第3話


 委員決め、教科書配布など。大体の定例行事みたいなのが済んだようなので、ホームルームは終了となった。


今日は午前だけで、明日は部活紹介だ。どうやって、大丸アオさんにギムレットの話を聞き出そうか。そればかりを考えていたので、机に周りに人が集まっていたのにようやく気が付いた。


 ツツミチ以外知らない奴ばかりかと思ったが、見知った顔もあった。同じ中学だった奴も数人は居るようだったが、自己紹介なんて何一つ聞いていなかったんだ。


「おい、クロ。お前に聞きたいことがある」とツツミチが代表するかのように、オレに丸めた教科書を向けた。何だこれは、と思ったらマイク代わりか。


「何?」


「押立梨花って、ホイップのダテリカのことか?」


 ホイップとは今話題の高校生アイドルで、そのセンターを務めるのがダテリカこと押立梨花。オレの従妹だ。


「オレ、言わなかったっけ?」


「聞いてねえ」と食い入るような目でツツミチはオレを見た。


 確かに考えてみれば、オレは世のアイドルさん辺りには微塵も興味はない。


 それはツツミチも知っているので、その手の話題をした覚えが無かったかもしれない。ただ何で今になって、そんな話になったんだ。


「つか、同じ苗字だし、分からんか?」


「ダテリカの苗字は非公開なんだよ」


「それは知らなかった」とオレが言うと、ツツミチは大きなため息をついた。


「ねぇねぇ、押立くんとどういう関係?」と後ろに居た女子が言った。


「同じ苗字で同じ年って事は、双子とか?」とその隣の男子が言った。


「っていうか、もしかしてダテリカと一緒に住んでるとか?」


「ちょっと、家どこか案内してよ」


 四方八方から質問が飛んできて、オレはどこから説明すればいいのか分からなくなってしまった。


 ダテリカは従妹。同じ家に住んでるが、梨花の弟も居る。あいつの実家は遠いから、テレビ局が近いこっちに住んでいるだけ。そこまで説明するのに、三十分は要してしまった。


 中でも従妹だけど恋愛感情はない、という話を告げた時の男子の喜び方が半端じゃなかった。俺にもチャンスがあるかもしれない、という下心を持ってオレに接してくるもんだから、気持ち悪くて仕方なかった。


 そんな奴らの対応をしている間に、メアリーにそっくりの彼女の姿は消えてしまった。オレも野郎どもの対応に疲れてしまったので、真っ直ぐ帰る羽目になった。


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