第155話 鬼、会議をせんとす。
「ダンジョン検索機能で発見したけど、このダンジョンとか怪しいんじゃない?」
そう言ってノワールが挙げた名前は生駒山ダンジョンである。
だが、大竹丸は首を捻る。
聞いただけでは単純な山奥のダンジョンのように聞こえるが、その場所に何があるのだろうか? それが理解出来なかったのである。
それを見越したようにノワールは続ける。
「確か、そこに大阪一円をカバーするだけの電波塔が沢山あったはずだよ」
「何でそんなことを知っておるのじゃ?」
「クイズゲームの答えにあった気がするんだよねー」
「ゲームの情報に頼らざるを得んとは何とも情けない話じゃのう……」
とはいえ、この場所では電波も届かない。故にネットで調べるという事も難しいのだろう。少し山を下りれば、それも可能だが大竹丸は携帯電話自体を所持していない。
小鈴が起きていれば、そんな状況も打破できるのだろうが、彼女もまた悪魔の罠に引っ掛かり、寝込んでいる状態なのだから無理もさせられない。
だから、大竹丸はノワールの知恵に縋り付くしかなかったようだ。
渋面を浮かべながらも希望が見えたことに、そこまで絶望感を覚えているようには見えない。
大竹丸がそうして一人納得しているところで、今まで黙っていた嬢が重々しく口を開く。
「大竹丸。……私と
「なんじゃ、唐突に」
よもやいきなり勝負を持ちかけられるとは思ってもみなかったのか、大竹丸は僅かばかり目を見開いて嬢を見つめる。
だが、嬢も本気なのかその顔付きが変わることはなかった。
「既に本陣が攻められている以上、もたもたしていられない。……大竹丸はきっと攻めを選ぶ。そして、その死闘に私達も無理矢理付き合わされることになる。……百鬼夜行帳の力によって」
「まぁ、そうじゃな」
百鬼夜行帳は所謂使い魔の類を封じる為の道具だ。必要とあれば、百鬼夜行帳の中から封じた者を呼び出し使役する事が出来る。
そして、その封じられた者は百鬼夜行帳の持ち主の命令には絶対服従となる。
それは本人の意志に関係なくだ。
その事に、嬢は長いこと反発し続けてきた。他者に生殺与奪の権利を握られているのだから無理もない。
だが、今回ばかりはそれが原因ではない。
「暴れられのは私の本懐。……敵陣に攻め込むことに否やはない。けれど、弱い奴の下に付くことで主が挿げ替えられても困る。……相手も同じ百鬼夜行帳を持つ鬼でしょ? 負けられると困るのは私だけじゃない。……その百鬼夜行帳の中に潜む悪鬼羅刹たちが困る」
「じゃから、妾の実力を確かめると?」
「神通力無しでどれだけ戦えるのか。……話にならないレベルだったら、ここで散って。それで私達を解放する」
敵の手駒と成り果てるぐらいなら、自由に生き永らえるということか。
そこには主を見極めようとするだけの厳しい視線があった。主君を主君として仰ぐか、それとも見限るか。
その瀬戸際に大竹丸は今立たされているのだろう。
「良いじゃろう」
嬢の真意を読み取った以上は、その言葉を非とすれば見限られるのは目に見えている。ならば、大竹丸の言葉は是という以外になかった。大竹丸は腰を浮かす。
「分からせてやろうではないか――」
★
結論から言うと、勝敗の結果は大竹丸の勝利に終わったようだ。
風雲タケちゃんランドのダンジョンの一角を借り切って行われた戦闘は大竹丸と嬢以外のギャラリーの侵入を拒み、三日三晩の長きに渡って続いた。
そして、出てきた時、大竹丸が嬢に肩を貸す形で出てきたのだから、勝敗の結果は自明の理であった。
だが、戦闘の詳細については互いに話すことはなく、嬢は大竹丸に今回の件に関してだけは協力することを誓い、服従する態度を取ったことから、大竹丸は彼女の御眼鏡に適ったということなのだろう。
そして、三日三晩という時間が経ったことで体調を戻す者たちも現れ、大竹丸たちは再度広い板の間にて作戦会議を行うのであった――。
「妾の山が攻められた以上、このまま捨て置くというわけにもいかぬ。……というわけで、今度は妾たちから敵の本拠に攻めようと思うのじゃが」
大竹丸が視線を巡らせる先には、小鈴や黒岩などのいつもの探索者の面々だけでなく、百鬼夜行帳の中から呼び寄せた一騎当千のツワモノたちもいる。その中の一人、フードを深く被った不死王からしゃがれた声が響く。
「主よ……。聞いた話だと、どうやら電波塔というものが主の力を縛っている様子……。ならば、その電波塔の破壊とダンジョン攻略との二面攻撃を仕掛けてはどうじゃ……」
「ならぬ。電波塔を破壊した場合の影響が大きすぎる上に、そもそもダンジョン化しておれば破壊出来るのかどうかも怪しい。そうなれば戦力を分散する愚ともなりかねん」
最もらしいことを言う大竹丸だが、電波塔を破壊した場合に弁償しろと言われるのを恐れての発言である。運の良い事に、この場にその事に気付く者はいなかったが……。
「じゃあ、最初からダンジョン狙いで突き進むのかニャー?」
懐疑的な声で口を挟んで来たミケの言葉に大竹丸は首を横に振る。
「それじゃと、塞建陀窟と同じことになりかねん。いざという時のダンジョンデュエル脱出なんぞ一度経験しただけで、もう十分じゃ」
大阪から三重までのとんぼ返りであるのなら、東京から三重までよりは幾分か楽かもしれない。だが、あんな真似は二度と御免だというのが大竹丸の意見のようだ。
「じゃあ、どうするんですか?」
大して緊張した様子もなく、緑茶を啜りながらそう呟くのはアスカだ。SSS級モンスターの割には強者の圧力といったものが皆無なのが、彼女の魅力なのかもしれない。
その言葉を待っていたとばかりに、大竹丸が口の端を上げる。
「こっちからダンジョンデュエルを仕掛ける……!」
大竹丸の言葉に会議の場が沸き立つ。
腕を鳴らしたり、悲観的になったり、だが一番多かったのは懐疑的な意見だろう。小鈴が挙手をして尋ねてくる。
「えーと? ダンジョンデュエルって、ランクが高いダンジョンからランクの低いダンジョンに仕掛ける場合って相手に拒否される場合があるってノワール君に聞いたけど~?」
大竹丸はその質問に鷹揚に頷きながら答える。
「こちらのダンジョンが避難民の受け入れでポイントがカツカツになっている間に、相手は世界中をダンジョンに変えてDPを回収しまくっておったお陰か、いつの間にかダンジョンランクが逆転しておったらしい……のう、ノワール?」
「えぇ、まぁ。不幸中の幸いと言うべきか、何と言うべきか、おかげ様でこちらが格下のダンジョンとなっていますから、相手にダンジョンデュエルに対する拒否権はありません。仕掛けられたら受けるしかないですよ」
「そういうわけじゃ。つまり、妾たちは風雲タケちゃんランドを用いて、相手のダンジョンとダンジョンデュエルを行おうと思う」
大竹丸の宣言に会議に集まった一同から驚きの声が漏れる中、今まで目を瞑って話を聞いていたベリアルがゆっくりと目を見開く。
「……相手のダンジョンの領域は世界全土だぞ? そこにいるモンスター、そしてその土地が全て相手のダンジョンの敷地となるのであれば、制限時間内に勝負を付けられないのではないか?」
電波が届く土地の全てが相手のダンジョンと判定されれば、攻め込むのにも一苦労だ。特にダンジョンデュエルの勝敗の決着方法は相手のダンジョンの土地の占拠率で決まる。相手の土地が広ければ広い程、占拠率を稼ぐのは至難の業となってくるのだ。
そこまでは計算していなかったのか、大竹丸も渋い顔だ。
「そこは、電波の届いている地域までダンジョン判定されておらんことを祈るしかないのう。まぁ、土地が広くても御主なら何とか出来るのではないか?」
「……軍団は再生し終わっている。集団戦をやるというのなら手は貸すぞ。悪魔の軍勢五十三万程度で申し訳無いがな」
「そういうことでしたら……」
ベリアルが悪魔の軍団の復活を告げると、今度は恭しく不死王が頭を垂れる。
「我が主よ、私も躯さえ用意頂ければ不死の軍団を作り出してみせますが如何でしょう……。躯さえあれば我が配下は無限に増えますぞ……」
「なるほどなるほど。意外と妾たちの側にも面制圧を得意とするものが多いようじゃな」
勿論、その中には大竹丸自身も含まれるのだが、神通力を封じられている以上、分身するのは厳しそうである。
また、広範囲の攻撃としては嬢も得意としている分野である。
そういう意味で言えば、大竹丸の軍勢の中には多勢を相手取るのを得意とする者が多いのかもしれない。
「とはいえ、一部の相手側は傑出した者もおるのが事実。気は抜けぬか」
前鬼、後鬼を始め、やすなと名乗った少女の動きも決して悪いものではなかった。あれらを相手にするとなると、小鈴たちのような探索者たちには荷が重くなることだろう。
その辺りには一計を案じなければならない。
「ダンジョンを利用し、敵を分断し、それぞれに持ち場を設けるか? それとは別に攻め手も用意し、相手を突き崩すことが出来れば或いは……」
大竹丸が低く唸るようにして呟いていると、あざみが突如として鼻血を垂れ流す。
どうやら、【深淵の智】のスキルを使ったらしい。鼻を押さえながらも、くぐもった声で提案する。
「ペペぺポップ様。集団戦をやるなら同盟を組んだ方が良い――と深淵の智が言ってる」
「同盟? じゃが、妾たちに協力してくれるものなど……」
恐らく、世界中にモンスターが現れている現状では公認探索者たちも地元で慌ただしく活躍していることであろうし、手を借りるのは難しい。
だが、あざみは真剣な目で大竹丸を見つめて続ける。
「居る。……アスカとミケの元同僚が」
「あぁ、なるほど。彼なら集団戦は得意ですね」
「というか、そういう集団戦用のバフばかり持ってる奴ニャ! そのくせ、個人でも相当な武勇を所持してるチートキャラニャ! ベリアルさんと良い勝負ニャ!」
アスカとミケが訳知り顔で頷く中、大竹丸も大胆不敵な表情で頷き――、
「なるほど。……誰じゃっけ?」
そう発言し、アスカとミケを派手に
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