第86話 そうだ、風雲タケちゃんランドに行こう ~エピローグ~

「う、浦部さんが負けた!?」


「新宿ダンジョンの蒼き星ブルースフィアの伝説は与太じゃなかったのか!?」


「馬鹿野郎! あれは、浦部さんじゃねぇ! モンスターだ! 俺は新宿狩りを抜けるぞ! あの人浦部さんが居たから俺は付いてきたんだ! それに、モンスターになんてなりたくないしな!」


「そ、それなら俺だって……!」


「お、お前ら、裏切るつもりかっ!?」


「ざけんな! 俺たちは浦部さんを慕って付いてきたんだ! テメェらみたいな犯罪を犯したくてやってきたような犯罪者集団と一緒にするんじゃねぇ!」


 青木が浦部を倒したことによって、何やら新宿狩りの間で内輪揉めが起こっているようだ。それだけ浦部の求心力が大きかったという事だろう。


 風間は混乱する新宿狩りを前にして、死者を悼むように僅かばかりの黙祷を捧げると――、


「戦う気の無い新宿狩りは退け! 最後まで戦うというならそれなりの痛みを覚悟して貰うぞ!」


 ――そう言って、皆を鼓舞する。


 その言葉が完全に決め手となり、戦況は風間たちの側へと完全に傾いた。ドッペルゲンガーを狙って次々に仕留めていく赤川の活躍もあり、戦場の混乱も遠くない内に収まることだろう。


 そんな光景を見るともなしに眺めながら、青木は放熱収まらない大剣をぶんぶんと振り回す。どうやら割と熱いらしい。そして、そんな事をしているものだから、近付こうにも近付けない人間がいるのであった。


「……ぶんぶん振り回さないでよ。危ないでしょ」


「緑川……」


 青木は石畳を割って大剣をその場に突き刺し、緑川と向き合う。その緑川は少しだけ嬉しそうな表情を見せた後で、どこか複雑そうな表情を見せて俯いていた。素直に嬉しいというだけではないらしい。


「まずは、お礼を言っておくわ。……ありがと」


「あぁ」


「それで、その、何ていうか……」


「浦部さんのこと?」


「違――じゃなくてっ! うぅん、最低だ、私……。自分のことしか考えてない……」


 浦部の魂が、もし今までの新宿狩り事変状況を見守っていたのであれば、どれ程嘆き悲しみ苦しい思いをしてきたことか。その事は想像に難くない。だが、緑川が言いたかったことは、そんな故人を偲ぶことではなく、非常に個人的な理由であった。


「私が言いたかったのは、蒼き星ブルースフィアのこと……」


「あ、あぁ……」


 そのことは想定していなかったというよりも、戦場ここで話すつもりは無かったのかもしれない。青木は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を一瞬だけ見せる。


 だが、緑川の眦に大粒の涙が溜まっているのを見て、話を聞く態勢に入る。


「うん、その……。私は、蒼き星はもう、その、限界だと思っていたの。だから、ずっと退き時を探してた。でも、青木はそれを聞いてくれなくて、どうして聞いてくれないのよって思っていたし、更には修行するとか言い出して、馬鹿じゃないのとも思ってた……」


「ははは、酷い言い草だ」


 青木は笑うが、緑川が更に泣きそうな顔になるのを見て茶化すのを止める。青木が緑川と連絡が取れなかった期間に悶々と考えていたように、彼女もまたこれで良かったのか自問自答を繰り返していたに違いない。そんな彼女の後悔の気持ちが伝わってきたからこそ軽口をつぐむ。


「……でも、馬鹿は私だった。自分で勝手に限界を決めつけて、それ以上進もうとしなかった。可能性なんて無いって決めつけてた。だけど、そんなの妄想で本当は頑張れば道は開けたんだ。今日の青木の姿を見て、そう思った……」


 青木は後頭部をぽりぽりと掻く。


 あの阿呆みたいな二十四時間修行体勢をの一言で済ませて良いのかという疑問はあったが、何もやらなければ成長が無いのは当然といえば当然である。


 それを停滞というのであれば、確かに停滞であろう。


「だから、その、間違っていたのは私だった。ゴメン……」


「いや、それは違う。謝るのは俺の方だ」


 緑川が謝罪する中で、青木はその謝罪を受け入れない。彼も赤川から緑川や熊田の状況を聞いて、ずっと考えていたのだ。思い悩んでいたのは青木も同じなのである。


「――え?」


「俺はずっと四人で探索者として……プロの探索者としてやっていくもんだと考えていた。だけど、緑川や熊田が就活しているって話を聞いて……。俺、全然、皆の意見を聞いてなかった事に気付いたんだ……。本当、赤川に言われるまで気付かなかったよ……」


 それは蒼き星のリーダーとして、独りよがりワンマンで引っ張ってきた弊害であろうか。青木は自分の意見がパーティーメンバーの総意だと無意識に考えている部分があった。だから、疑いもせずに全員が全員、自分の道に付いてきてくれるものだと思っていたのだ。


 だが、それもまた思い込みなのだと、赤川の言葉で気付かされた。


 ふぅ、と青木は嘆息を吐き出す。


 それは過去の馬鹿過ぎる自分の考えに対する呆れだろうか。


「皆が皆の道を選ぶんだってことを知って、俺は結局独りよがりで突き進んでいたんだなって……。だから、謝るのは俺の方もだ。すまない」


 そう言って、深々と頭を下げる青木。


 そんな青木の姿を見た緑川は思わずプッと噴き出す。


「あははははッ!」


「何故笑う……」


 そんな緑川を半眼で睨みつつ、青木は頭を上げる。それでも緑川は可笑しさが堪え切れないとばかりに涙を流して笑っていた。


「ははは、二人して謝ってさ――馬鹿みたいだ、私たち!」


「良いだろ。間違っていたって思ったのなら謝るのは当然だ」


「…………。青木は眩しいね」


「何だそれ……」


 緑川がどきっとするほど艶っぽく笑うので、青木は内心ではあたふたとしながらも表面上を取り繕う。


 だが、それも束の間。


 やがて相好を崩し、二人して朗らかに微笑み合う。二人の間の蟠りはいつの間にか溶けて消えていた。


 だが、そんな時間も長くは続かない――。


「いやぁ、実にお見事だよ~♪」


「誰だ!」


 ぱちぱちと乾いた拍手の音がダンジョンの奥から響いてくる。


 青木は即座に石畳に刺していた大剣を抜き、その音の方向へと向き直る。


 だが、ダンジョンの奥から出てきたのは悍ましい怪物モンスターなどではなく、背の低い見目麗しい少女であったのだ。青木は少しだけ肩透かしを食ったように気を抜く。だが、逆にそんな存在がダンジョンの奥より現れたことを不気味に思い、その気持ちを直ちに正す。ダンジョン内では何が起こるか分からない。油断は死に直結することを理解しているのだ。


「凄いよね~。普通の人間にしては大分強いんじゃないかなぁ?」


 。ブレザー服姿の少女は、年の頃十五、六であろうか。一見すると中学生か、高校生に見えるが、その腰まで伸びた特徴的な色の髪がどうやっても品行方正な学生といったようには見せない。青木の感覚で言うのなら、学生というよりは演奏者バンドマンといった感覚だ。


 その少女は青木の手前五メートルの距離で足を止めると、値踏みをするように青木を繁々と眺め始める。


「ふんふん、ほぉ~。なかなかどうしてですなぁ~」


「…………」


 その様子に先に焦れたのは青木であった。大剣の先を向けながら、呆れたように声を掛ける。


「……誰だ、と聞いたぞ」


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました! じゃあ~ん! 黒幕登場だ~! 怖いか~! がお~!」


 少女はそう言うなり、両腕を上げて一生懸命自分を大きく見せながら『がおー』と青木と緑川を脅しつける。


 だが、そんな彼女を見た青木と緑川はと言うと――。


「「怖いっていうか、可愛い……?」」


 ――そう正直に告げていた。


 少女の見た目では全然迫力が足りなかったのである。そして、少女は驚いたように目を丸くすると――、


「はうっ!? お兄ちゃん以外の男の人に可愛いなんて言われちゃうなんて、ドキドキだよ……!」


 やすな、と名乗った少女は頬を真っ赤にしながら自分の両手で頬を押さえては体をくねくねとさせ始めてしまった。


 どうやら照れているらしい。


 そして、一通り奇妙な踊りを披露した後で満足したとばかりに、彼女はあっけらかんと青木たちに向けて告げる。


「うん、褒めてくれて気分が良いから、今日の所は誰も殺さないでおくね!」


「え……? 何を言っているの……?」


 緑川が不審そうな表情を浮かべた瞬間、青木はその予兆を感じ取っていた。


 素早く大剣を操り、自身の眼前へと掲げると同時――。


 ――強烈な衝撃が大剣ごと青木の体を後方へと吹き飛ばす。


 砂利を弾き飛ばしながら何とか踏ん張り、青木はどうにか倒れずに済んだが衝撃が体を突き抜け、青木の口腔から細い血の糸が垂れ流れ落ちる。


 唇を切ったとかそんな生易しいものではない。内臓系の何処かを痛めたのだと、青木は直感的に感じ取る。それだけの強烈な衝撃が青木を突き抜けていったのだ。とんでもない威力の攻撃。それを放ったであろう、やすなという少女は青木の前方十メートルの距離で拳を前に突き出した状態で立つ。どうやら、一直線に青木に近付いて拳を繰り出したようだが……。


(まるで見えなかった……。それでも防げたのは、第一席の初動を感じ取る訓練をしていたおかげか……。あの時は俺には無理だと割り切ったがちゃんとやっておくべきかもな……)


 そんな脳内反省会を行う青木を見て、やすなはきょとんとした表情を浮かべる。

  

「ありゃ? 寸止めするつもりが当たっちゃった? もしかして、やすなの攻撃に反応出来ちゃったりした?」


 やすなの言葉を信じるなら、その攻撃は当てるつもりがなかったらしい。


 だとすれば、逆に青木が下手に動いて傷を負ったことになる。だが、相手の攻撃に反応出来るかどうかというのは、相手に抱かせる印象が随分と違ってくるようだ。やすなは感心したように続ける。


「うーん、となると、やすなが雑魚雑魚の弱々ちゃんになっちゃったのかなぁ~? いやいや、それは無いよ! じゃあ、これは青木お兄さんが強いのか~! 凄いね! いいね! そういう人材は必要だよ! お兄ちゃんも喜ぶしね! 多分!」


 何故だか、テンション爆上げのやすな。


 そんな彼女に戸惑った視線を向けながら、青木は彼女が何を考えているのかを読み取ろうとするが、自由に語る少女やすなの言葉は脈絡が無さすぎて解析不能だ。そして、この煙に巻かれる感じはどこか覚えがあった。


(あざみちゃんに性格が近いな、この娘。何を考えているのか全く分からない……)


「うんうん。私の『百鬼夜行帳』のウラベちゃんをやっつけちゃうんだもの! それぐらいは出来ないとね!」


 そのやすなの言葉に、ぴくりと青木の肩が震える。


「今の言葉……ヒャッキヤコウチョウが何かは分からないが……君が浦部さんを操っていたのか……?」


「操っていた? 違うかな~? やすなはドッペルゲンガーのウラベ君を呼び出して、関東一円をその支配下にしてね~ってお願いしただけだよ! ウラベ君がどんな手段を用いて暴れたかには興味はないかな~。でも、黒幕なのは確かだよッ! えっへん!」


「この娘……ッ! 貴女のせいでどれだけの人が迷惑を被ったか分かっているの……!」


 緑川が憤るが、青木はその緑川の怒りを抑えるかのように彼女に近寄ってその前に出る。


 青木としてはこれ以上、やすなを刺激したくはなかったが緑川の気持ちも分かる。


 問題は、彼女がというだけで、それに関しては覚悟を決めないといけないのかもしれない。


「緑川、あまり彼女を刺激するな。彼女……かなり強い」


「え……」


「むっふっふ~♪ 分かる人には分かるもんだね~♪ うん、気に入った! 青木お兄ちゃんはハンサムさんだし、今後に期待しちゃう!」


 覚悟を決めかけた青木ではあるが、どうやらやすなの方に戦闘意欲がないようだ。良く分からないが、彼女の中には彼女なりの戦う為の基準があるらしい。むっふっふ~と笑いながら、彼女はトコトコと青木たちに近寄ると――そのまま何をするわけでも無く、青木たちに背を向けて歩いて行ってしまう。


 大剣を持つ青木の手にじわりと汗が滲む。どうやら、それだけ緊張していたということらしい。その手汗を拭いながら、青木はやすなの背を睨むことしか出来なかった。


「じゃあね~! お兄ちゃんにお姉ちゃん! 次に会う時はもっと成長した姿を見せてね~!」


 後ろ手を振って去るやすな。


 その背に向かって、青木は駄目元で大声で叫んでいた。


「関東一円を支配だなんて、君らの目的は何だッ!?」


 すると、やすなはくるりと振り返って屈託のない笑顔を見せると――、


「全国平定♪」


 ――そう笑って答えるのであった。


 ★


 数日後――。


 三重県と滋賀県の合間にある鈴鹿山。その山中にある古びた武家屋敷の板張りの部屋でちゃぶ台を囲んでお茶をしている面々がいる。それは絶世の美少女であったり、セーラー服姿のツインテール少女であったり、女の子にしか見えない男の子であったり、軍服姿の銀髪ウエーブ髪の青年であったりと様々だ。だが、共通して言えるのは全員が少し疲れた顔をしていたということである。


「あのね、少し言い難いんだけど……お父――じゃなかった、里長様がもう少し風雲タケちゃんランドの入場者数を増やせないかって……」


 恐る恐るそう切り出したのは小鈴だ。それは本来喜ぶべき提案なのだろう。だが、それを聞いた絶世の美少女――大竹丸は渋い顔だ。


「いや、もう無理じゃろ。ちゅうか、三週連続で増築しとるんじゃぞ。風雲タケちゃんランドのDPもカツカツじゃ」


「その分、入場者数は増えているんだから、DPもすぐ溜まるんじゃないかって里長様が……」


「増えとるのは一般人とか駆け出しの探索者じゃぞ。収入自体は大して伸びとらんわ」


 大竹丸の言葉に隣に座る癖の無い黒髪の美少女(?)が頷く。一見すると女にしか見えない彼――ノワールはうんざりだと言わんばかりの口振りで話す。


「そうそう。あと、それだけならまだ良いんだけどさぁ。客層が探索者に全然関係ないミーハーな層が増えてきたのか、毎日クレームが多くて困るよ。モンスター動物園なんて、モンスターの顔が怖いから子供が泣いた。入場料を無料タダにしろなんて言ってくる人たちもいたし……。モンスターなんだから怖いのは当たり前じゃんって話なんだけど」


「むしろ、そういうこと言ってくる奴らがモンスターじゃろ」


「そうそう、それね~」


 ずずっと毒ぺを湯飲みで啜りながら言う大竹丸に同意するようにして、ノワールも然もありなんと軽ピースをちびちびと嗜む。そんな二人を見て、軍服姿の銀髪ウエーブ髪の男――ベリアルも同意するように頷く。


「我も見た目がモンスターだからなのか、客からの扱いがぞんざいだ。奴隷か何かと勘違いして無茶を言ってくる客が多い印象だ。モンスターたちにも話を聞いているが、色々と鬱憤が貯まっていそうではあった。出来れば爆発する前にガス抜きをさせてやりたいんだが……」


「モンスター用の高級餌あったじゃろ。あれで何とかならぬか?」


「交渉してみよう。出来れば体を動かす施設もあると有難いのだが……」


「そこも増築かのう……」


「えぇ? 増築出来るDPがあるなら、収容人数を増やせるんじゃないの?」


「維持費と増築費用は別じゃ。モンスターの体調管理は維持費に含まれとるからのう。財源が違うんじゃよ。大体、そんなに収容人数を増やしてどうするんじゃ? こっちも捌き切れんぞ?」


 大竹丸が呆れた顔で問うと、小鈴も疲れたように遠い目をしてみせる。


「里長様の話だと、風雲タケちゃんランドのモンスター動物園とか、トラップ遊園地で遊んだ日帰りの親子連れとかが街にお金を落としてくれているらしくって、街が潤って活気が出ているから勢いのある内に拡充したいみたいなんだよね~」


「そういえば、小鈴の父アヤツは公僕じゃったの」


「そうなの?」


「うむ。昔の政府関係者が妾との接触をいつでも自由に取りたいという理由から、公共機関に妾専用の部署があってのう。小鈴の父はそこの……まぁ、言うなれば市役所の職員じゃ」


「へぇ~」


 衛星電話が開発されて、その意味も薄くなったが政府関係者が鈴鹿山に来る場合には、取り次ぐのがまず小鈴の父親ということになる。ちなみに、風雲タケちゃんランド行のバスの調達やバス停の設置なども小鈴の父――田村宏の仕事であった。


「里長様はいつもはあんまり仕事しているように見られてないから、結構、仕事場市役所で肩身が狭いみたいなんだよね。だから、ここでドカンと功績を上げて、そういうイメージを払拭したいみたい」


「いや、それに付き合わされる妾たちの身になって欲しいのじゃが……」


 そうだそうだ、とばかりに頷くノワールとベリアル。流石にこれ以上は今いるメンバーでは許容量の限界を超えると考えているのだろう。そして、それは恐らく事実であった。


「うーん、やっぱり無理だよね~。分かった。里長様には私から言っておくよ~」


「というか、最近、来る人がおかしいぐらいのペースで増えてない? タケ姐さん、もしかして宣伝とかしてるの?」


「ふっふっふ、その通――……って、妾がそんな面倒臭いことするわけないじゃろ!」


「だよねー」


 納得するノワール。だが、小鈴の表情が少しだけ引き攣ったのをノワールは見逃さない。


「あれ? 小鈴ちゃん、何か知ってる?」


「えーっと、ちょっとだけ心当たりがあるかも……」


 少しだけ言い淀んだ後で困ったように笑う小鈴は、その原因と思われる事柄を語り始める。


「あのね、どうも東京に戻った青木さんたちが噂になっているらしくて……」


「む? 青木たちが風雲タケちゃんランドの宣伝をしてくれておるのか? 妾は別に頼んでおらんのじゃが?」


「いや、どうも向こうに帰ってから、東京で起きていた事件を青木さんたちが鮮やかに解決しちゃったらしいんだよね。……で、それが風雲タケちゃんランドから帰ってきた直後だったから、そこに行けば蒼き星ブルースフィアのようになれるんじゃないかって噂が立っているみたいなんだよ~。で、里親様の所に予約の電話が引っ切り無しで入ってるみたい。何だかんだ、蒼き星って有名人気動画配信者だからね~、流石って感じだよ~」


「ほう。予約の件に関しては知らぬが、青木たちめ殊勝な心掛けではないか」


「ちなみに予約ってどれくらい入ってるの? 小鈴ちゃん知ってる?」


「半年先まで埋まっているって言ってたかな?」


「ゲホッ、ゴホッ!」


「…………」


「なんじゃと……」


 気軽に聞いたノワールが思わず噎せ込む。その隣では、ベリアルが僅かながらに表情を歪めていた。そして、大竹丸はそこまでの事態になっているとは想定していなかったのか、顔色を蒼褪めさせる。


「そこまで働き詰めなの!? 嫌なんだけど、ボク!?」


「むしろ、このペースだともっと増えるのでは? 我もモンスターたちの機嫌の調整などが大変になるから、少し休みが欲しいぞ……」


 当然のように抗議の声を上げたのはノワールだ。そして、ベリアルは冷静に状況を解析する。次々に不満を漏らす風雲タケちゃんランドの従業員たち。この時点で、大竹丸はとっておきの切り札を切らざるを得なかった。


「仕方ないのう……。妾の百鬼夜行帳も使うとするかのう……。それで、少しは作業の負担が緩和出来れば良いのじゃが……。嬢とかにまた恨まれる要素が増えそうじゃのう……。あと、あれじゃ! 青木たちが予約入れてきたら真っ先に妾の目の前に連れてこい! 説教じゃ! 説教!」


「青木さんたちが悪いわけじゃないと思うんだけどなー……」


「じゃあ、特訓じゃ! 特訓! 地獄を見せてやろうぞ!」


 かくして、冬休み期間中にもう一度、風雲タケちゃんランドを訪れることになる青木たちには説教代わりの地獄の特訓が課されることになるのだが……今はまだ知らぬが仏なのであった。

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