第10話


 というか、オレは今日、前世の想い人にソックリな人間と同じクラスになったんだよな。


 ソラのなんやかんやのせいで、すっかり忘れていたのを思い出した。剣士ギムレットは冒険中も戦闘中も、片時もメアリーを忘れた試しが無いっていうのに、生まれ変わったオレのこの様は何だ。


 とはいえ、大丸アオさんとは今日知り合ったばっかで、まだ何も知らないに等しい。


 あの時、心の中のギムレットはメアリーによく似た誰かと言ったが、それでもオレは運命を感じて仕方なかった。


 今は出席番号順だから隣の席で居られるが、いつ席替えがあるか分からない。どうにかして彼女と接点を作り、仲良くなる方法を考えなければいけない。


 近所に住んでいれば一番いいんだろうが、彼女の家は神奈川サイドだ。


 家から遠いって程じゃないが、通う必要が出てくるような場所じゃない。友達でも住んでいれば話は別だけど、そんな都合のいい人間は居ない。


 同じ部活でも入ってみるとか、どうだろう。まだどんなのがあるかは分からないが、明日の部活紹介の後、さりげなく聞いてみるのもアリかもしれない。


 よし、明日やることは決まった。身体も温まったし、ゆっくりアイスでも食べよう。風呂場から出たオレは、軽快なステップでリビングへ足を進めた。


「あ、クロ。ただいま」


 何言ってんだソラ。ソファの方を見ると、そこに居た筈の男の髪は伸びて、ツーサイドアップになっていた。桜色のワンピースを着ているし、まるで梨花じゃないか。


「え、どうしたソラ」


「ちょっ!」


 ツーサイドアップのソラが、持っていたアイスを置いてオレに詰め寄った。よく見ると従弟より目は大きくて、桃の香りに包まれていた。


「このダテリカ様を弟と間違えるなんて、どーゆーつもり⁉」とツーサイドアップのしかめた顔で、ようやくオレは梨花だと気が付いた。


「あ、梨花かよ。おかえり」


 従弟が居なくて良かったとオレは心から思った。どうやら、全力でソラと梨花を間違えていたようだった。


「だって仕方ないだろ。さっきまでソラがそこでアイス食ってたんだし。全裸で」


 同じ背格好で、同じ顔の人間が、同じ所に居たんだ。色も似ていたし、そりゃ間違えても仕方ないだろう。


「何よそれ。あたしが帰ってきた時、ソラ居なかったわよ」


 逃げたな、ソラ。


 同じ顔をしているからか、姉弟のくせにソラは梨花があまり得意じゃない。おおよそ、梨花が帰ってきたので、自室に逃げ込んだのだろう。


 しかし、いくら何でもアイスをそのまま置いて、逃げ込むだろうか。仮にそうだとしても、食べかけのアイスを誰の断りなしに、梨花が食べるだろうか。


 まさかと思い、オレは梨花を放って冷蔵庫へと駆け寄った。冷凍室のドアを開ける。先ほどまであった筈のヨーグルト味が、見事に消え失せていた。


 オレはリビングの方へと顔を向ける。梨花がソファに戻って、再びアイスを食べ始めていた。


 梨花の近くへと足を進める。後ろからラベルを見ると、彼女の持っているのはヨーグルト味だった。


「お前、オレのアイス食ってんじゃねえよ!」


「えっ、これ。クロのだったの?」


 梨花がこちらに振り向いて、ワザとらしく驚いた態度になる。


「お前、オレが乳製品好きだって知ってんだろ。味見てオレのだって思わなかったとは言わせないぞ」


「あたしだって乳製品好きだし、あたしの為に買ってきれくれたのかと」


「お前が乳製品とってんのは、その平らな胸を育てたいからだろうが!」


 そんな貧相な身体だから、ソラと間違われてもしょうがないんだよ。と言おうとして止めた。梨花はともかく、従弟にまで飛び火しかねない発言だ。


「うるさい! クロだって、どチビじゃない!」


「オレはこれから伸びますし」


「あたしだって、これから育ちますしぃ!」


「あんたたち、うるっさい!」


 いきなりの第三者の声に顔を上げると、リビングのドアの所に母親が仁王立ちで立っていた。梨花と口論していたせいで、帰ってきていたのに全く気付かなかったのだ。


「梨花もアンタも声響くんだから、近所迷惑!」


 そう金切り声を出す母親の方が近所迷惑なんじゃないかと思ったが、ここは二人とも頭を下げることで切りぬけた。


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