第156話 鬼、突入前打ち合わせをせんとす。

 新宿ダンジョンのスカンダたちと連絡を取り、新宿ダンジョンの協力を取り付けた大竹丸たちは、直ぐ様、風雲タケちゃんランドの改造に取り掛かろうとしていた。


 だが、この風雲タケちゃんランドの中には全国のモンスター被害から逃れてきた人々が大勢住んでいる。そんな人々に対するダンジョンデュエルについての説明はどうしても必要不可欠であり、代表として大竹丸がダンジョン内放送用のマイクを使って発表を行う。


『あー、あー、マイクテス、マイクテス。このダンジョンに住む全住民に告ぐ。まずは妾の自己紹介をしようか。妾の名前は大竹丸。このダンジョンのダンジョンマスターのマスターである――』


 ややこしい大竹丸の自己紹介から始まった説明ではあるが、内容自体は分かりやすいものであった。これから三日後に全世界の混乱を収めるために、風雲タケちゃんランドを用いて、他のダンジョンにダンジョンデュエルを仕掛ける――というだけなので当然だ。


 そして、その際に二十四時間、風雲タケちゃんランドが封鎖されることも人々に通達した。


 その突然の通達に風雲タケちゃんランドに逃げ込んできた人々は耳を疑った。


 何せ、最後の楽園と思って逃げ込んだ風雲タケちゃんランドから勝手に追い出す宣言を受けたような形だ。


 不満を訴える声は多かったが、仕方ないとする声も多かったのは意外な形だ。


 そういった発言をする者は元々風雲タケちゃんランドで修行を積んでいた探索者たちである。


 彼らはモンスターが出るような世になっても、外に出る事無く修行を続けていた。


 それだけ風雲タケちゃんランドの居心地が良かったのもあるが、自分の実力が伸びていく喜びも感じていたのだろう。


 だが、逆にやればやるほど、このダンジョンの特異性に気付いていくのだ……。


 ダンジョン内で危機を救ってくれる添乗員であるたちがあまりにも強過ぎるのだと――。


 だからこそ、いざという時に彼女たちが動く事もあるのでは? と、密かに思い描いていたという。


 なので、風雲タケちゃんランドの反応は凡そ二つに別れた。


 だが、最終的には不満を訴える声が潰えることとなる。


 それは、結局このままの生活形態が長く続いていく事を考えた時、誰もが先行きの不安を抱えていたからに他ならない。


 誰もこの状況を歓迎してはいなかった――だから、この状況をひっくり返すだけの一手が打てるのであれば、それに協力しようという気運が高まったのである。


 かくして、住民の協力を取り付けた大竹丸たちは風雲タケちゃんランドの大幅な改造に着手するのであった。


 ★


 ダンジョンの改造が終わったのは三日後。


 様々な配下の意見を聞いていた為に、それなりに時間が掛かってしまったというのが実情である。


 だが、それだけの時間を掛けただけあって、それなりに満足のいくものに仕上がったと大竹丸は自負している。


「ダンジョンデュエルを仕掛けたよ。向こうは受けるしかないから、これから二十四時間後には勝負だ」


 ダンジョンデュエルの開始と共にダンジョンに属するモンスター以外は排出されるのだが、大竹丸はベリアルと契約を結び召喚獣扱いで再びダンジョン内に呼び戻される。


 勿論、その際には百鬼夜行帳から大竹丸の配下を呼び出すのも忘れない。


 ダンジョンデュエルには小鈴たちも参加したがったが、あまりにも危険なため、そこは参戦を見送ってもらった。


 とはいえ、何もしないというわけではない。


 彼女たちには風雲タケちゃんランドのスタッフとして、投げ出された住民たちのお世話係を頼んである。ある程度の食糧は残してあるので、後は二十四時間の野外生活に耐えられるかどうかなのだが……その辺は、住民たちにもダンジョンデュエルに参加してもらっているていで頑張ってもらう他はないだろう。


 ちなみに、大竹丸は外部に自身の分身を残しているので、その分身を通して小鈴たちと連絡を取る事は可能である。


 そこで何か困った事があったら、伝えてもらうつもりでもあった。何が出来るかは分からないが……。


「さて、我はそろそろ軍勢の配置位置を確認するとしようか。……嬢殿、行こう」


「仕方ない。……数じゃ負けている想定だから小細工を弄する」


 ベリアルが広い草原エリアに移動し、その後を嬢が付いていく。


「まぁ、自分の担当場所を確認するのも仕事であるな。不死王殿、行きましょう」


「そうじゃのう……モゴモゴ……」


 更にその二人の後に続いて移動するのは、不死王とスカンダだ。


 彼ら二人はベリアルと協力し、敵の軍勢を足止めする任務がある。


 また、嬢に関してはダンジョン内に罠を張る事によって、敵の侵攻を遅らせる役割を担っていた。


 故に、この四人に関しては今回のダンジョンデュエルではディフェンス組ということになる。


 そして、大竹丸、葛葉、アスカ、ミケ、不死鳥といった残りが突入組となるわけだが――、彼女たちの狙いは単純明快。


 ダンジョンの最奥まで潜り、相手のダンジョンコアを叩き割る事だ。


 中途半端なダメージを生駒山ダンジョンに与えても、DPの譲渡だけで決着がついてしまい、状況が変わらない。


 だからこそ、今回のモンスター騒動を収める為にはそれしか方法がなく、また相手もそれに気付き、守りを固めている事は容易に予想が出来た。だからこそ、攻略には全力を注力しなければならない。


「良いか? 最優先は相手を倒す事ではないぞ? ダンジョンコアを割る事じゃ。そして、それに失敗した場合は二度目はないと思え」


「何でニャ? もう一度挑戦すれば良いだけニャ?」


「恐らく、そこでダンジョンデュエルに勝利してしまうと、ダンジョンの順位が風雲タケちゃんランドと生駒山ダンジョンとで入れ替わるのじゃ。そうなると、向こうに挑戦を拒否する権利が発生しおる。故に、相手は二度と妾たちからのダンジョンデュエルを受けんじゃろう……」


「とんだチキン野郎だニャ!」


 ミケが唸るのを、葛葉が黙って撫でて宥めている。相変わらず何を考えているのか良く分からない葛葉ではあるが、「猫さん可愛い」とでも思っているのかもしれない。


「となると、時間との勝負ですね」


「そうじゃ、二十四時間以内にダンジョンコアを探し出し、割るとなったら、スピード勝負に出るしかないじゃろ。そこで、アスカ、不死鳥」


「はい」


「ケェェェェ!」


「基本はお主等に乗っての移動になるじゃろう。不死鳥は先行して、敵の罠を漢解除じゃ。アスカは妾たちを乗せて、その後に続いて移動する」


「ケェェェェ⁉」


「……何か、不死鳥が怒っておるようじゃが?」


「この子、女の子ですから漢解除という言葉が嫌だったんじゃないですかね?」


 ちなみに漢解除とは、罠にわざと嵌る事でダメージを受けながらも、ギミックを解除してしまうという力技の罠解除方法である。そのあまりに潔い態度から漢の解除方法――略して、漢解除と言われる。


 だが、不死鳥はどうやら女の子だったらしい。それはすまぬことをしたとばかりに、大竹丸は言い直す。


「ならば、漢女おとめ解除じゃ!」


「ケェェェェ♪」


 なお、漢女とは漢気に溢れる女性を指し示した言葉である。


 そして、そんな体当たりの罠解除に死なない不死鳥は持ってこいの材ではあった。


「ダンジョンの最奥に向かうにあたって強敵も出てくる事じゃろう。進む速度が遅くなるようであれば、そやつらの足止めはミケに任せる事になるかのう……」


「勝たなくて良いって言うんだったら、そういうのは得意ニャ!」


 存在定義の書き換えを得意とするミケはトリッキーな戦い方が得意だが、どちらかといえば戦い方が防御寄りで、高い攻撃力を有するタイプではない。


 だが、戦線を掻き回して逃げ回るだけとなった場合には無類の強さを発揮する。


 捕まえたと思っても捕まえられず、逃げたと思ってもそこに居る――そういう戦い方はミケの十八番おはこではあった。


「葛葉は最後まで妾と一緒じゃ。アスカと不死鳥も移動手段として一緒になるじゃろう。最悪、アスカと不死鳥は妾たちが今回の件を仕掛けた黒幕と戦っている間にコア探しを頼むかもしれぬ。その時は妾たちに構わず、一気に行け。コアを割れば妾たちの勝ちじゃ」


「ケェェェェ!」


「心得ました」


「…………」


「まぁ、作戦としては以上じゃが、何か聞いておきたい事はあるかのう?」


 打ち合わせは終わりとばかりに大竹丸が気を緩めるのを見計らって、アスカが「はい」と手を挙げる。


「なんじゃ、アスカ?」


「嬢先輩はもしかしなくても、空を飛ぶ事が嫌で今回ディフェンス組に回っているんですかね?」


 その質問を受けて、大竹丸は一瞬だけ天を仰ぎ、自身の顔を片手で覆う。


「そんなの……、決まっておるじゃろう……?」


「あ、ですよね……。何か、突入組の戦力が少ない気がしてたので……」


 だが、そのおかげで守備面に関しては安心できる――と気持ちを切り替える事ぐらいしか、大竹丸には出来ないのであった。

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