第39話
「それじゃあ、わたしからも質問いい?」
丁度タコ焼きが完成し、皿に移し始めた。
一区切りついた感じだったから、質問タイムは終わってたような流れだったのに。そんなのも意に介さずに、質問をぶつけてきたのは上谷戸きのみだった。
「え、うん。いいよ」
アオさんも同じだったようで、少し戸惑いの色を出していた。
「好きな花ってなぁに?」
「え、好きな花?」
上谷戸きのみだけあって、類を見ない突飛な質問だった。そんなの知ってどうするんだって、恐らく誰しもが思うに違いない。これが上谷戸きのみの恐ろしい所だ。
「ええっと、好きな花ねぇ……」
先ほどとは別の意味で、アオさんは言葉に詰まってしまった。
梨花といい、上谷戸きのみといい。今日は何でこんなに彼女を困らせたがるんだ。変わりに答えてやりたいくらいだが、オレも別に好きな花っていうのは無かった。
「なんで、そんな質問したんだよ」
上谷戸きのみに関しては誰でもそうなるかもしれんが、珍しくオレとツツミチの意見が合った。
「アオさんって、アヤメが好きそうだなって思って」
「え、アヤメ?」
これまた突拍子もない上谷戸きのみの台詞に、アオさんの言葉も裏返った。
「……もしかして、アヤメって青いから?」
南タマキさんが苦笑いで言った。アヤメの花ってどんなのか覚えていないが、アオって名前だから青い花が好きなんじゃないかっていう駄洒落なのか。
「アヤメって青いの?」とアオさんが言った。彼女もオレ同様、アヤメの姿形が思い出せないようだ。
ソラがタコ焼きを口に入れながら、携帯電話をアオさんの方に向けた。画面を盗み見ると、青い花の写真が表示されていた。ネットでアヤメを検索してくれていたのだ。
「ああ、これなの」
画面を見てアオさんが晴れた顔をした。
「これは、うん。嫌いじゃないかも。別に特別、好きってわけじゃないけど……」
「アオって名前だから、青い花とかギャグかよ」
揶揄するかのようにツツミチが鼻で笑うと、不快そうに上谷戸きのみが眉を潜めた。
「アヤメって、花言葉が良いんだよ」
「花言葉?」と反応したのが梨花だった。
「そう、伝言っていうの。だから、アオさんに似合うと思って」
「なんだそりゃ」とツツミチは笑った。他の皆もオレも少し笑ったけど、どこかで聞き覚えがある気がした。
花言葉、伝言。何かが引っかかるような気がしながらも、オレはタコ焼きを口に運んだ。アオさん手製料理の旨さに気を取られ、すっかり記憶の端に追いやってしまったのだった。
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