第20話 鬼、重要事項を見落とす。
DPというものがある。
これはダンジョンマスターであるノワール曰く、ダンジョンポイントの略で、冒険者カードの中で、あるいはダンジョンマスターたちの間で
DPを増やすには――。
探索者たちはダンジョンの中でモンスターを討伐する。
ダンジョンマスターたちは探索者たちの死体、あるいは武器防具の吸収、もしくは探索者たちのダンジョン内へ侵入される。
――といったことで得ることが出来た。
そんなDPの主な使い道は『買い物』だ。
ダンジョンマスターはダンジョンの拡張やモンスターの雇用にDPを支払い、探索者はDPによって自分の力を増強させる武器防具を手に入れることが出来る。そしてそんなDPで買うことが出来る代物の中に、スキルスクロールと呼ばれるものがある。
スキルスクロールは一見すると羊皮紙で作られたただの巻物なのだが、縛っている紐をほどいて中を読んだのならあら不思議。読んだ者に新しい技術を与えるという何とも不可思議な道具なのである。例えば、剣術初級のスキルスクロールを読めば、剣など握ったことがない素人でも剣道の初段くらいの動きは出来るようになるといった感じだ。ダンジョンの専門家曰く、『スキルスクロールを開くことで経験が
そして、そんなスキルスクロールには剣術だけでなく、槍術や弓術、斧術、棍術などもあったのだが、何よりも人々を惹き付けてやまないスキル群があった。
それが魔法である。
「
DPで買える代物の一覧をダンジョンマスター専用のタブレット型端末で確認しながら、ノワールはそんな感想を漏らした。ちなみにこれらのお値段はそんなに安いものではない。基本的なダンジョンに出てくる一階層の雑魚モンスターを一匹狩ることによって得られるDPが一であり、現状の日本円換算だと百円程度の価値だとされている。
つまり、一番安い幸運の魔法のスキルスクロールだけでも十万円もするというわけである。普通の一般市民だと物凄く高く感じるのだが、お金というものはあるところにはあるもので、社会的に成功している者たちは特に苦もせずに探索者たちから(多少色を付けて)スキルスクロールを現金で買っているのであった。更に言えば、実力派の(強いモンスターを倒してDPを効率的に貯めることが出来る)探索者には金持ちのスポンサーが付いたりもしているらしい。
そしてそれだけスキルスクロールが横行するようになってくると、大竹丸の商売は上がったりになってしまうわけで……。
「そうじゃな。辛い思いもせずに時間もかけずに、手軽に手に入る神通力にのような力があるのじゃったら、まぁ、手軽に手に入る方に人は流れるじゃろう。じゃから、妾は新たな商売としてダンジョンアクティビティをやろうと思うておる……」
「ダンジョンアクティビティ?」
「何だそれは?」
聞き慣れない言葉にノワールもベリアルも困惑顔だ。それもそのはず、ダンジョンアクティビティは大竹丸の
「簡単に言ってしまえば、探索者を鍛える施設じゃな! ダンジョンを使ってダンジョン探索の技を磨くような施設じゃ! ウリは何といってもダンジョン探索の経験が稼げながら死ぬことがない点じゃ!」
「死ぬことがないって……何で?」
「妾が分け身の術で利用者に付いていくからのう。どんな環境からでも生還は可能になるという寸法じゃ!」
「あぁ、うん。凄いね。凄い自信だね」
まさしく大竹丸にしか出来ない商売である。このシステムであれば同業他社が、おいそれと競合してくることもあるまい。
「更にアクティビティの種類も豊富じゃ、戦闘訓練はレベル一から百までを用意! 罠解除訓練も十レベルまで用意したぞ! 更にダンジョンキャンプ体験や謎解きチャレンジまで設置! 勿論、探索者とは別に随伴者もいるであろうことも考えて温泉付きのホテルも用意したのじゃ! これでお子さん連れでも安心! これこそが妾が考えた次世代の形! ダンジョンアクティビティなのじゃ!」
「なるほど。爆発的に増える探索者とやらをターゲットにしたわけか。鬼娘よ、考えたな」
顎に手をやり、思わず唸ってしまうベリアル。だがノワールは逆に白い目で大竹丸を見ていた。
「あのー。ちょっと良いですか、タケ姐さん?」
「なんじゃ?」
「これ、ダンジョンで商売するとなると政府への届け出とか、何か資格みたいなものが必要になるんじゃないですか? あと致命的にアクセスが悪いので人が来ないと思います」
大竹丸はちらりとノワールに視線を向けた後、「ははは、そんなもの……」と言い掛けて再度ノワールをガン見。見事な二度見をみせる。
「しまったぁ! 資格とか免許とか必要かもしれぬってこと考えとらんかったぁ!」
「いや、致命的なのは交通の便で……」
「資格とか免許とか考えておらんかったー!」
「この人、一番致命的なことは無視するつもりだ……」
頭を抱える大竹丸に白い目を向けながら、ノワールはひっそりと嘆息を吐き出す。
このダンジョンは人類にとっては非常に素晴らしいダンジョンなのだろうが、ノワールたちダンジョンマスターにとっては非常に攻めやすい砂上の楼閣であると言えた。何せダンジョン内にモンスターがいない。罠も一部の部屋に入らなければ作動しないし、それこそダンジョンコアの位置も瞬く間に分かってしまうだろう。そしてそんなダンジョンを守るのは大竹丸とベリアルの二人だけのようだ。
このままではあっさりと死んでしまいそうなので、ノワールはひっそりとダンジョン内に高レベルモンスターでも飼おうかなと考える。だがそれが要らぬ心配であるということに気が付くのはまだ先の話だ。
「アレじゃ。昔のコネで何とか出来ぬか、政府のお偉いさんに聞いてみようぞ!」
「え? こんな山奥なのに携帯電話繋がるんですか?」
「携帯は無理じゃ。衛星電話で掛ける」
「…………」
電話とは何だ? と疑問の声を上げるベリアルを余所に、やはり立地が致命的なのでは? と考えるノワールなのであった。
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