第13話


 まさかの席替えである。


 ホームルームが始まり、今日も何かの説明なりや決め事で午前が潰れるのかと思ったので、不意打ちの出来事だった。


 オレの中ではゴールデンウィークの後とか、その辺りでやるかと思ってた。


 一か月も大丸アオさんが隣なら、それなりに仲良くなれて、それなりに愛を育めたかもしれないのに。


 かすれるようなうめき声が、右後ろから聞こえたような気がする。


 振り向くと梨花もなんだか不満げな表情をしていた。隣を見ると、大丸アオさんも梨花を見て苦笑いをしていた。確かに今のは、アイドルが出していい音ではない。


 オレは適当なプリントに「腹でも減ったのか?」と書いて、後ろ手で梨花へと手渡した。「違うし」と呟く声が右後ろから聞こえた。


 前を向き直すと、すぐに「押……、クロくん」と囁く声がしたので右を見る。今しがた梨花に渡した筈のプリントを、大丸アオさんがオレに差し向けていた。


 大丸アオさん経由でなく、オレに直接渡せばいいのに。二つ折りになっているプリントを開くと、梨花の字で「クロと離れるのヤ」と書いてった。


 そっか、逆に言えば梨花と離れる好機なのか。ダテリカのファンが聞いたら問題になりそうな考えで、従妹への返事をプリントに書く。


「お前はどうでもいいが、大丸さんと離れたくない」と書いて、これはマズイと消しゴムを入れた。


「お前はどうでもいい。大丸さんや稲瀬さん、ついでにツツミチと離れたくない」と書いて、再び梨花の方へと差し向ける。


「何をしている、押立」


 気づけば、担任の教師が仁王立ちでオレの前に居た。


「手紙のやり取りとか、小学生か?」と呆れた顔をして、手の平を差し出す。


 どういう意味かよく分からなかったので、オレはその手のひらを握り返した。


「……なんだ、これ?」と担任が苦笑いを浮かべる。


「……握手?」


「……プリントを渡せという意味だ」


 担任の一言でクラス中に笑いが起こった。


 そうならそうと言ってくれよ、お陰でいい笑いものじゃないか。赤くなりそうな顔を隠しながら、オレは担任に落書き満載のプリントを手渡した。


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