ランチタイム
千住
学食を駆けるパラドクス
学食の机に俺は頬杖をつく。
「母親の死をなかったことにするため、鈴木がタイムトラベルするらしい。大丈夫かな、佐藤のやつ……」
谷中も金沢も驚いた顔で俺を見た。無理もない。
「タイムトラベルって、よく許可されたな」
「いや、無許可なんだよ。お父さんが研究所の博士でさ、逮捕覚悟でやるらしい。父親が操作して、佐藤が現地で」
「タイムパラドックスってやつが心配だな」
「ああ。お父さんが計算したっていう計画表を見せてもらったけど、五ヶ所も回るらしい。佐藤に悪い影響が出ないといいが……」
俺はちらりと脇をみやる。いつもなら佐藤が座っている席に、サッカーボールが鎮座している。俺の視線を追って谷中が問う。
「そのボールなに?」
「タイムパラドックスが起きても俺を忘れないでくれ、って預けられた」
「佐藤ってお前と同じバスケ部じゃん。なんでサッカーボール?」
「さあ……」
金沢は壁にかけられたテレビを見ていた。大規模な玉突き事故のニュース。
「あれだよな、佐藤のお母さんが死んだの」
「死者八人か。ひでぇよな」
「ほんと。あれだけ大規模な事故だったのによく誰も死ななかったよ」
「奇跡だよね」
私はよいしょと席を立った。スカートに乗っていたパン屑を払う。
「ジュース買いにいくけど、谷中くんと木下さんはいつもどおりサイダー?」
「うん」
「ありがとう」
「佐藤くんはオレンジでいい?」
佐藤くんは電動車椅子の上で二回まばたきした。
佐藤くんは生まれつき、まぶた以外がほとんど動かない。もちろん喋れない。でも私たちは小さい頃からずっと友達だ。それが自然なような気がして。
ランチタイム 千住 @Senju
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