第20話


 ギムレット達の世界は剣も魔法もあるし、モンスターだって出てくる。ゲームのような世界だけど、大きく違うのはヒットポイントが表示されない。


 当たり前だ。この世のどこに体力を数字で表すものがあるんだ。


 ただし、ギムレットに関しては違った。彼は魔導士の元で特殊な訓練を受け、生き物が身体に纏う光を見る魔法を手にしている。


 魔法の名前は日本語に直せば、「状態可視」といえばいいのだろうか。


 あの世界の全ての生き物には、常人では目視出来ない光が纏われており。状態可視はそれを見る事の出来る魔法だ。


 光はいわば、体力や精神力を具現化したもの。その色や量で、対象の状態を把握できるのだ。


 彼らの世界ではその光を「エーテル」と言っていたが、今の世界なら「オーラ」と呼称するのが正しいかもしれない。


 しかし、ややこしい事に彼らの世界では、オーラは魔力の事を指し、生命力に関してはエーテルという呼び方をしている。


 近接戦闘の多い剣士たちにとって、エーテルが見えるのはすごく有利だ。


 魔物と切り合いをしていて、相手の状態が分かれば、戦闘を効率良く進められる。ギムレットがギルドで一番の戦士になれたのは、この魔法のお陰と言っても過言ではない。


 状態可視はギムレットが一番得意だった魔法で、それを現在のオレも使用出来る。使えるようになったタイミングが、この夢を見始めた時。丁度、二年前くらいか。


 夢を見た切っ掛けは今だに分からない。その日も普通に平日だったし、起きた後は学校に行く支度もしなければならなかった。


 顔を洗っている間も、歯を磨いている間も、着替えている時だって夢の内容が頭にこびりついていた。


 朝食をとろうとリビングに行くと、用意をしている母親の身体に何か光のようなものが見えたんだ。


 寝ぼけているのか。目を擦ると普通に見えなくなったので、その日は気にはしなかった。


 その後も前世の夢は幾度となく見た。その度に、他人が纏う光の存在はハッキリ見えるようになっていく。


 いつだかで、ギムレットがエーテルの話をした夢を見て、オレは自分が状態可視の魔法が使えるのだと理解した。


 理解してからは使いこなすのは早かった。


 最初は適当なタイミングでエーテルが見えていたが、やがて自分の意志で可視をコントロールできるようになった。


 使い始めの頃は、色で感情を判別していただけだった。けど、最終的にはエーテルの量で、体調の良し悪しまでも分かるようになってきた。


 こうして、オレは他人の感情や体調の状態を即座に判断できる魔法を手に入れたのだった。


 最初は、医者いらずだな。とか思ったが、そんな便利な能力じゃなかった。


 オレもそうかもしれないが、他人は自分の心を吐露されるのを嫌うもの。下手にそれを披露して、時に人を傷つける場面だってあった。


 だから、オレは誰にも魔法の話はしない。ツツミチや梨花やソラにだって、誰にもオレが人と違うのを話すつもりはないんだ。

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