第36話
四対一だった男女比が一気に逆転して、心なしかリビングも華やかになったような気がした。
何故か少し考えてみたが、やはり視覚効果だな。
男連中は黒や青といった寒色系の色の服を着ているが、女性陣は赤や白といった暖色系のカラーリング。心なしか冷めた空気が、一気に暖まったように感じる。
各自、テーブルに荷物やら材料やらを並べ始め、梨花とオレは飲み物の準備を始めた。ソラが所在なさげにしていたので、キッチンに呼んでこっちの手伝いをしてもらう。
「あたし今日、何やるか聞いてないんだけど?」
梨花がコップを並べながら言った。そりゃ、そうだ。梨花には秘密裏に話を進めてきたんだ。サプライズって奴だ。
リビング面子の方を見ると、器具を用意していたり、生地をまぜまぜしていた。
失敗したと思ったのは、梨花がそれを見て、何の献立かを当ててしまった事だった。
器具が見て分かる形状だから、サプライズでも何でも無くなってしまった。今日は新入生合同、タコ焼きパーティだ。
タコ焼きに決めたのは、誰でもないアオさんだった。
西の生まれだから、焼くのは得意。おまけに皆で囲んで賑やかにやれるというのは、何よりも魅力的な提案だ。
テーブルにタコ焼き器を二台置き、周りを囲むように皆が着席。
オレが十二時の場所に居るとして、時計回りで梨花、アオさん、南タマキさん、上谷戸きのみ、ツツミチ、ソラという座席位置だった。
各自、グラスが行き渡ったのを確認すると、何故かオレが乾杯の音頭を要求されてしまった。何も考えてなかった馬鹿は、どうしていいか分からずに狼狽えてしまった。
「クロくんが梨花ちゃんの為に催した会なんだから」
アオさんの言葉を聞き、梨花が嬉しそうな色を出した。なんだか照れ臭くなって、オレは目を逸らしてグラスを掲げる。
「そっ、それじゃ、皆……梨花の為に集まってくれてありがと」
「べ、べつにあんたの為じゃないんだからね!」
ふざけた台詞を述べたのは、案の定ツツミチだった。
「んじゃ、誰の為だよ」
「俺は俺の為に来た」
「そういうのいらねえ、乾杯」
オレが言うと、全員がツツミチを無視してグラスを掲げた。ツツミチも苦笑いで、遅れてグラスを掲げた。タコ焼きパーティの始まりだ。
アオさんが慣れた手つきで、生地を焼き器に流し始めた。流石、西の人だけあって、さまになっている。
ただメアリーにしか見えないオレからすれば、違和感は拭えない。タコ焼きを作る男爵の娘の姿は、少し笑ってしまうくらい。
「ねぇ、クロ」と梨花が肘でオレを突いた。
「どういった経緯で、今日は集まったの?」
そういえば、まだその話をしてなかったのを思い出す。
オレはアオさんやツツミチの話し合いを省いて、これまでの経緯をざっと説明した。要は梨花と仲良くしたいクラスメイトが集まった会だ。
「提案したのはクロ?」と聞いてきたのはソラの方だった。オレが黙って頷くと、梨花が満面の笑みを向けてきた。
「クロは梨花に甘いんじゃないか?」
ソラが言うと、オレの代わりに梨花が口を挟んだ。
「ソラに言われたくないし! クロはあたしよりソラの方を可愛がってるし!」
「やめろ、二人とも」
オレは同時に二人の頭を撫でるようにはたいた。お陰で注目の的となってしまった。
「二人とも、クロくん好きなんだね」
上谷戸きのみが和んだ色を出し、生暖かい目でこちらへと目を向ける。何故、お前はほのぼのしているんだ。
「そういえば……」と思い出すように梨花が言った。
「誰さんですか?」
「出席番号七番、上谷戸きのみです」と上谷戸きのみが梨花に向けて恭しく頭を下げた。
「え、うん。あたしは……」
「待って」
梨花が自己紹介をしようとした所で、アオさんが手のひらを広げて割り込んだ。
「もうすぐ焼けるから、いただきますの後に全員で自己紹介しよ」
二基の焼き器を見ると、全ての穴に丸々としたタコ焼きが揃っていた。まるでロボットの持つ、装填済みのミサイルポッドのようだった。
どうやら二基の片方は、南タマキさんが相手をしてくれていたらしい。アオさんに教わりながらやっただけで、こんなに上手く出来るんだ。
いい匂いもしてきたし、見ればソラもツツミチも串を片手に臨戦態勢になっていた。
「やらしちゃってた。ごめん」
放ってお喋りしていたからか、上谷戸きのみが申し訳なさそうな表情をした。
「きのみちゃんはいいよ。この後にカステラと焼きおにぎり作ってもらうんだから」
「え、それマジでやんの?」
アオさんの台詞に、ツツミチが信じられないといった顔をする。
上谷戸きのみが鼻を鳴らし、得意げな色を出した。本当にやるよ、と目で言っているような気がした。
カステラと焼きおにぎりを、本気で同時に作るんだろう。妙な光景を期待して、オレは何だか少し楽しみになってきた。
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