第5話 現場と鑑識結果

登場人物

永瀬清人ながせきよと警部補 35歳

猫田泰成ねこだやすなり(鑑識)42歳



本編


猫田「ちょ、永瀬警部補! 鑑識かんしき終わるまで、来ちゃダメですってば!」


永瀬「何を言うかね! 猫田さん。もう既に鑑識かんしき係が作業を終えて片付けを始めているでは無いか!」


猫田「くっ……、我々、鑑識かんしき係の仕事は警部補達の仕事とは違って繊細だ! 事件現場では、我々鑑識係が真っ先に現場入りする。我々の仕事が完全に終わるまでお待ち頂きたいモノですな」


猫田は鑑識係として、現場保存が終わらぬ現場に、ずけずけと、入ろうとする永瀬警部補に声をかけて制止した。


猫田が、鑑識係が一通りの仕事をやり終えて撤収てっしゅうするのを見届けると、永瀬警部補の名前を呼んで話しかけた。


猫田「良いですよ。もう鑑識係としての現場での仕事は以上ですから」


永瀬「ふん! ようやくか、首を長くして待っていたわ」


猫田「何を怒っているんですか! 頼みますよ! 警部補さん」


そんな茶番が繰り広げられたわけだが、猫田から報告に上がった鑑識結果や現場の状況から、永瀬警部補は以下のようなことを推理した。


永瀬「お金が抜き取られた形跡はあるが、身元のわかるモノが盗られていない事を考えると、一時は金銭目的による犯行と断定されるが、謎の言葉の残された紙片の存在や遺体発見時の周囲を汚した血痕が被害者の祐川勇司すけがわゆうじのモノではなく他人のモノだと判明した事等から、金銭目的に見せかけた犯行である可能性がある」


さらに永瀬警部補はこのように推理を展開させた。


永瀬「しかし、疑問が残る。遺体発見現場の駅の公衆トイレが殺害現場ではない可能性が出てきた。犯人の目的が何なのか? ──わざわざ遺体の身元がばれるような遺留品(携帯電話、運転免許証)を残す必要があったのか? 遺体発見現場にわざわざ他人の血を残しておく必要が果たしてあったのか? ここ、久屋大通ひさやおおどおり駅は利用者の多くない、むしろ利用者が全く居ない駅である事は、捜査の過程で明らかになっている事から、遺体が発見されて騒がれたいと言う犯人が持っているであろう願望とは矛盾するように感じられる」


そこまで推理をすると、永瀬警部補は引き続き捜査に戻るのであった。

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