第9話


 家に戻るとソラの靴があったので、オレは大きく安堵をした。リビングかと思ったが、居なかったので冷凍室にアイスを入れた。


 自室かなと思い、廊下に出ると水が流れる音が聞こえた。風呂場の電気がついていたので、シャワーを浴びているのだと判断した。


 リビングに戻って、テレビの電源を入れる。夕方のニュースがやっていた。


 全く興味はないが、オレはソファにもたれ掛かって、ぼんやりとそれを眺めていた。


 芸能人の不倫疑惑とか、本当に心からどうでもいい。家族にアイドルが居るからなのかと思ったが、梨花が仕事をする前からそうだったかもしれない。


 バタリと風呂場の方から物音がした。ソラがシャワーを浴び終えたのだろう。


 しばらくすると、上半身が裸のままで、従弟が部屋へと入ってきた。男同士だから気にはしないが、このパンツ一丁の姿を写真に撮ればマニアに高価で売れるかもしれない。


「……おかえり」とソラが申し訳なさそうに言った。


「ただいま」


 反省の色が見えていたので、オレはそれ以上は何も言わなかった。


 口下手な性格のソラだし。命の恩人を前にして、どういう風に接していいか分からなくなってしまったんだろう。


「冷蔵庫にアイス入ってるから」


 オレの言葉に目の色を変えたソラは、飛びつくように冷凍庫を開ける。


「買ってきてくれたのか!」


「境さんのオゴリでな」とオレが言うと、ソラは再び虫を踏み潰したような顔になる。


「……お礼、言っておいてくれ」


 ソラはアイスを両手に取ると、その片方をオレの前にスプーンと一緒に置いた。


「自分で言え」


 置かれたアイスのラベルを見ると、ヨーグルト味だった。元々、イチゴ味はソラの為に選んだつもりだったが、有無を言わさずそれを選ぶとは、中々したたかな従弟だった。


「……分かった」


 ソラはアイスの封を剥がしながら、上半身裸のまま、オレの対面へと腰かけた。ニュースは都心のカラス被害の話へと変わっていた。


 オレも食べようと思いアイスを手に取るが、思い直して冷凍室へと運び直した。


「食べないの?」とソラに聞かれたので、風呂に入ってからと答えた。先に汗を流したかったのを思い出したのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る