第19話 大波乱!部活勧誘 前編

「あれ?」


 そう首を傾げる穂波の目線の先には男子生徒がいる。ちょっと待っててねとわたしに断って、穂波はその人に近づいた。目が合うと、穂波は彼に親しげに笑いかけた。


「やっぱりルカくんだ。久しぶり」


「えっと……なんで俺の名前知ってるの?」


「藍染穂波だけど、わからないかな?」


「……穂波か!?これまたずいぶん男前になって……」


 近づいて見てみると、ルカくんと呼ばれたその先輩らしき人物はふわふわしたダークブラウンの髪をセンター分けにした、俗に言うイケメンという部類な感じの男の子だった。身長も高いし、雰囲気が優しい。穂波はわたしのほうに向いた。


「この人ね、自分の幼馴染みの稲宮いなみや流夏るかくん。ひとつ上だから一応先輩だよ」


「穂波……一応ってなんだ一応って」


「あ、えっと……わたしは淡谷雪っていいます。稲宮先輩、よ、宜しく……」


「うん、淡谷さんか。宜しくね」


「ちょっとルカくん、雪ちゃんのこと籠絡するのやめてよ」


 握手のために手を差し出した稲宮先輩に、穂波はむっと口を突き出してそう言った。稲宮先輩は慣れたように穂波の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。


「籠絡なんかしてないだろ。穂波の友達にはしないよ」


「自分の友達じゃなきゃするんでしょ。ルカくん死ぬほどモテたいの今も変わって無いんだね」


「穂波ぃぃ?ちょっとだけ黙ろうか、いいな黙れよ?」


「図星だね」


「うるさいぞ」


 これ、なんかに似てる。そうだ、綴先生が凪沢先生と話すときだけ饒舌になる、あのときの感じに似てる。わたしには見せないような悪戯っぽい笑顔、揶揄からかうみたいな態度も。言いようもないような淋しい気持ちに心がきゅっとなる。この人は、稲宮先輩はわたしの知らない穂波をたくさん知ってる人で、穂波の恋人にわたしよりも近い人。


「……で、淡谷さんもどうかな?」


「……ぅえっ!?あ、すみません、なんですか?」


「ふふ、雪ちゃんボーッとしてた?ルカくんの部活、部員募集してるんだって」


「もうそろそろ入部届け出さないといけない時期だろ?俺の部活、自由な凪高ならでは、って感じだし、どうかなと思って」


 稲宮先輩の部活というのは、日本研究部というらしい。観光名所を巡るのが主な活動で、通称『旅部』らしい。確かに、ほぼ旅行してるだけの部活なんて、凪高じゃなきゃ無理かもしれない(旅行を生かして城の模型を作ったり、和歌を作ったりしてるらしいが)。部員は現時点でそんなに多くないらしい。二年生が稲宮先輩を含めて四人、一年生はゼロ人だそうだ。稲宮先輩曰く部員が曲者揃いなのだとか。


 穂波は興味があらようなので、わたしも来週一緒に見学に行くことにした。


 ***


「穂波に出会ってしまった」


「部長煩い」


「穂波ってばかっこよくなって……!」


「煩い稲宮」


「でも美人!穂波は最強なんじゃないか⁉︎」


「煩いクソ宮」


「いつかイタリアにハネムーン♡に……」


「煩いぞクソ野郎」


「ちょっとぉ!?さっきから花宮くん煩いしか言ってないじゃん!ちょっとくらい俺の話聞いてくれても良くない!?」


「……は?」


「冷たい!!」


 その日の旅部の部室は騒がしかったそう。

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