第6話 赤髪のヤンキーさん

「あ……あんときの嬢ちゃんじゃねェかァ。……っと、悪りーな、この前は」


「……この前のヤンキーさん(仮)!」


「あァ!?俺ァヤンキーじゃねェよ!」


 ヤンキーさんの声はそんなに低くはないけど、乾いて尖っていて、やっぱり怖い。ヤンキーさんは怒鳴った後、こういうのがいけねェのか、と、赤いツンツンした頭をガシガシかいた。身長の低いわたしの目線に合わせるように、膝に手をついて少し屈んで、


「あー……おれは樋口ひぐちこうっつうモンでな。この前は怖がらせたみたいだから謝ろうと思って……」


「ひ、ひぐちさんですか。わたしは淡谷雪って言います」


 ひぐちこうと名乗った男の子は、制服をこれでもかと着崩しているし、目つきも悪いけど、見かけに寄らず優しい人なのかもしれない。もしかして、優しく無いのは見た目で人を判断したわたしの方……?いやでも、優しいヤンキーさんなのだろうか。


「ひぐちさんは本当にヤンキーじゃないんですか?」


「そう言ったろ」


「でも髪赤いし」


「地毛だ」


「ピアスとイヤーカフたくさん着けてるし」


「妹のプレゼントだな」


「お金たかってたし」


「携帯ねェから公衆電話で実家の妹に電話したくてな」


「この前煙草吸ってた」


「……ココアシガレットだ。……言わせんなや、甘いもの好き隠してんのに」


「……」


 やってしまった。


 ひぐちさんは全くヤンキーじゃない。ただ見た目が厳ついだけだった。わたしの脳髄に後悔が走る。人を見た目で判断するなんて、やってはいけないことだ。


 申し訳なくて、いてもたってもいられなくなったわたしはガバッと頭を下げた。ひぐちさんが驚いて、うお、と声を上げる。


「ごめんなさい!わたしそういうつもりじゃなくてっ!ひぐちさんあまりに見た目が厳ついから、ごめんなさい!」


「あー……、俺貶されてんのかコレ。まァいっか。えと、いいから顔上げろ。俺も人相悪い自覚あるし、こういう勘違いは慣れっこだからよ」


「ひぐちさん優しい……」


 ひぐちさんは困ったように頭をかいた。後で聞いた話だが、ひぐちさんはあまり女の子が得意じゃないらしい。身長もそこまで高くないし、話せば話すほどひぐちさんは可愛い人だった。


「そういえば、お前、苗字あわやっつったよな?淡いに谷で淡谷か?」


「え、うん。あ、もしかしてシキに会った?あいつ、双子の兄貴なんだ」


「そっか。じゃあ雪でいいな?」


「えっ、うん……!なんか仲良くなれて嬉しいな!じゃあわたしもコウくんって呼ぶね!ねえ、コウくんは漢字どうやって書くの?」


 ひぐちこうくんは樋口紅くんというらしい。五千円の樋口にべにの紅、って言うから少しびっくりしたけど。五千円の樋口って。


 あとで穂波に話すと、


「失礼なことしちゃったな……」


 なんて申し訳なさそうに眉を下げていた。の字になる眉毛が可愛くて、わたしは一瞬川とお花畑が見えた。


 高校は少し不安だったけど、少しずつ友達が増えてきたおかげで、段々楽しくなってきた。鍵付きの日記に、『人を見た目で判断しないこと!』と大きく書いて、赤の色鉛筆でグリグリ丸をつけて目立たせておいた。


 恥ずかしそうにしてたコウくんが可愛かったから、コウくんは甘いもの好き、と小さくコッソリ書いておいた。

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