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尾八原ジュージ

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 金曜の夜。友達と会って、飲んで、別れて、電車に乗って、ほろ酔いで帰宅する。


 アパートの鍵を取り出す。何かの景品でもらった、キャラクターのシルエットがついたキーリング。そのうちちゃんと気に入ったものを買おう買おうと思いつつ、もう1年以上経つ。


 鍵を回してドアを開ける。


「ただいまぁ」


 一人暮らしだから返事はない。


 アパートの狭い廊下。まだ新しいフローリング。右手にトイレとバスルームのドア。左手にミニキッチン。流しの足元に生ゴミ用の白いゴミ箱。冷蔵庫と隙間用の細い食器棚。資源ごみ用の分別できるダストボックス。


 ローヒールのパンプスを足からこそげ落とすように脱ぎながらふと、何かがおかしいな、と思った。見慣れたものばかりの部屋なのに、なんだか全部少しずつ、配置がズレているような気がする。


 トイレのドアノブの高さ。二口あるコンロの位置。ゴミ箱の置き場所。あんな感じだったっけ? でも持っていた鍵でドアが開いたんだから、間違いなく自分の部屋だ。


 酔っぱらってるってことかな、なんて考えながら、玄関に靴を脱ぎ散らかして部屋に入る。


 流しに置きっぱなしの猫の絵のマグカップ。これは好きなイラストレーターのデザインのやつで、地味に高かった。


 冷蔵庫にくっつけたアヒルのマグネット。これは今日会った友達が以前、「これ、ミワに似てない?」って笑いながらくれたやつ。失礼な奴めと思ったけど、残念ながら悔しいほど似ている。やっぱり、ここは間違いなく自分の部屋。


 短い廊下の奥にドアがあって、その向こうがベッドやテーブルやクローゼットがある約7畳のリビングだ。


 ドアを開けると、まず目に入るのが白と銀色の花柄のカーテン。それから赤いローテーブル。ふらふらっと部屋の真ん中まで入って、ぴたりと足が止まった。


 こめかみに厭な汗が吹き出す。


 ベッドに誰かが寝ている。


 キャラメルブラウンの髪、ネイビーのシャツ、撫で肩気味の肩の角度。


 あれは私だ。


 固まっている私の方に、ベッドにいる私がくるりと向き直る。


 顔のパーツが数ミリずれた、デッサンの狂った顔。口元が動く。


「おかえり」




 途端に意識が遠くなって、後のことは知らない。

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