第13話 うちの先生は個性的
ベンチに丸まるように横になっている男性の、フワフワした特徴的なクセ毛を見てすぐに分かった。わたしの探していた
というか、校内で猫みたいに丸まって寝る先生なんて初めて見たのだが……。
わたしが軽く衝撃を受けていると、芝生を踏むローファーのサクサクした足音の所為か、頭と同じ色素の薄い睫毛がぱちぱちとまばたきをしてから、瞼を開けた。とろんとした眠そうな瞳がわたしを捉えた瞬間、先生は驚いたように目を見開いてガバッと起き上がった。
「あ、ご、ごめんなさい、俺……寝てたみたいで……。えっと君は確か、
零というのは凪沢先生の下の名前だ。凪沢零、と始業式の日に黒板に書いていたのを覚えている。綴先生と凪沢先生は仲が良いらしく、凪沢先生はたまに、綴先生の話をとても楽しそうにする。確か、小学校の頃からの友達だと言っていた。綴先生はひとつ年上で面倒見が良く、オカン体質だったとか……。それにしても、下の名前で呼び合っているし、綴先生と凪沢先生は本当に仲が良いようだ。
いや、今はそんなことを思い出している場合じゃない。わたしは課題の提出に来たんだった、と今更のように思い出して、ノートを差し出しながら頭を下げる。穏やかに見える先生だけど、課題の提出に厳しい先生はやっぱり多い。怒られることも覚悟してある……一応。だが、予想に反して、綴先生は怒った様子は無かった。
「あ、態々出しに来てくれたんですね。ごめんなさい、探しましたか?俺、なかなか見つからなかっただろ、ごめんね……」
「あっ、いや……。国宮先生に教えてもらいましたから」
「く、国宮先生!?……あ、いや……気にしないでくれ……」
国宮先生の名前を出した途端、慌て始める綴先生。国宮先生は怒ると凄く怖いと風の噂に聞いたが、もしかして綴先生も経験済みなんだろうか。あのおっとりした先生は、怒るとどうなるんだろう。
そんなことを考えていると、予鈴のチャイムが遠く鳴るのが聞こえた。チャイムの音に綴先生がびくりと反応する。
「仕事……仕事しないと。淡谷さんも、もう戻ったほうがいいですよ……って、こうなったのは俺のせいか、ごめん……。授業に遅れて怒られたら、俺のせいだって言ってください。あ、あと、課題はできるだけ、忘れちゃだめですよ。次はちょっと怒りますから、多分……」
「忘れないようにします!……って、ちょっとですか、しかも多分ですか」
「あっ……じゃあ、怒ります」
へにゃっと笑う綴先生と話すのは楽しくて、凪沢先生と碧ちゃんの気持ちが少し分かったかもしれない。綴先生は、オドオドしているが、面白い人だ。
自分のクラスにダッシュで滑り込んだ瞬間チャイムが鳴り、凪沢先生に
「こらー、走らないの!」
と、軽く怒られる。可愛い少年のような見た目の彼に怒られてもあまり怖くないが、言い訳を聞いてあげよう、と言われたので、綴先生に課題を出しに行ってました、と返す。すると、凪沢先生はやっぱり少し楽しそうに
「アキラ、たまにUMAレベルで神出鬼没だもんなぁ。昨日も夜中まで仕事してたし、大方どっかで寝てたんでしょ。いいよ、許す!」
と言うのだった。
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