第七章 全国平定編 -九州-
第109話 決戦桜島ダンジョン!①
月日の流れるのは早いもので、最初のダンジョン発見の報から既に二年が経とうとしていた。
最初の一年で自衛隊によるダンジョン探索とダンジョン関連の法整備、そして民間開放の流れから、二年目にはダンジョン攻略者の誕生、日本政府公認探索者の誕生、新宿ダンジョンのモンスター
そして、三年目の夏――。
日本全国ではまだまだダンジョンの数は減っておらず、合計で百以上のダンジョンを攻略しようと全国で三万人程度に増えた探索者たちが奮闘している。
とはいえ、ダンジョンドリームを手に入れ、大成功を収めている者たちはまだまだごく一部だけであり、多くの一般探索者たちはちまちまとダンジョン内の弱いモンスターを間引きしているだけに過ぎない。
ちなみに、海外に目を向けてみると、当初は軍隊を導入していたアメリカやロシア、中国などの大国は全世界の探索者化の波に乗り遅れ、三年目の時点でダンジョン攻略数が日本よりも少ないという結果に終わっていた。この辺は銃器でのごり押し物量作戦が難しいという結果を如実に示すこととなり、DPで手に入れた装備を持つ少数精鋭での攻略に国の方針が切り替わってきているので、四年目には日本とのダンジョン攻略数の差は逆転するだろうと言われている。
そして、ダンジョン攻略が探索者たちに委託されるようになってきて、各国でも英雄視されるようなダンジョン探索者が出てき始めてきていた。彼らはいずれも冒険者カードでランクが高いことで知られ、探索者界隈ではランカーという呼ばれ方をしているようだ。
功名心の高い者などはSNSで自分の探索者ランクを明かし、そういったデータをまとめるのが好きな有志たちが、全世界の探索者たちのランク付けをして回っているのは……ダンジョンが出来る前からの……世界の常だろう。
尚、探索者ランキングの十位以内には、日本人としては大竹丸しか入っておらず、その他の日本政府公認探索者たちは百位以内にポツポツと存在するような寂しい結果であった。だが、そもそも日本の公認探索者はSNSでのランク公開は誰もやっておらず、実力が正しく測れなかったというのが正しいのだろう。それでも少しばかり寂しい結果である。
そうしたわけで世界では数多の探索者たちがダンジョンドリームを掴もうと日夜頑張っており、身を粉にしてダンジョンに潜り続けているような状態なのであった。これは、ダンジョン発見の報より三年目になっても熱が冷める様子がなく、益々過熱していっているようだ。
そんな折、羽田空港に一人の男が降り立つ――。
男は褐色肌の黒人であり、背が高く、一見するとひょろりとした印象を受けるが、それは手足が長いせいだとすぐに知れるだろう。男はジーンズにシャツ、それに薄手のジャケットという格好で
そうして男の番が来ると、七三分けの如何にも日本のサラリーマンといった税関職員がその黒人に尋ねる。
「
「いや――」
黒人の日本語があまりに上手かったので、税関職員が受け取ったパスポートから視線を上げて思わず男を見上げてしまう。男は黒眼鏡を取ると、真っ白な歯を剥き出しにして笑う。
「――修行さ」
ジム・ハックマン。
米国所属の探索者ランキング三位に挙げられるランカーであった。
★
さて、羽田空港に海外の実力者が降り立ち、全国の探索者が命を危険に晒しながらダンジョン攻略に精を出す中、三重県と滋賀県の間にある鈴鹿山ではダンジョンドリームを手に入れた一人であろう大竹丸が、決意を固めて決戦に臨もうとしていた。
「見ておれよ、小鈴! 今日こそ妾は勝つ!」
「あぁ、うん。頑張って~?」
風雲タケちゃんランドに併設されている高級ホテルの廊下で偶然出会った田村小鈴に決意を述べる大竹丸。
それを湯上りらしい小鈴が気の抜けた声援で応援する。
この宿泊施設には地下に大きな温泉施設が作られており、小鈴は一日の訓練の疲れを取る為に良く利用しているようだ。
なお、地下施設は元々大浴場だったのだが、経営が軌道に乗ったことにより温泉施設へとグレードアップを遂げていた。一夜明ければ、大浴場が温泉施設に早変わり――DPさえ払えば工事期間なく施設が完成するダンジョンの施設は、凄いの一言に尽きるだろう。
そんな温泉施設は、風雲タケちゃんランドの動物園施設や遊園地施設が目的の家族連れに好評を博している。無論、特訓疲れを癒す探索者たちにも大好評である。
そして、そんな施設のオーナーはきっと仕事が忙しいのだろうと思われがちだがそんなことはない。
いや、仕事自体は忙しい。
だが、彼女には分け身の術という反則級の神通力が使えるのだ。その為、幾つもの仕事を物理的に分割して実施している為に本体自体は割と暇なのであった。
そして、暇な本体はというと、連日のようにある強敵に挑んでいるのである。その強敵とは――。
★
「はい、ボクの勝ち~」
高級ホテルの最上階のフロアは風雲タケちゃんランドのコントロールルームとして、ダンジョンマスター専用の部屋が用意されていた。
壁一面に何十と並べられた監視モニターが慌ただしく画面の内容を切り替えていき、室内にはそれとは別にコの字型に配置されたテーブルにデスクトップパソコンとゲーム機が所狭しと並ぶ。そして、そんな室内の一角に設えられた大型テレビにYOU WINの文字が躍る。
コントローラーを取り落として放心状態の大竹丸を見やれば、どういう状態なのかは一発で分かろう。
「何故じゃあ……。何故勝てん……」
そう、強敵とは風雲タケちゃんランドのダンジョンマスターであるノワールであった。
連日のパワスピ勝負で敗れた大竹丸は満を持して、格闘ゲームであるクイーンオブヒロイン120%ファイナルを持ち出し、ノワールに勝負を挑んだのだがボッコボコにされてしまい、魂が抜け掛けているという状態である。
ある意味、大竹丸に致命的な精神ダメージを与えた最強の相手とも言えよう。恐るべきはノワールである。
「おかしいじゃろ、一本も取れんとか……。妾、一応、ハードモードのCPU戦クリアしたんじゃぞ……?」
尚、ハードモードのCPU戦はそんなに難しくないと世間では言われている。
「あれ? 言ってなかったっけ? ダンジョンマスターは一人ひとつずつ役に立たないような特技を持っていて、ボクの場合は『ゲームマスター』なんだよね。だから、どんなゲームで勝負を挑まれても負けないよ?」
「なんじゃ、そのチート臭い能力は!?」
「タケ姐さんに言われたくはないよ!?」
復活した大竹丸は、ふぅむと唸った後で「ならば、輪投げとかそういう奴ならどうじゃろ?」とか言い出す始末。どうやらどうしても勝ちたいようだ。
「ボクに勝ちたいなら、まず小鈴ちゃんに勝ってからにしなよねー」
「小鈴は駄目じゃ! 妾の癖とか、妾の仕草で妾の考えていることを読んできよる! あんなのはゲームではない! メンタリストの所業よ!」
「そういうのもゲームの醍醐味だと思うんだけどなぁ」
しみじみと呟くノワール。そして、大竹丸がとにかく負けず嫌いだということも理解したノワールである。
とにかく連日のゲーム勝負の結果、大竹丸の精神はボロボロであった。どこかで憂さ晴らしをしなければと考え、ふと思い当たる。
「そうじゃ。ダンジョン潰しに行こうかのう」
「そんな、そうだ京都に行こうみたいなノリで言われても」
「まぁ、冗談じゃが流石にそろそろ活動せんといかんじゃろ」
「公認探索者としての貢献度があまり稼げてないから?」
「左様」
日本政府公認探索者のランキングは探索者としての活躍に応じて上下すると後で読んだ契約書には記載されていた。そして、二年目の際には新宿ダンジョン攻略や松阪ダンジョンの攻略で貢献度を稼げていたが、三年目に入っては一切の探索者活動をしていない。
いや、風雲タケちゃんランドの経営をしているといえばそうなのだが、このまま何もしないようでは他の公認探索者たちに一席の座を譲り渡す可能性もあるのだ。それを考えると何か動かねばならないのだろう。
「この辺で残っとるダンジョンというと、伊勢神宮ダンジョンか、鈴鹿サーキットダンジョンかのう」
「松阪ダンジョンはタケ姐さんが潰しちゃったからね。あとは、関西方面に行くとかかなぁ? あっちの方はまだダンジョン攻略者が出てないんだよね?」
「そう聞いておるのう。全体的にダンジョンの難易度も高めじゃと聞くから苦戦しておるのじゃろう」
一時期は関西に凄腕の探索者がいるという噂も流れたのだが、その噂もいつの間にか潰えた。恐らくは帰らぬ人になったか、割に合わないと思って探索者をやめたかのどちらかだろう。何にせよ、関西は攻略されていないダンジョンの宝庫だ。
「まぁ、行くなら行くで小鈴ちゃんたちとちゃんと相談しなよ? 一応、彼女たちも次のダンジョン攻略を心待ちにしているみたいだしね」
「そうじゃのう」
煮え切らない態度のまま数日が過ぎたある日、風雲タケちゃんランドに有名人が訪問してくる。
ジム・ハックマンの来訪であった。
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