第21話
今日もギムレットの夢は見なかった。
梨花とソラとの同居を始めて、大丸アオさんと出会ったあたりから、夢見が減っている気がした。
梨花ちゃんと友達になりたい。大丸アオさんの台詞を聞いて、もしかしてオレと仲良くしていたのは利用する為なのかと思った。
こんな時、エーテルが見えるのは便利だ。
オレは人が纏った光の色で、嘘をついているかが分かる。大丸アオさんに協力しようと思ったのは、今まで彼女は一度もオレに嘘の色を見せていないからだった。
オレは利己的に嘘をつく奴が嫌いだ。
誰かの為を想ってとか、隠し事とかなら仕方ない。後者はオレも普段している。だけど、自分の利害の為に平気で嘘をつく人間は、エーテルを見ればすぐ分かる。
その点において、ツツミチは馬鹿だけど、オレが唯一信用できる悪友だ。
あいつは馬鹿だけど、オレに対して濁った色を一度も見せてはこなかった。梨花とソラを始めとする家族以外では、馬鹿だけどツツミチが一番信用に値する人間なんだ。
その日の梨花は仕事が入ったらしく、丸一日学校を休まなければいけなくなった。
昨日の約束を考えると、梨花は居ない方が丁度いいと思った。まだ何も作戦を立ててはいないからだ。
放課後、オレは大丸アオさんと、ついでにツツミチも誘って駅前のドーナツ屋に赴いた。
従妹は気難しい人間だし、仕事内容も特殊だ。いきなり友達になりたいと言われて警戒するに決まっている。
アオさんと梨花が友達になってくれるのは、こちらも望むところなので作戦会議を用意する。
「ツツミチはどうやって、あの梨花と仲良くなったんだ」
早速、切り込んでみた。
まどろっこしい真似は好きじゃないので、オレはアオさんと梨花を仲良くさせるという目的を全てツツミチに打ち明けた。
「だから、お前は俺の親友。梨花ちゃんはお前の従妹。俺と梨花ちゃんが仲良くなるの自然」
喋りは片言だし、ツツミチのエーテルは冗談を言っている色をしていた。
「適当なこと抜かすと、お前のある事無い事、梨花に吹き込む」
「あることないことって何だよ」とツツミチはドーナツを頬張って言った。
「あることはお前が先輩の真似して、色々な女子をナンパしていること。ないことは……そうだな、虫が主食ってのはどうだ」
「そんなの誰が信じるんだよ」
「梨花はオレの言う事は信じる」
適当な出鱈目で言ったつもりだったが、何故かツツミチはそれで納得したような顔をしていた。大丸アオさんはオレらの話を聞いて、クスクスと可愛く微笑んでいた。
「んじゃ、白状する。これは梨花ちゃんとオレの協定みたいなもんだから、本人に言うなよ。大丸さんも」
「わかった」とオレが言うと、同じタイミングで大丸アオさんが「任せて」と無い胸を張った。
「梨花ちゃんにお前のことを、報告するように言われてる」
「なにそれ」
「ほら、梨花ちゃんが学校居ない時、お前と一緒に居るの俺だろう? 居ないとき、お前が何かやったら、梨花ちゃんに報告するように言われてる」
「何かやったら……って、何もしねえよ」
「引っ消しゴムとか」とツツミチが自分で言って噴き出した。その一言に大丸アオさんも同時に噴き出した。
「オレだって本当は引っ越し蕎麦を用意したかったさ。でも、消しゴムしかなかった」
オレが言うと、二人は同時に転げ落ちそうなくらい笑った。ツツミチなんてバシバシと机を叩いていた。けたたましい男だな、そのまま頭を打ってしまえばいいのに。
「席替えで……引っ越しって、発想……」
ツツミチは笑いを堪えながらも必死に喋った。大丸アオさんなんて、喋れないくらい腹を抱えていた。
確かに、自分でも消しゴムを渡すなんて。どうかしていたかもしれないが、そこまで笑うのはどうだろうか。オレだってガムとか飴があったら、そっちを渡していたさ。
「つまり、そういうのを梨花ちゃんに報告……ぶぶっ」
気を取り直して話そうとしたツツミチだったが、後半は笑い交じりとなっていた。
ふむ、これで分かった。
梨花はツツミチを利用して、オレの弱みを握ろうとしているのか。場合によっては馬鹿の口を封じようかと思ったけど、これなら大丈夫か。
今度はちゃんとガムか飴を用意すればいいだけの話だ。この二人が仲良くなるに越した事はないし、無理に協定を壊して変な雰囲気になるのも良くはないか。
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