第37話
キャベツが入っていたのに驚いた。
お好み焼きの気質を見込めば、タコ焼きだって可能性は持っている。味に違和感は無いが、そのものが斬新すぎてオレは驚きを隠せなかった。
梨花もソラも驚いていて、他の面子はその様子を見て愉快そうにしていた。
そうか、押立組はキッチンに居たから、キャベツを入れる場面を目の当たりにしていなかったのだ。予行練習で入れてなかったから、猶更驚いてしまった。
アオさんの地元では、この仕様は標準的なのだと、何故か上谷戸きのみが無い胸を張って言った。店舗や露天で売られているトロトロの奴とは違った味わいだ。
タコ焼きパーティと決めた際、アオさんに昼を抜くように言われたのはこういう意味か。これなら確かにお昼代わりに成り得る存在だ。
次の焼き係をツツミチが希望したので、その時間を待ちに待った自己紹介に当てる流れとなった。
最初は誰にするか、と言ったオレが最初になってしまう。この人たちは考える時間をくれないのか、あるいは自分が考える為にオレを囮に使ったのか。
とはいえ、考えても何も出ては来ない。オレは自分の名前を言って、よろしくとお辞儀する。
それで終わりか。という空気になってしまったので、学年とクラスを告げる。ソラ以外、全員オレと同じクラスなので、全く意味が無かった。
「それじゃあ、血液型は?」
アオさんの質問に「A型だ」と答えると、何故か彼女は少し噴き出した。
「A型がそんな天然な訳あるか!」
突っ込みを入れるようなアオさんの反応に、ツツミチも大きく頷いた。
「いや、クロはAだよ。だって、俺もAだし」
反論するように言ったのはソラだった。フォローを入れるように梨花が、押立家は全員A型だと主張した。
次に自己紹介したのは梨花だった。おとめ座のA型だと言うと、それっぽいと場が盛り上がる。クロもおとめ座だとツツミチが余計な事を言ったので、妙なテンションになってしまう。
タコ焼きが出来た頃には、梨花への質問コーナーと変わっていた。
皆が好きな食べ物、趣味や特技なんか聞いていた。ホームページに載っている内容と同じだと、ツツミチが驚いていたが、嘘を書いてどうするというのだろう。
従妹曰く、そういうアイドルも居るのだとか。イメージを大事にしなければというらしい。
「例えば、ギャルゲーが趣味っていうアイドルが居たら、無いわって思うだろう?」
「……いや?」
オレが否定すると、ツツミチはしかめた顔をした。
これだからアイドルに興味の無い奴は、という時に見せる表情と色だった。関心があったとしても、他人の趣味に口を出すのもどうかと思うのだがな。
別に悪いことしているわけでもないし。いいじゃないか、ギャルゲーアイドル。
ツツミチの作ったタコ焼きを口に運んだ。まずくはなかったがアオさんのと比べると、火が通り過ぎていて美味しくはなかった。
「いいじゃん。ギャルゲーアイドル」
誰だよオレの心を読んだのは。顔を上げると、上谷戸きのみが口を開いていた。
「斬新じゃない?」
そう言ってから、上谷戸きのみはタコ焼きを口に運んだ。ツツミチは苦笑いをしていて。他の女子は、どうなんだろうと考えるような仕草をしていた。
上谷戸きのみが暫く口を動かした後、さっきのツツミチと似たような表情を見せた。
「ツツミッチーのタコ焼き、まずくないけど美味しくないね」
「どっちだよ!」とツツミチが突っ込みを入れた。
上谷戸きのみもオレと同じ感想を抱いたか。まずくはないんだよ、食える程度に。ただ、美味しくはないんだ。
先に食べたのがアオさんのだから、まずかったのだろう。二つの意味で、まずかったんだ。
オレはもう一度アオさんに焼いてもらおうと企てたが、どう言えばいいのか考えた。まさか、ツツミチのが美味しくないから、アオさん焼いてなんて言える訳ないし。
「ツツミチのまずいから、次は大丸さん焼いてよ」
言ったのは梨花だった。オレですら遠慮したというのに、歯に衣着せないというか。
いつから、こいつはツツミチをツツミチ呼ばわりするようになったんだろう。後で聞いてみようかと思ったが、考えてみればどうでもいいってのに気が付いた。
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