第34話


 十一時半、家のインターフォンが鳴った。


 予想通り、一番最初にやってきたのはツツミチだった。奴は学校関連の行事に対しては遅刻魔だが、遊びに対しては本気で行う。


 休みの日に集合となれば、誰よりも先に現地に来てワクワクしているような男だ。


 欲望に素直と言えば聞こえはいいかもしれないが、将来的に仕事の出来ない人間になりやしないかと考えてしまう。来訪人が分かっているので、玄関のカギは解錠しておいた。


 これまた予想通り、ソラの顔を見て唖然とした。


 前持ってツツミチに「梨花ソックリは禁句」と、竹輪より太い五寸釘を刺してある。


 だけど、いくら姉弟とはいえ、男子が女子に似るなんて空前絶後。そりゃ世界的に見ればあり得ない事じゃないだろうが、少なくともオレらの周りではお目に掛かれなかった。


「どうしたんですか?」


 ツツミチの様子を見て不審に思ったのか、ソラが訝し気な色を見せて言った。


「いや、クロの従弟なのにイケメンで驚いた」


 流石、ツツミチだ。いい加減が得意だから、思ってもいない事を口にするのは慣れてんだな。


 咄嗟に出たとはいえ、悪い言葉ではない。ソラは普段、イケメンだとかカッコいいとか耳慣れていないのだ。


「お世辞はいっす」


 乾いた笑いで誤魔化すソラ。カッコつけてるつもりだろうが、歓喜の色が見えていた。


 そりゃ、どんな男もイケメンとか言われて悪い気はしないんだ。オレだってたまには言われてみたいもんだけど、ツツミチ相手は御免被る。


「俺は稲田ツツミチ、クロの親友」


 早速ツツミチは適当な言葉抜かして、ソラへと手を差し出した。


「俺は押立宇宙、クロの大の理解者」


 便乗したのか、ソラも適当を言ってツツミチの手を握った。


「そうか、俺も俺で理解者だ。大親友だから」


「俺は家族だし」


 訳の分からない台詞をグダグダと並べながら、ソラとツツミチが固い握手を交わしていた。色を見ると何故か二人とも少し濁っていて、初めて見る模様に思えた。


 何だ、あの色は。ソラもツツミチもどういう感情なのか、理解が出来なかった。もしかして、この二人ってあんまり相性が良くないのだろうか。


「ツツミチ、ソラ。いつまでやってんのよ」


 見かねた梨花がチョップで二人の握手を剥がした。


 すると何故か知らないが、二人は同時に大きな笑い声を上げた。見ればお互いの感情は愉快な色に変わっていて、オレは混乱しそうになる。


 ツツミチはまだしも、ソラってこんな妙なテンションになるような奴だったっけか。

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