第5話


 気づけば追手の姿も消えていたので、オレは真っ直ぐ家へと向かった。それでも一応、神奈川サイドを経由して、遠回りをして帰った。


 簡単に言うとこのルートは、駅の裏の県道を歩いて帰るという流れである。県道は南口から駅を迂回するかのように、山を横断する形だ。


 左手は緑だらけの雑木林だが、右手には駅の車両基地が見える。この時間は普通に動いているが、夜になるとポツポツと電飾が灯って、なんとも秘密基地のようなのだ。


 そのまま真っ直ぐ行き、オレの母校の中学を越えて右折。横たわる謎のオブジェが目印、そこのマンションが我が家となる。


 カードキーを入れてエントランスに突入。二階なのでエレベーターは使わずに階段で。右から二番目のドアに再びカードキーを通す。


 ドアを開けると、玄関にはローファーがひとつだけだった。リビングへと足を進めると、女のような顔で身体の小さい男子が、だらしなくソファでくつろいでいた。


「ただいま、ソラ」


「………………おかえり」


 従弟のソラがいつも以上にやる気の無い声を出した。


 空腹な様子に付け加え、頭痛や腹痛も伴ったような色だった。気候が合わないのかもしれない。従弟はこの街に来てから、こうして何度か頭痛に悩まされているようだった。


 心配を掛けたくないという気持ちが色で見て取れるので、敢えてオレは頭痛については触れないでいる。


「飯は?」


 オレが問うと、ソラは返事をするかのように腹を鳴らした。


「なんも無かったのか?」と言うとソラは首を左右に振った。


 キッチンに入ってみると、コンロの上に鍋の存在を確認した。蓋を開けてみると、中にはシチューが入っていた。なるほど、そういうことなのか。


 ソファにもたれ掛かるソラの方へ行き、覗き込むようにオレは声を掛ける。


「シチューあるけど、食うか?」


「……………お願い」


 本当に悪いと思っている色を出して、ソラは再び腹を鳴らした。


 コンロの火を付けて、鍋の蓋を開ける。底が焦げるので火にかけている間は、おたまでグルグル回し続けなければいけないらしい。


「…………クロ」


 キッチンに入ってきたソラに声を掛けられた。大丈夫かと思ったが、オレの方に目は向けていなかった。


「………せめて、パンくらいは焼く」


 分かった。とオレは戸棚から適当なパンを出してソラに手渡した。


 バターは要るかと聞かれたが、シチューがあるから不要だと言った。ソラは慣れた手つきでロールパンをトースターに並べ、扉を閉めてボタンを押した。


 皿も用意してくれと言おうとしたら、ソラは既に机に並べていた。


「姉と違って出来た弟だよ」とオレは口に出してみた。


「……そう」


 喜びの色を出して、ソラは少し笑った。笑うと本当に梨花と瓜二つだと思ったが、それを本人の前では絶対に言わないようにしているのだ。

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