第14話 夜の学校 前編
学校の図書室で自習をしていたら、気づかないうちに外は真っ暗になっていた。今日が当番だったコウくんに
「なんだ、雪と藍染まだ居たのかよもう遅ェのに。そろそろ閉めんぞー?」
と言われて初めて、大分時間が経っていたのに気付いたのだ。別に、自習をする穂波の綺麗な横顔のラインに見惚れていたとかでは無いが(見惚れてたとしてもそんなに長時間じゃない)、静かにノートに集中する穂波の隣は張り詰めるわけでもなくのんびりし過ぎるのでもない、緩やかな空気が漂っているみたいで、なんだか居心地が良かった。穂波も空が大分暗くなっていたことに気付いていなかったらしく、慌てて帰り支度を始め出した。
「ごめんね雪ちゃん、遅くなっちゃったね。早く帰ろう、送っていくから」
「いいよいいよ!わたし走って帰るし!」
「自分のせいだから遠慮しないで。母さんに連絡するからちょっと待っててね」
穂波はリュックの中にゴソゴソ手を突っ込んで携帯を探している。わたしよりも穂波の方が美人だし、穂波の方が危ないんじゃないのかと思ったけど、穂波かっこいいからな、と思い直す。しかし、シキはとにかくコウくんは穂波のことを初見で女の子だと見破ったわけだし、一般的に見れば穂波はどっちに見えるのだろう。クラスの大半は最初男の子だと思ってたけど、それは学ランっていう色眼鏡があったからだ。だとしたら、むしろすごいのはコウくんの方……?
「コウくんって彼女いるの?」
「あ?……はァ!?なんだよ急にてめー」
「いや別に」
「は……?」
この反応は多分いないな。わたしは顔を赤らめているコウくんを見て確信する。まだリュックを探っている穂波は、焦ったような顔で、あれ……と呟いた。
「スマホ、ロッカーに置いて来たかも……」
青ざめた顔で言う穂波。図書室があるのは南校舎から廊下を挟んだ北校舎からさらに廊下を挟んだ棟だ。つまりは、この暗い中教室まで薄暗い廊下を通って行かなければならないことになる。そして、前休みの日に一緒に映画を観に行って知ったことだが、穂波はどうやらホラー系が苦手らしい。
「明日にすれば?ロッカーに入ってたら多分誰にも盗られないよ」
「母さんに怒られる……」
「……わたしも一緒に行くよ」
お願いします……と縮こまる穂波が不覚にも可愛い。申し訳ないけど、ちょっとラッキーだななんて思ってしまう。わたしはスマホのライトをつけて穂波の腕を引いた。彼女の逆の手には何故か青い折り畳み傘が握られている。
「なんで傘?」
「何か出たとき用の、武器」
なんて真面目な顔で言うから、流石に笑ってしまったけど。
わたしたちは図書室に荷物を置かせてもらって廊下に出た。つるつるした廊下に映る非常灯と窓の影が、ホラー映画の夜の学校のような雰囲気を醸し出す。アルミサッシに区切られた窓からは、青白い三日月と風に煽られてザワザワ葉を揺らすお化けみたいな木が覗く。
何か出そうってこういうことなんだろうと思った。
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