第116話 決戦桜島ダンジョン!⑧
「起きて~、タケちゃん~。着いたよ~」
「なんじゃ、もう朝か?」
「朝じゃなくて、装甲車が止まったんだよ! ここからは徒歩だってさ!」
装甲車の中で
どうやら、装甲車での移動はここまでらしい。周りのみんなも降りる準備をしているようだ。
「では、妾も降りるかのう」
「忘れ物はない?」
「忘れても作り出せばよいじゃろ」
「そういうのは便利だよね。神通力って」
「スキルや魔法が徐々に浸透してきておるからのう。その内、神通力がなくとも当たり前に色んなことが出来るようになると思うがのう」
「そうだと良いんだけど」
他愛もない話をしながら装甲車を降りると、少し開けた広場のようになった場所に何台もの装甲車が止まっていた。他の装甲車に乗り込んでいた探索者たちも、ここで一度合流してから先へ進むようだ。様々なパーティーが装甲車を降りて姿を現す。
「やぁ、一席。よく眠れたようだね。寝癖が付いているよ?」
そう言って陽気に声を掛けてきたのは、見る者を魅了するかのような甘い
公認探索者第二席である
彼はサラサラの金髪を片手で掻き上げながら、アイドル顔負けの整った顔で大竹丸に向けて笑い掛けてくるが、大竹丸は手櫛で乱雑に寝癖を直すと「これでえぇじゃろ?」と仮面をわざわざ外して、蕩けるような笑みを浮かべて優に見せつける。
それだけで、優は白い頬に朱が差し、参ったなぁと困った表情を浮かべていた。
どうやら、大竹丸をからかおうとして、逆にからかわれてしまったようだ。
そんな優の様子を見ていたのか、何かを言いたげな様子で四人の年若い女性たちが、優を守るようにして彼の背後に立つ。
随分と棘のある視線だなと大竹丸が思う中で、優はそんな彼女たちの存在に気付いたらしく「あぁ」と掌を打つ。
「そういえば、一席には紹介していなかったね。彼女たちは『クルセイダーズ』。私のパーティーメンバーなんだ」
「クルセイダーズリーダーの
「こちらこそじゃ」
代表として挨拶してきた梨沙の手を取って固く握手を交わす大竹丸。
だが、急に沢山の名前を紹介されても名前と顔が一致しなさそうだと思ったことは内緒である。
まぁ、おいおい覚えていくだろうと、大竹丸はこの場で名前を記憶することは諦めた。
「……顔を顰めもしないのですね」
「何かおかしいかのう?」
「いえ、何でもありません」
梨沙が手を放して軽く腕を振るう仕草をすると、クルセイダーズの面々が多少驚いた表情を覗かせている。
どうやら、何かしらのことが起こっていたようだが、大竹丸は気付かずに終わったようだ。それだけ大したことではなかったのだろうと大竹丸は勝手に納得しながら、仮面を被り直す。
「何かやったの? 梨沙さん? これから一席とは共同戦線を張るんだから、変な揉め事は困るよ?」
「いえ、大丈夫です。恐らく揉め事にすらならないようですから……」
「それって揉め事起こそうとしたってことだよね? 頼むよ、本当。すみませんね、一席」
「別に構わぬよ。……ん?」
優があからさまにほっとした表情を見せていると、今度は違う方向からドレッドヘアとリーゼントの集団がやってきた。彼らは全員が特攻服のような長ランを着込んでおり、そこにはデカデカとした文字で九龍連合という文字が書かれていた。
その先頭に立つのが、ドレッドヘアの偉丈夫――公認探索者第四席、島津弘久である。彼らはクルセイダーズやルーシーに不躾な視線を向けると、品のない笑みを浮かべては笑ってみせる。
それが分かったのだろう。
優がむっとした表情を作ると同時に、弘久がその空気を感じ取って大竹丸たちに近付いてくるではないか。出鼻を挫かれた形になった優は鼻白むしかない。
「何だよ? 突入部隊だけで秘密のお話かよ? だったら、俺らも混ぜろや! 俺らも突入部隊なんだからよぉ!」
「別にそんな重要な話じゃないですよ。戦線を張る関係上、少し挨拶をしていただけですし」
「だったら、俺も挨拶をしても構わねぇよなぁ!」
「そ、それは……」
「構わぬぞ?」
まるで覆い被さるようにして見下してくる弘久の姿に、見た目は華奢な少女にしか見えない大竹丸を生け贄のように放り出す事が、優には気が引けたのだろう。
だが、それこそ大竹丸にとっては余計なお世話である。
大竹丸を覆い隠すかのように頭の上から見下げてくる弘久の顔に無機質な仮面が正対し、その仮面の奥から深淵よりも深い闇色の瞳が弘久の瞳を覗き込んでくる。
「…………」
「なんじゃ? 挨拶せぬのか?」
「ちっ、足引っ張んじゃねーぞ……」
まるで、得体の知れない怪物に覗き込まれたような気持ちの悪さを覚えた弘久は、その気持ちを誤魔化すかのように悪態をついて、その場を早々に去っていってしまった。
それを見た優はほっとした様子を隠すこともなく、安堵のため息を吐いていた。
「大丈夫ですか? 一席?」
「何がじゃ?」
「まぁ、一席にとって取るに足らないことなら、それでいいです……」
「では、良きに計らうのじゃ」
まさに傲岸不遜といった態度の大竹丸に、クルセイダーズは敵視の視線から呆れた視線を向け、一触即発で何かが起こるかも、とハラハラしていた小鈴は何事も起こらなかったことに肩透かしのような気落ちを味わう。
何にせよ、ダンジョン突入組の空気はそんなに良い方ではなかった。
この調子ならまた一波乱あったりするのかな、と小鈴はそんなことを考えながら、自身の巨大な背嚢をよいしょと背負うのであった。
★
「――というわけで、先行させていたドローンの情報によりますと、ここから先はオーガ種のような巨体のモンスターが徘徊しています。そのため、これ以上の装甲車での突破は難しいと判断しました。よって、ここからは当初の作戦通り、三席、五席、六席、七席のパーティーにダンジョン入り口までの突破口を切り開いて頂きたいと思います。準備は宜しいですね?」
甲斐二尉とは違った自衛官が、集った面々に簡単に状況を説明する。
服装が自衛隊のものであるし、自衛官ではあるのだろうが、大竹丸とは面識のない相手であった。もしかしたら、陸上自衛隊西部方面隊のお偉いさんなのかもしれない。
「はいはーい。三席パーティーは準備万端っすー!」
「何、先輩、勝手に返事しちゃってるんですか……。ゴホゴホ……」
公認探索者第三席こと、如月景のパーティーは景以外は普通の人間にしか見えないメンバーで揃えてきたようだ。むしろ、大学のサークル仲間をそのまま連れてきたといってもおかしくない雰囲気である。
元気の良い女性を筆頭に、見せ掛けの筋肉ばかりが発達している細目の男と、太目の体型で荷物持ちの男との四人パーティー。その実力は未知数である。
「あの人たち、凄く素人感あるけど大丈夫かな?」
小鈴にまで心配されるようでは、いよいよその実力は怪しいといったところか。
だが、そんな不安要素を打ち消すだけの存在が、あのパーティーにはいた。公認探索者第三席――如月景だ。
「景がいるから大丈夫じゃろ。あやつがおれば、攻撃、妨害、回復の一人三役がこなせるからのう。周りが素人でも、あやつ一人おれば、ダンジョン攻略が可能なレベルで何とかなる……はずじゃ」
そして、そのことを景も理解しているからこそ、素人のメンバーを連れてきたのだろうと、大竹丸は読んだのだが――……実際には嫌がる景にサークル仲間が無理矢理ついてきたのが真相だったりする。
「僕たちも問題ないよ」
「ウォーミングアップも終わっているわ。暴れる用意は出来ているわよ」
次に返事をしたのは背の高い優男と泣き黒子の美女のコンビ、橘夫妻だ。
彼らは互いが体に腕を回し、仲の良さをアピールしながら余力のあるところを口にする。道中で
「六席も問題ない」
六席である長尾絶、小島沙耶コンビも平静そのものの態度で返事を返す。
この辺、五席、六席はパーティーメンバーが少なく、二組ともコンビでの参加だ。
五席は風神雷神というスキルの関係上、広範囲に影響をばら撒く為に多人数のパーティーは組み難いだろうというのは分かるのだが、六席がパーティーを組まないのはひとえに絶について来られる人間が少ないからではないかと大竹丸は夢想する。
その辺はいつか聞いてみたいものだと、仮面の奥でひっそりほくそ笑んでいた。
「――七席も」
「――問題ない」
最後に返事をしたのは
一糸乱れぬ動きで返事をした彼女たちの背後には筋骨隆々でありながら、ピッチピチのスーツを着た二人の大男が控える。
もしかしたら、露払い組の中では突出して戦闘力が高いのではないかと思わせる七席のパーティーメンバーは、かの大天狗である太郎坊と次郎坊のコンビだ。肉体派の二人に壁役をしてもらい、背後で双子が術を行使するというパーティーメンバーとしては理想的な構成だろう。
ただし、双子の妹であるアミの気が何故か、景の隣にいる大学生ぐらいの女性に向かっているのが気になるところではある。
(集中力を切らさないことを祈っておくかのう……)
大竹丸が心の中で祈りを捧げれば、後は全て問題無しとして、自衛官たちは引き上げの準備を始める。彼らは彼らで、これから帰りの道で決められた市道を通り、逃げ遅れた一般市民がいないかどうかの確認を行っていくのだ。
それらは市街地という多数の隠れられる場所を有した場所での探索作業であり、当然のように危険が付きまとう。だからこそ、自衛隊の中でも腕利きが集められたのだろう。甲斐を筆頭に、何となく風雲タケちゃんランドで修行を行っていた自衛官たちの顔も見つかる。もしかしたら、三重の自衛官も何人か呼ばれてきているのかもしれない。
そして、自衛官たちが撤収準備をしている横を抜けて、露払い部隊が先頭に立って海沿いの道を進んでいく。
どうやら、彼らはパーティーごとに交代で戦闘を行っていき、疲労を軽減していく作戦を取るようだ。各パーティーのリーダーが集まって、軽く話し合ったところで、第三席のパーティーを残して、少し他のパーティーが距離を離す様子が見える。
そんな光景を後ろから見つつ、大竹丸たちも露払い部隊に続いて歩いて行く。
彼らの先頭は白銀の盾を背に背負った黒岩で、その少し後ろにいつでも出れるように巨大な荷物を背負った小鈴、中衛に臨機応変に動けるあざみを配置し、大竹丸とジムは後方からの襲撃に備えて最後尾にいる。
そして、そんなパーティーメンバーの中にルーシーの姿がない。
「あれ?
それに気付いたジムが声を上げるが……。
「いますよ?」
声はすれども姿は見えず。
黒岩が防御の技術を鍛えに鍛え、小鈴が実戦経験を積みに積み、あざみが神通力を時間の許す限り伸ばし続けた間、ルーシーは戦い方ではなく、隠形の技を磨きに磨き抜いていた。
その結果、彼女の技はそれこそ、目の前に姿が見えていても認識できなくなるほどに完成してしまったのである。
なお、パーティーメンバーである小鈴や黒岩、あざみや大竹丸などは何となくその辺にいるというのを感じることが出来る。それは、ルーシーの修行に彼らも関わってきたからの賜物だろう。だから、何とか居る事を理解できる。
だが、ジムが完全に見えていないのと同様に、彼女と付き合いの薄い者には完全に見えないことだろう。それだけ、気配を消し、死角に回り、音も息遣いも全てが表に出てこない――それが、加藤ルーシーが特訓の末に得たものなのであった。
ジムの背に何やら冷たい汗が流れる。
世界ランキング第三位だなんだと持て囃されて、その気になっていた部分があったのだが、調子に乗るのはやめようと決意した瞬間である。
世の中にはまだまだワケが分からないほどに強い実力者がゴロゴロとしているのだから――。
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