第6話 永瀬警部補による聞き込み

登場人物

永瀬清人ながせきよと警部補、35歳

女性

〇犬(鳴き声のみ)


本編


永瀬「いやー、ようやく俺ら警部補の出番ですかいな。あの鑑識の猫田の出鼻へし折ってやろうと鑑識の見落としを探したけど、だめだめ」


鑑識の猫田は近くに居ないが、鑑識の猫田に聞こえるようなやけに大きな独り言を呟いた。


永瀬「さて、聞き込みしますかー!」



事件現場近くの歩道で姿がある。


永瀬「すみませーん! あのー!私こういう者ですけど、今駅で起きた事件の聞き込みをしているんですが!」


犬)ウウーッ


永瀬「あのぅー! ここら辺で起きた殺人事件について何かお伺いしたいんですが……」


犬)ワンワン、グルル


永瀬「ちょっと怒鳴らないで下さいよ。あのぅ~……」


女性「いや、警部補さん? それは──私の飼い犬のジョーダン君ですけど?」


永瀬「え、えぇ?」


女性「いや、えぇ?」


永瀬「ど、どどど、どうされたんで? 私はちゃんと聞き込みしてますが!」


女性「いや、ぷっ、あはは。警部補さん面白い! 聞き込みするなら、ちゃんとの私に聞き込みして下さいね」


永瀬「こりゃ、失敬失敬」


永瀬警部補は聞き込みをする時の配慮として、話しやすい空気作りをしていたのだ。


女性「んー、私ですか? 確かにぃ、普段よくこの久屋大通ひさやおおどおり駅の近くで愛犬と散歩してますがねぇ。何か、いつもと違った事……変わった事……ですか? うーん……」


永瀬「何か無いものですかねぇ……どんなに些細ささいな事でも気付いた事を教えて頂けるとありがたいんですがねぇ」


女性「急に言われても……ねぇ」


永瀬「そうですか……」




女性「そう言えば、うちのジョーダン君がこんなに、よその人に向かって吠える所を見るの、初めてかもしれないですねぇ。何せうちの愛犬は温厚な性格で人懐っこいんですよ」


永瀬「ん? 確かに妙に私を拒絶しているように感じられますねぇ。このジョーダン君は何か嫌いなモノでもありますか?」


女性「そうですねー! うちの愛犬が嫌いなモノと言えば、血生臭い匂いがだめですねぇ」


永瀬「ほうほう。血生臭い匂いとは? こりゃまた何で?」


女性「以前、自宅の庭でBBQした時に牛肉の血の混じった液体が大量に出てジョーダン君の方に飛び散ってねぇ~。」


永瀬「なるほど、そうでしたか!」


女性「けど、その時ぐらいですよ? うちの愛犬が吠えたのは」


永瀬「お話ありがとうございました! 手間取らせて申し訳ありません」


女性「いえいえ、こちらこそ、事件が早く解決しないと、外出怖いですし。しかし、散歩に連れていかないままなのは、うちのジョーダン君の健康に悪いですし。一刻も早く事件を解決して下さいねー」


犬のジョーダン君の話ばかり聞かされて一向に捜査が進まない永瀬警部補であった。

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