第14話


 昨日決まった委員長のお手製くじ引きの結果、オレの席は一番右の最前である。


 つまり、先ほどまで稲瀬さんが座っていた席だが、そんなのはどうでもいい。


 問題はツツミチと離れてしまったのではなく、その隣が梨花だったんでもなければ、それでツツミチが物凄い喜びようを見せてるって訳でもない。


 大丸アオさんと席が離れてしまったのが、何よりもの大問題だった。


 彼女の席を確認すると、ちょうどど真ん中あたり。オセロで言うと、最初に石が置ける辺りになるだろう。


 関東で例えるなら、彼女の位置は千葉寄りの埼玉で、オレは茨城の最北端だ。遠いな。


 ちくしょう、新学期早々の運試しは見事に失敗に終わってしまった。


 ただ、逆に考えるんだクロ。もし彼女が本当にメアリーであれば、オレの運命の相手だ。


 運命というのは、時に結果すらも捻じ曲げてしまう可能性だってある。それが無かったというならば、運命でなかったと受け入れるしかないんだ。


「あのう」


 席の移動が終わったあたりで、クラスメイトの一人が挙手で立ち上がる。


「自分やっぱり、この席だと黒板が見づらいみたいです」


 ああ、はい。席替え後のそういうイベントって、確かにあったわ。


 眼鏡をしていても、場所によっては見づらいから、席を変えてくれっていう定例行事。そんな彼を見ると、予想通りの眼鏡少年だった。


 どの道、大丸アオさんの近くじゃないし、一番前の席はやりづらい。オレは挙手して立ち上がる。


「んじゃ、オレ変わるぞ」


「え、いいの? 押立くん」


 眼鏡少年は何故だかオレの名前を知っていた。中学が一緒なのかと思ったが、見覚えのある顔ではなかった。


「ああ、いいぜ。ちなみにお前、なんて名前?」


 聞けば思い出すかもしれないので、名前を一応聞いてみる。


「え? えーっと……長沼梓馬っていいます」


 聞き覚えのない名前だったので、きっと別の中学の奴だ。一方的に名乗らせるのも無礼だし、オレも自己紹介しておこう。


「オレは押立クロ。面倒なことに押立は二人居るし、クロって呼んでくれ。ダテクロは無しな」


「え、うん」


「自己紹介は後にせんか」


 担任の怒号にふと気づけば、オレは席から立ったまま、眼鏡少年長沼と自己紹介を交わしていた。


 再びクラスが笑いに包まれる。居たたまれない気分で、荷物を持って席を移動した。長沼もそんな感じの表情をしていた。


 カバンを机の横にぶら下げ、持ってきたプリントやペンケースを机の上に置いて移動は完了。


 後で引っ越し蕎麦を振る舞う前に、お隣さんへ軽く目礼をしておこう。なんとオレの隣は、稲瀬さんの親友の南タマキさんだった。


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