第2話 憑依

(いやいやいや待て、なんだこいつ。金髪だしケモ耳あるしなぜか和服だし、軽く5メートルはありそうな鳥居に座っているし僕のことお主って呼ぶし一人称儂だし。え、何?神?こいつこの神社の神様?)

急激に入ってくる情報に頭が混乱する。

「儂が見える人間がここに来るのはだいたい140年ぶりだぞ、お主なかなかの力をもっているようじゃのう」

ふわふわと少女は鳥居から降り、僕の目の前に来た、浮いているのでわかりづらいがおそらく自分よりかなり小さい。

「いや力って何?ていうかあなただれですか?」

少女に質問してみる。

「儂か?儂は6代目南山神社御神、三尾じゃ。」

「はぁ…」

当たり前かの様に自分を神様と名乗った少女を見つめる。

(浮いてるしただのコスプレではなさそうだけど...)

流石にいきなり現れたこいつがこの神社の神様だとは信じられない。

「じゃあ力って何ですか?」

まだ答えてもらっていない質問を再び投げてみると、三尾は答えてくれた。

「お主に宿る霊力の事じゃ、常人とはくらべものにもならんほど多い。」

「霊力?」

「精神に宿っている力のことじゃ。強いやつは亡霊や妖を感じやすくなるが対抗もしやすくなる。」


(つまりは霊感みたいなものか。今まで霊感が強いなんて感じたことないけど...

もしかして夢にでてきた霞が関係しているのか?)

自分なりに思考を巡らせていると少女が口を開く。

「そこでお主には頼みがある。」

「何ですか?」

「この町の妖を払うため協力してくれ!今の所お主ぐらいしか頼れそうなやつがおらんのじゃ...」

三尾はわりと深刻そうな顔でこちらを見て頼んできた。しかし僕は自分から危険そうなことに突っ込んでいきたくない。

「悪いけど自分から危険なことに首を突っ込みたくないのでやめときます。」

僕がハッキリと告げると三尾はかなり残念そうな顔をした…と思った次の瞬間

こう言い放った。

「妖の影響はこの町の様々なところに出ていてな...例えばお主の後ろとか。」

「え?」

とっさに後ろを振り返ると明らかに様子のおかしい犬が涎を垂らしながら僕を捕食者の目で睨み付けていた。

(やばい)

そう思った瞬間犬がこちらにとびかかり完全に組み伏せられた。

犬の顔が約15センチの距離まで近づく、全力で抵抗しているが噛みつかれないようにするのが精一杯だ。

(やばいやばいやばい!このままじゃ確実に食われる!どうすればいい!)

焦っていると三尾がこちらに語り掛けてきた。

「さて、この状況で儂はお前を助けることもできるし見捨てることもできるが...」

つまり助けてほしければ協力しろということか。神様のくせにやり方が汚い!

「わかりました!協力するから助けて下さい!」

やや情けない声で懇願すると三尾は満足そうな顔をした後、さらに口を開く。

「言い忘れてたがお主にはもう一つ力があってな...それを今から使わせてやろう」

三尾はそう言うと文字通り僕の中に入ってきた。

(ッ!僕の中に!?)

すると僕の体は青い炎に包まれ、犬が離れた。

(!?!!?!)

混乱していると炎は収まり着ている服は侍のような和服になり、手には刀が握られていた。

(これがお主の力、『憑依』じゃ。実体の持たない者を身体に宿し力を借りることができる。)

三尾の説明する声が脳内に響く、どうやら三尾の意識は僕の中にあるようだ。

(すごい…力がみなぎっているのが分かる)

自分の身体に何か力のようなものが満ちていく…これが霊力なのだろう。

「いくぞ…犬」

落ち着いた声で目の前の犬につぶやく、反撃開始だ。






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南山町妖怪退治~家出少年と小さな神様の物語~ バニラ @icehachokoha

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