第28話
その日の放課後はツツミチと一緒に、ショッピングセンターまで足を運んだ。
駅前にある二階建ての洒落た建物で、この中にスーパーがある。駅近くに住む人にとって、食料品を購入する手段はここ一つしかない。
他の駅の傍にはスーパーマーケットが絶対あるのに、うちの最寄り駅だけ此処しかない。
理由は簡単だ。山を切り開いて作った我が街の住人は絶対と言っていい程、自家用車を持っているからだ。
電車の移動は学生か会社員だけとなると、食料品需要のある層が駅を利用していないのだ。
建物の中に入ると広い通路になっている。横長というか、くの字型の長い施設。駅下の曲道に面しているので、妙な作りになっている。
駅側の入り口から入ると、まずは左手にパスタ屋が見えてくる。
西洋風のオシャレな店内は、奥様方の憩いの場だ。学生の男子が入れる雰囲気の店はないので、オレは一度も利用出来ないで終わるだろう。
その隣が餃子屋。お洒落な隣店と打って変わって、腹を満たすための場所という色が強い。
一度行ったが、異常にいつも混んでいる。今も外に人が並んでいる。真っ直ぐ進めば、奥にスーパーなマーケットがある。
手前にはエスカレーターがあり、二階は百円ショップになっている。
この街、唯一の百均だが、今は用が無い。エスカレーターを素通りしたら、その裏のベンチに見覚えのある髪型があった気がした。
オレは立ち止まり、ゆっくりと踵を返すように振り返る。
「どうした」と立ち止まるツツミチ、その左方には観葉植物。
それが植えられている花壇の前にベンチがあり、そこにはうちの学校の制服を着た女子。携帯電話を弄っていた。
女の子の髪型を確認してみる。首元で束ねた髪を後頭部で折り畳み、バレッタで纏めている。
尻尾に見える髪型だけど、ポニーテールではない。どっちかっていうと、八百屋で見かける束になった葉菜類みたいだ。ホウレンソウとかチンゲンザイみたいな。
うちの学校でアップヘアスタイルにしているのは一人しか知らないが、まさかアイツじゃないよな。
オレの視線に気づいたのか、葉菜類みたいな髪を持つ女の子は顔を上げる。目が合った瞬間、その予感は的中した。
「押立くん、稲田くん」
やはり上谷戸きのみだった。昨日の今日で、偶然にも程があると思った。
尾行してきたのかと思ったが、それをする理由が彼女には無い。こんな所で何をしているんだろうか。
「何してんの上谷戸」とツツミチがオレの疑問を代弁してくれた。
「修理出していたのが戻ってきたの」
携帯電話を片手に、上谷戸きのみは笑顔で言った。この施設には携帯電話ショップも入っている。
「そうだ。折角だし、アドレス交換しない?」
上谷戸きのみは小首を傾げて言った。何が折角なのだろうか、とオレは思った。
「どうする?」
珍しく困った顔でツツミチが聞いてきた。いつもは女子にアドレスなんか聞かれたら喜ぶ男なのに、知った顔だとこうなるのか。分かり易い男だ、コイツ。
別に断る理由も無かったので、オレは上谷戸きのみと連絡先を交換した。ついでにツツミチのも教えといた。
「うへへ……」と妙な笑い声を出して、上谷戸きのみは大事そうに携帯電話をポーチにしまった。
「何が嬉しいんだ」とツツミチが苦笑いで言った。
「友達、二人増えた」
「オレらの事なのか?」とツツミチに振る。「それっぽいな」と返される。
妙な話だ。中学の時、ずっと上谷戸とは同じクラスだったし、何度かは話した事もあったかもしれない。連絡先を交換して、友達だと改めて認識されるのって、変な違和感を覚える。
「それで二人はどうしたの?」
上谷戸きのみがオレを見上げて言った。二人って言ったのに、彼女の瞳には何故かオレしか映っていなかった。長い睫毛で小さな目、可愛い系というより綺麗系の女子だと思った。
「明日使うものを買いにきた」
アオさん経由で、明日の話は上谷戸きのみも知っている。彼女も誘おうと言ったのは、誰でもなくアオさんだ。人数が増えるのは良い流れなので、オレも賛同した。
「何買うか分かるの?」
「粉だろう」とツツミチが言った。奴が言うと何かの隠語みたいだな、とオレは思った。
「何粉だか知ってる?」
「分かんないけど、専用のって売ってるだろう」
オレが言うと、上谷戸きのみは目を丸くした。揶揄とかじゃなく、本気で驚いた色をしていた。
「なに、そんなんで作ろうと思ったの?」
「思った」とオレとツツミチが同時に言った。上谷戸きのみが今度は間違いなく呆れた色を出してきた。
「これは予行練習、するっきゃないね」
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