくれる先輩。良い匂いの湯気が立つ。さらりとした茶髪が重量に従って垂れ、横顔から精悍な雰囲気が滲む。この部室顔面偏差値がおかしいよ……わたしを除いて。


 わたしの散らかった胸中なんて知るよしも無い彼は部員の話を続ける。


「今日はもうふたりはいないんだけど……初日に見るにはなんというか、いささか刺激の強い子たちだからかえって良かったかもな」


「どんな人たちなの?」


 穂波が聞くと、先輩は一枚写真を撮りだした。写っているのは稲宮先輩と花宮先輩、そして、男子と女子と1人ずつ。男子の方は強いクセのついたふわふわの銀髪で、口もとの黒子といい目尻の下がった流し目といい、ひとつ上とは思えない妖しい色気がある。女子の方はとんでもない美少女だ。今まで目にした人の中で1番といっても嘘にならないほど。絹糸のようにしなやかで艶やかなグレージュの髪は顎下のラインでぱつんと切り揃えられていて、黄緑色の瞳は宝石のように輝いている。


 なんというか、こんな顔面偏差値の高い部活に入れる自信が無くなってきた……。


「そいつらはちょっと……変でさ。なんていうか、俺も説明しにくいんだよな」


 稲宮先輩が口籠っているとき、ガラガラと後ろのドアが開き、さっきの写真の美少女が立っていた。実物はさらに美しい。まるで人じゃ無いみたいだ。白い陶器のような肌、つまんだように小さい形のいい鼻、華やかな光をたたえた瞳は長い睫毛に縁取られ、唇はぷるんとした桃色。貴女は神の生み出した最高傑作か何かですか?とでも聞きたくなる。


「あらあらなんのお話をしているの?」


 鈴の転がったような声だ。わたしと穂波が彼女に見惚れていると、彼女はわたしたちに気が付いてパッと顔を明るくした。


「あら!今日は花宮くんと部長が話しているんじゃ無いのね!?新入部員の後輩かしら?可愛い子たちじゃない!」


「あ、あれ、今日は来られないんじゃなかったのか?」


「あら……来たらまずかったかしら?」


「いや……」


 稲宮先輩は口籠る。今のところ、ありえないくらいの美人という以外におかしいところは無い、そう安心していた矢先だった。彼女が爆弾発言を落っことしたのは。


「是非入部して欲しいわ!私貴方たちと下世話な話がしたいの!」


 やけに通る綺麗な声、愕然とせざるを得ないわたしと穂波、世界の終末でも迎えたかのような顔をした稲宮先輩。異様な沈黙を破ったのは、やっとのこと立ち直った稲宮先輩だった。


「あー……その子は秋崎あきざき月帆つきほ。部員で2年、その……下ネタが主食だ。月帆!新入部員候補にソレするのやめろって俺言ったよな!?」


「あら、吐き通せない嘘なんて吐くものじゃないわよ」


「お前はオープンにし過ぎだ!」


 穂波と顔を見合わせる。穂波は多分、思った以上に可笑しいけど楽しそう、という顔だ。わたしも……少しワクワクしていた。

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