第7話 図書委員三人組

「双子?」


「うん。シキっていうの」


「ユキとシキかぁ……。なんかいいね。自分は一人っ子だから羨ましいかも」


 双子の兄がいることを話すと、穂波は微笑わらってそう言う。彼女が女の子だと分かってから、暫くは変に意識してしまったけど、やっと自然に話せるようになった。穂波を男の子だと思っていたときは男の子としてカッコ良くて可愛いと思っていたけど、女の子だと気付いてからも、女の子としてもカッコよくて可愛くて、優しくて良い人だと思った。


 本当のことを言うなら、彼女の性別なんてどうでも良かったのかもしれない。穂波を好きになった理由だって、無理に言葉でなんて説明できない。ただ取り留めもなく、なんとなく、深海から見た太陽みたいに、触れなくて掴めない……だけど確かに、わたしは穂波が好きだ、って思う。


 恋って、もっと明確な理由が象るものだと思ってたな。


「双子ってやっぱり似てるもの?」


「うーん、あんまり似てないかなぁ。わたしは勉強とか運動とか、やらなきゃ全然出来ないけど、シキは何でも、最初から器用にこなすんだ。天才肌っていうのかなぁ。……あ、でも黒子ほくろがね、左右対称の位置にあるんだ!」


「あ、これ?凄いね、奇跡」


 穂波の細長い手がわたしの頬に添えられて、親指の体温が一瞬目の下に触れる。そうそう、なんて笑って返すけど、内心ドキドキして仕方がなかった。泣き黒子といったっけ、目の下のそれは、一般的にセクシーだなんて言われることも多い。自分は幼顔だから、鏡を見てもあまり色気は感じないけど、シキは顔が少し大人びてきているので、確かにちょっと色っぽいかも、なんて思ってしまうときがある。もし大人顔の穂波に泣き黒子があったら……やめとこ、三途の川見えちゃう。


「コウくんは妹だっけ〜?」


 恥ずかしくなってコウくんに話を振る。後になってから分かったことだけど、コウくんも図書委員会らしい。今日は図書室の整理をしているのだ。


「おー。俺は梨帆っつう妹がひとりだな。実家にいるからしばらく会ってねェけど」


 梨帆ちゃんかぁ。顔は似てるんだろうか。今度写真でも見せて貰おう、なんて考えていると、穂波がコウくんに


「樋口くんは一人暮らし?」


 と聞く。この前も実家の妹に電話する、と言っていたから、この年でもう一人暮らしなんだろうか。コウくんはかははと笑う。


「おーよ。高校の寮に最近越してきたとこだが、中3から一人暮らししてんだ。中2で家出してバアちゃん家転がり込んでなァ。ずっと居座るわけにもいかねェし、半年して一人暮らし始めたんだよな」


「家出って……。でも確かに、凪高は寮とか綺麗って聞いた」


 凪沢高校は設備が整っているのだ。校舎も寮もとにかくキレイだし、学食や購買はかなり割安で使える。図書館も広くて本も多い。


「ここの寮、設備のわりにリーズナブルなんだぜ。同室のヤツもイイヤツだったし、卒業しても出て行きたくねェくらい」


 かはは、と笑いながらコウくんは言う。わたしもシキも、家が近いから学生寮には入らなかった。もし寮に入ってたら、穂波と同じ部屋とかもあり得たかなぁ……。いやいや、何考えてるんだわたしは。


「今度遊びに来るか?」


「いいの?行ってみたい!見てみたい!」


 コウくんの誘いに二つ返事で乗ると、穂波はわたしの腕をぎゅっと掴んで、


「こら雪ちゃん、男の子の部屋に、女の子の君ひとりで上がると危ないよ」


 なんて言う。穂波は来ないつもりなのか、それとも自分も誘われていることに気付いて無いのかも知れない。わたしを気遣う優しい言葉にきゅん、ときてしまう。穂波と話すようになって、わたしは胸キュンを初めて知った。


「じゃァ、シキも誘っとけ。っつうか、藍染は来ねェの?」


「え、自分もいいの?あ、でも、自分は休みの日は基本、母さんと出掛けるから……。やっぱりいいや、ごめんね樋口くん。お誘いありがとう」


 コウくんと穂波が仲良くしていると、少し不安になってしまう。コウくんは男の子で、穂波は女の子だ。ふたりの身長はあまり変わらないとはいえ(コウくんは男の子の中だと少し小柄で、穂波は身長が高いから)、やっぱり明確な差がある。わたしとコウくんだと、穂波の隣に恋人として立てるのは、やっぱりコウくんの方だ。まぁ、ふたりは今日がほぼ初対面で、まだ距離があるのは否めないけど……。いつかそうなるかもなんて、考えてしまう。


 穂波に彼氏ができたら、わたしはどうしようかな。

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