第3話 カップル割引
「なんかごめんね……?」
「ううんっ!穂波と図書委員できたら絶対楽しい!」
そうかなぁ、なんて眉を下げて笑う穂波。そう、わたしと穂波は同じ図書委員会に入ったのだ。穂波曰く、クラスも掃除場所も委員会も同じなんて申し訳ないらしいのだが、わたしとしては寧ろ大歓迎だった。彼は学ラン姿で、今日もカッコいい。深く澄んだ青の瞳は今日も綺麗だ。
学校はお昼までで、昼ごはんも食べずに解散だった。うちは共働きで、母さんも父さんも入学式が終わったらすぐ仕事に行ってしまったので、昼ごはんはシキとふたりで食べることになりそうだ。穂波の家はどうなのだろう。彼のお母さんの顔とか、少し見てみたいものだ。
そう思っていたけど、穂波のお母さんも式諸々を終えてすぐ帰ってしまったらしかった。お昼一緒に食べないか、誘ってもいいものだろうか。
「穂波、もし都合が悪くなかったら、ご飯一緒に食べない?」
駄目元で誘うと、穂波はふわ、と笑う。
「雪ちゃんがいいなら、是非」
わたしは上がってしまう口角をなんとか平常に保って、シキに連絡を入れた。ファミレスに行こうということになり、ふたりで近場の店に入る。穂波はそんなつもり無いんだろうけど、デートみたいで鼓動が激しくなる。わたしはパスタ、穂波はハンバーグを頼んだ。
「穂波学ラン似合うね。カッコいい」
「あはは、そうかな、変じゃあ、ない?」
「全然変じゃないよ」
他愛もない会話を紡ぐうちにあっという間に食事が終わってしまう。もっと一緒にいたくて、デザート頼む?と聞くと、意外なことに穂波は目を輝かせた。可愛過ぎて昇天しそうだ。
「何にしようかなぁ……。苺パフェ美味しそう、でもチーズケーキも……迷う……!……ごめん、早く決めるね!……ってあれ、どうした?大丈夫?」
「三途の川が刹那的に見えただけじゃ気にするでない」
「はは、誰それ。やっぱり苺パフェにしよ。雪ちゃんはどうする?パフェ大きいし半分こしようか?」
爆弾発言を落っことす穂波。神様ありがとうと思いながら二つ返事で誘いに乗って、パフェをふたりでつっついた。デートみたいだと思ってるのはあながちわたしだけでも無いみたいで、ファミレスの店員さんがカップル割引をしてくれた。穂波は一瞬固まったが、
「えと、はい!お、俺は彼女の男です」
と、動揺しながら肯定して、割り引いてもらった。彼女の男です、なんてよく考えたら変な言い方だけど、店員のお姉さんは微笑ましげに笑っただけだった。きっと、ウブな男子高校生だな、とか思ったんだと思う。
穂波は男前なことに、パフェを奢ってくれた。そこも割り勘でいいと言ったけど、
「自分が言い出したことだから、ね?」
と、頑なだった。
ファミレスを出て少ししてから、おかしくなってどちらからともなく笑い出す。
「まさかカップルと思われるなんてね」
「なんかごめんね、わたしなんかとで。でもさっきの穂波ちょっと面白かったよ」
「あはは、びっくりしたんだよ、仕方ないだろ。迫真の演技だったでしょ」
「うん、上手かった」
出会って2日目にして、こうも仲良くなれるとは思わなかった。もしかしたら、いつか本当に付き合えるかも、なんて……淡い夢を見てしまう。穂波は美男子だから、みんな放って置かないだろうし、わたしなんかじゃ釣り合わないけど。せいぜい女子力磨こうっと。
実はわたしよりシキの方が女子力が高いのだ。料理も裁縫もシキの方が上手いし、乾燥肌という理由もあるけど肌の手入れもあいつの方がしっかりしている。ぽーっとそんなことを考えながら歩いていると、突然穂波に腕を引っ張られる。
わたしが渡ろうとしていたのは赤信号だった。
「危ないよ、気をつけないと」
わたしを後ろから抱き締めるみたいに受け止めた穂波は、わたしの目を見て優しく微笑む。横断歩道の上をひっきりなしに車が通っている。そういえば、ここは車がスピードを出して通りがちな少し危ない道路だった。
一瞬遅れて感覚が追いついたわたしは、慌ててぱっと穂波から離れる。
なんだ今の、カッコいい。
「ありがと、ごめんねぼーっとしちゃって」
「全くそそっかしいなぁ。大丈夫、自分と一緒のときなら、自分が気を付けて雪ちゃんを見ておくから」
「……ありがとう穂波〜!」
熱の引かないほっぺたを春の風が撫ぜる。
優しくてカッコいい穂波が、たまにとてつもなく可愛い穂波が、たまらなく好き。
未熟な好きがわたしの胸でさざめいていた。
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