第8話 鬼、魔神王と相対す。②
間欠泉のように噴き上がる赤い砂。だが、それはただの加速の影響に過ぎない。それが一度に六千近くも上がれば、もはや大瀑布だ。
赤き砂の上を黒の弾丸となって疾走する大竹丸たちの手にはいつの間に作り出したのか、鈍い輝きを秘めた大太刀がそれぞれに握られていた。小鈴に与えた
数多の魔剣、聖剣などと比べると地味な性能かもしれないが、大竹丸が使うことによって大通連はそれこそ比類無き力を発揮する武器となる。
『死ねぃ! 矮小なる存在よぉ!』
白銀に輝く甲殻に覆われた百足の化け物が大竹丸に向かって襲い来る。その百足の甲殻は近付いて見れば細かな突起が無数に付いており、触れただけでおろし金にすりおろされたようになってしまうことは容易に想像出来た。無論、百足の化け物も自分の特性は良く知っており金属のように硬い甲殻にくるまりながら体ごと突っ込んでくる。
「突っ込むだけならお笑い芸人にも出来るじゃろがー!」
振るう腕も見せずに大竹丸が白銀百足と交差すると百足の体は即座に無数に分かれて後方へと流れていった。白銀百足の臓物と血が湯気を立てて大地にばら撒かれ、赤い砂を更に赤く染める。
一呼吸の間に千もの斬擊を叩き込んだ大竹丸は何事もなかったかのように進撃を再開する。だが、そこには小山のような鰐頭の大亀が進路を塞ぐようにして佇んでいた。なんともはや邪魔な存在である。
(鰐頭の亀? いや、甲羅を背負った鰐なのかもしれぬ……)
益体もないことを考えていたのが悪かったのか。大亀が先手を取ってあんぐりと口を開ける。それを見た大竹丸は慌てて鼻を摘まんでいた。
「亀は淀んだ水の中におるから、息が臭いのじゃぞ!」
「阿呆か、妾よ! あれは毒息の体勢じゃ! ――仕方あるまい! 風よ!」
横合いから出てきた別の大竹丸が神通力で風を吹かせ、鰐亀の毒息を敵方へと散らしてしまう。それを受けた悪魔の軍勢はなまじ数がいるだけに回避することも出来ずに大勢が泡を噴きながら喉元を押さえている。そして、大した時間も
「これだけおれば、狙いを定めずとも何かしらには当たるのう。――雲よ!」
更に大竹丸を狙って横合いから飛び掛かってきた双頭の巨大な狼を斬って捨てる別の大竹丸。彼女が呪を唱えるとそこから禍々しい黒雲が出現する。それを風を操る大竹丸が集めて回転させると、黒雲は一気に雷を伴う積乱雲となって戦場に立ち昇っていた。風を操る大竹丸と雲を操る大竹丸が声を合わせる。
「「――
戦場がピカリと輝いたかと思うと次の瞬間には豪雨の如くに落雷が降り注ぐ。悪魔たちは罵詈雑言の悲鳴を上げながら逃げ惑うが、落雷はただの雷ではないのか、逃げ惑う悪魔たちに追い縋るようにして次々と命中しては命を刈り取っていく。それは、厚い甲羅に覆われた鰐亀に関しても一緒だったらしく、落雷に打たれるなり、ガクガクと身を震わせて活動を停止する。
「ふむ、善き雷じゃ。ならば、その火種を少し借りるとしようか。――炎よ!」
更に背後から追い付いた大竹丸が呪を唱えると、燻った悪魔の肉体から炎が燃え広がり、あっという間に辺り一面を業火の海へと変えてしまう。生きながらにして、肺を、喉を焼き尽くされる悪魔たちは悲鳴を上げることも出来ずに炭化して崩れ去ることしか出来ない。
炎の舌が次々に悪魔から悪魔へと飛び移っていき視界一面が地獄の如き光景へと変貌していく中、それでも悪魔の軍勢の行進が止まることはなかった。
中には炎によって崩れゆく自分の体を無理矢理動かして特攻宜しく大竹丸たちに突っ込んでくる猛者さえいる始末だ。それを氷で出来た飛剣三百を即座に作り出して串刺しの刑にしながら、大竹丸は額の汗を拭う。
「流石に数が多くないかのう!?」
『ギェギェギェ! ギギィィー!』
全身に炎が着火した躍り狂う巨大キノコが大竹丸に迫るが、それもすぐ近くにいた別の大竹丸が刀の峰で殴り飛ばす。「ナイスホームランじゃ!」などと嘯く大竹丸たちの連携は完璧だが、数の差は如何ともし難い。特に一部の隙を突かれた大竹丸の中にはダメージを負っている者もいるようだ。
「妾よ! このままじゃジリ貧になりかねんぞ! 頭を潰すのが肝要と考えるがどうじゃ!」
炎を纏った蛇が黒煙の中から飛び出すも、それを冷静に氷剣を射出して撃ち落とす別の大竹丸。その意見を聞き、大竹丸はこくりと頷きを返していた。
「分かった。大技を使う! その間の時間稼ぎを頼むぞ、妾たちよ!」
「「「任せよ、妾よ!」」」
一人の大竹丸が大上段に大通連を構え、精神を集中させる為か目を閉じる。そして、他の大竹丸たちはそんな大竹丸を守護するようにして囲いを形成する。
対する悪魔たちも大竹丸が何かをやろうとしているのに気が付いたのだろう。自分の体が炎に焼かれ、氷に貫かれ、雷に打たれようとも怯むことなく襲い掛かってくる。
その光景は獲物に襲い掛かる本能というよりも、どちらかというと不安や恐怖に駆られての行動に見えたのは気のせいだろうか。
悪魔たちの必死の抵抗。だが数だけの有象無象が集まった悪魔の集団では、圧倒的精鋭で守りを固めた大竹丸の防壁は崩すことが出来なかった。やがて、大竹丸はゆっくりと目を見開く。
「――
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