第15話
キンコンカンコンとチャイムが鳴り、インターバルの時間となった。
この後は体育館へ移動して、部活紹介の時間となる。特にやりたい事もないし、あわよくば大丸アオさんと同じ部活とかにしたいような気がする。
ツツミチはどうすんだろう。
オレはプリントを机にしまうと、ふと隣の南さんと目が合った。ポケットを弄って、飴がガムを探してみる。
引っ越し蕎麦は無理だけど、何か渡した方がいいだろう。何も無かったので、ペンケースを開けて、消しゴムを差し出した。
「改めて押立クロです。よろしく」
オレの行動に何故か、南さんの目が点になった。
「は、はい。南タマキです……。あの、これ、何ですか?」
「引っ越し蕎麦の如し、引っ越しガムか飴でも贈ろうと。無かったから、引っ越し消しゴム。略して引っ消しゴム」
「け、結構です……」
南さんは苦笑いで、困惑の色を浮かべた。
「ぷっ!」
突然、噴き出した音に右を見てみると、オレの後席の女子が何かを堪えていた。
何かあったのだろうか。様子を見ていると、顔を上げて彼女は笑いだした。驚くことに、その女子はなんと大丸アオさんだった。
「なに、クロくん。面白過ぎ……」
笑い交じりの言葉にオレは驚いた。
何故、彼女がここに居るんだ。確か大丸アオさんは、米国でいうミズーリ州あたりの位置ではなかったか。
自分の周辺を確認すると、長沼と変わった席は奇跡的にワイオミング州らへんだった。
やはりこれ運命だ。運命というのは、時に結果すらも捻じ曲げてしまうんだ。
クスクスと大丸アオさんはひとしきり笑い終えると、自分のペンケースを取り出した。何をするのかと思えば、彼女は消しゴムを取り出して、オレに差し向けた。
「はい。引っ消しゴム」
おお、とオレは心の中で感嘆した。
彼女はきっと冗句の分かる人間だ。折角なので、大丸アオさんの消しゴムを受け取り、代わりに自分の消しゴムを手渡した。
それを見た南さんも、控えめに小さく笑みを零した。本当に二人とも可愛い女の子だ。
「貰っていいのか?」とオレは改めて聞いてみた。
「あげるつもりで渡したんだけど、クロくんは違うの?」
「いや、助かるぜ。サンキュ」
オレの台詞に、再び大丸アオさんは噴き出した。
「ぷぷ……、助かるって何やの……」
「ふふっ……」
大丸アオさんの突っ込みを聞いて、南さんも少しだけ大きい笑い声をあげた。
押立くんは変だけど、面白い人だと大丸アオさんが言った。褒められているのか、そうでないのか。分からないが不思議と、悪い気はしなかった。
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